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妃の位も何にかはせむ

「妃の位も何にかはせむ」。

この言葉は、日本の古典文学のひとつである『更級日記』(作者は菅原孝標女)のなかの有名な一文である。現代語に訳すと「お妃様の位(くらい)なんてどうでもいいほどサイコー!」といった感じだろうか。

『更級日記』は、作者である菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)が少女だった頃、現在の千葉県市原市に一家で住んでいたところから始まる。現在からだいたい1000年くらい前に書かれた話である。

(こちらは、私の愛してやまない作家•江國香織さんが現代語訳を手がけた『更級日記』である。とりあえず読んで。)

菅原孝標女は、当時の京(京都)で大バズリしていた『源氏物語』が読みたくてたまらなかった。

しかし、当時はWi-Fiもなければ印刷技術もない時代である。『源氏物語』が京でバズっても、ひとつひとつ手書きで物語を書き写し、製本していた時代だから、京から遠く離れた市原の地で『源氏物語』が届けられるのは非常に難しかったのである。現代ならAmazonでポチッとすれば次の日には届くのにね。

そんな折、親族のつてで『源氏物語』が手に入る。孝標女は大喜びで、寝転がって物語を読みふけりながら「(こんなことができるなんて) お妃様の位なんてどうでもいいほどサイコー!」と思うのである。

読書大好き人間の私にとっては、1000年前に孝標女が感じた「サイコー!」の気持ちがものすごーくよくわかる。特に今日みたいな雨模様の日、毛布にくるまってベッドの上で思う存分読書しているときなどには。

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とはいえ、私はやんちゃ盛りの2歳児を育てているので、思うままにだらだらできる時間はそんなに多くない。そんな私にとっての読書チャンスは、息子が寝たあとだ。

最近はもっぱら、Kindleで歴史小説を読んでいる。起き上がる気力がなくても、寝たままスマホで小説が読めるから最高だ(視力は悪くなるが)。

歴史小説はほんとに面白い。てっとりばやく別世界に没入できる。舞台俳優をしていたから、定期的に「別世界」で「自分以外の人物」として生きていた私にとって、現実以外の世界に潜り込む時間は必要不可欠なのだ。

ところで、読者の皆さんは「歴史小説」とか「時代小説」というと誰の作品を思い浮かべるだろうか。『龍馬がゆく』や『坂の上の雲』など超大作を書いた司馬遼太郎?江戸時代を舞台にした人気シリーズ『鬼平犯科帳』を書いた池波正太郎?

いずれにせよ歴史小説、時代小説といえば「オジさんが読むもの」「渋い」みたいなイメージがあるだろうか。そんなことはない。私がおすすめする歴史小説作家•永井路子さんの作品は、女性にこそ読んでほしいものばかりだ。

永井さんの作品の多くの主役は女性である。先ほどの菅原孝標女のように、歴史上では「誰かの娘」だったり「誰かの妻」であった、いわゆる脇役として登場していた女性たちを主役にして、彼女らの生き様を見事に描いている。

今私が読んでいる『王者の妻』は、豊臣秀吉の妻•おねねが主人公だし、

大河ドラマ『光る君へ』に登場する藤原道長の妻•倫子の視点から物事を描いた『この世をば』という話もある。

そのほか、織田信長の妹•お市の方や、平清盛の妻•時子が主人公の作品も。どれも女性の生き様が力強く、ときに悲しく描かれており、読み進めながら、物語のなかの彼女らに力をもらえるストーリーだ。

歴史小説というと、時代背景や専門用語がわかりづらくてとっつきにくい、という方もいるだろう。しかし多くの歴史小説は、当時の時代背景や風俗、倫理観なども丁寧に書かれているので、意外とサクサク読めてしまうのである。

おそらく私は今夜も、眠る息子の隣で歴史小説を読む。そして遠く離れた彼女らに思いを馳せながら「妃の位も何にかはせむ」とニヤニヤしているはずだ。

ご褒美タイムのために、もうひとふんばりしよう!

(Day.4)

▽ポートフォリオを更新しました。丁寧であたたかみのある文章が得意です▽


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