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ワタシがイタメテきたからよ - 傷心を誇る -

「気持ちいい〜!なんで痛いところ分かるん?ランちゃん、さすがやわ」
タイ古式マッサージが好きで、ランちゃんのマッサージ店に10年近く通っている。タイではマッサージは国家資格なので、資格を持っているタイ人の腕はいいことが多い。今年還暦を迎えるランちゃんは、とりわけ上手だ。
「ワタシがイタメテきたからよ。ワカイヒト、ちしきでツボおす。ワタシ、ケイケンでツボおす。じぶんがイタくなると、あいてのイタミもワカル」
なんだか、深い。

心に傷を負ったときも、専門家の話で癒やされることもあれば、経験者の話で癒されることもある。
痛みを経験したことのない人が知識でツボを押すのと、自分が痛めたことのある人が経験でツボを押すのとでは、癒やされ方が違う。
世の中には、話に聞くだけでは知りえない、知ったフリになってしまう苦労がたくさんある。知識で癒すことはできても、心ごと寄り添って痛みをほぐせるのは、同じような経験をした人なのかもしれない。

誰にでも、他人がいなくては一日も生きられないときがある。
赤ちゃんのとき、病気や怪我をしたとき、弱ったとき、衰えたとき。いま私が生きているのは、誰かが、私に生きて欲しいと願ったから。必要なときに、誰かが私のそばにいたから。
全ての言葉に耳を傾けると、つらくなってしまうことがある。傷ついて泣いてしまうことがある。でも、傷ついた心の穴を、ふさいでくれる人もいる。その優しさに、また泣いてしまったりする。
泣いて泣いて強くなる。泣いて泣いて優しくなる。

いつもサービスしてくれるランちゃんにお礼をいって、店を出る。ほぐしてもらったあとの体は軽く、心まで少し軽くなる。
痛みを感じたら、感傷に浸るのではなく、誇りに思ってみようかな。「あいてのイタミもワカル」人になったことに。

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