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【レベルムーン】ここがヘンだよ日本語タイトル【翻訳やっつけ仕事?】

ちょっと日本語タイトルがクソ翻訳だったので。

英語
Part One: A Child of Fire
Part Two: The Scargiver

日本語(公式)
パート1:炎の子
パート2:傷跡を刻む者

日本語(私の提案)
パート1:戦火の申し子 / 戦火の落とし子
パート2:傷を与えしもの / スカーギヴァー

解説していきます。

▼パート1:炎の子

日本公式は直訳すぎます。

●脳死プレイの直訳である

脳みそを持っている人が映画を観れば誰でも判りますが、Fireというのは単純な炎ではなくて「戦争の炎」のことです。(=戦火)

https://youtu.be/2NYg2Z7GyHw

日本で「炎の***」と表記すると、どちらかというと努力や情熱といったポジティブなイメージが伴うことが多いですが、本作での炎は戦争によって生まれた破壊や犠牲や被害のことを指すネガティブなワードです。

映画の冒頭で主人公コラ(演ソフィア・ブテラ)が悲しい心情を吐露するシーンのセリフにもあります。私は戦争の子だ(I am a child of war)と。もうこれだけでFireを「戦火」と翻訳する十分な理由になります。

さらに続けてコラが生い立ちを語る場面では、自身が戦争孤児であることと、そこからバルサリウスに拾われて、英才教育を受けて、非凡な戦闘員としての才能を発揮して若くして指揮官に任命されるなど、『戦争の天才』だったことも明かされます。そして実際にコラが戦うとメチャクチャ強いです。

ここからChildの正しい翻訳は、戦争のために生まれた非凡な子として「申し子」にするとか、あるいは孤児になった悲劇とか、コラ自身の望まれなくして生まれたという煩悩を反映して「落とし子」にするとか、もう少し工夫するべきでしたね。

申し子
 神仏に祈ってさずかった子。「八幡様の―」
 霊力を持つものから生まれたように見える子。「天狗の―」
 あるものの特性を著しく反映して生まれたもの。「国際化時代の―」
落とし子
  →落胤に同じ。(主に身分の高い人が)正妻以外の女に生ませた子。
 ある物事の影響により生じたもの。「戦争の―」

まあ観客が自身の読解力で「ああ、炎の子ってそっちの意味か」と気づけばそれで良いという考えもあるかもしれませんが、文学的なタイトルやセリフに定評があるザック・スナイダー監督作品で、このマヌケな邦題は止めてほしかったなあと強く思わずにはいられません。

もう少し映画に愛があって教養がある人材に仕事を頼めなかったのかよ。(怒り🤬)

▼パート2:傷跡を刻む者

日本公式は誤訳です。

パート1はまだ許せる範囲でしたが、パート2は致命的です。

●シンプルに誤訳である

原題のScargiverは造語です。英語の辞書に載っている既存の言葉ではありません。ただし2つの単語を繋げただけなので意味は(英語が話せるなら)誰でも判ります。(私たち日本人が「激おこぷんぷん丸」という言葉を聞いて内容を察するのと同じです)

scar(傷)+giver(与えるもの)なので、シンプルに「傷を与えるもの」とするか、ザックの映画らしく文学的にするなら「傷を与えしもの」と助詞を古風にすれば良いのです。

しかし日本語タイトルでは「傷跡を刻む者」と表記されています。日本語は時制が曖昧な言語ではありますが、これだと『すでについてた傷跡を、もう一度なぞる人』という意味に取れます。これでは、かなりニュアンスが異なります。

翻訳の鉄則は《何も足さない、何も引かない》ことですが、ここから逸脱しているために余計なノイズが入って誤訳になっています。

https://www.empireonline.com/movies/news/zack-snyder-endless-movie-tv-plans-rebel-moon-exclusive/

●映画の内容にも正しくない

まだパート2公開前なので100%の確実ではありませんが、パート1を観ただけで日本語タイトルは99%間違っていることが判ります。

パート1では後半で、ある人物のあだ名がスカーギヴァー(The Scargiver)だったことが明らかになります。ところが、これは映画の前半で出てくる別の人物のあだ名ライフギヴァー(The Lifegiver)の対語でもあるのです。

ライフギヴァーは古き伝説のイサ王女のあだ名で、彼女は死んだ生物に再び命を与えることができるためにこう呼ばれていました。まさにLife(命)+Giver(与えるもの)ですね。

であればスカーギヴァーは当然に『傷を与えるもの』になるでしょう。だったら、なぜそうしないのでしょうか。理解に苦しみます。(※ちなみにここでの「傷」も、Child of Fireの炎と同じく比喩的な表現になっていて、本来意味するのは「死」に近いニュアンスですが、ここではまだ曖昧に傷と書いてボカしておくのが良いでしょう)

しかもライフギヴァーは日本語字幕でも『命を与える者』と書かれています。そこまで正しく翻訳できているのに、どうしてスカーギヴァーであんなバカな間違いを犯すのか、ますます理解に苦しみます。

原文では「傷を与える」としか書いてないのに「傷跡を刻む」と動作イメージを限定しているのも悪手です。これにより、物理的に刃物などで削るしか出来なくなりました。誰かに傷を与えるのって刃物以外では不可能ですかね。銃で撃つのもあるし、言葉による暴力もあるし、法律による制圧もありますよね。そういう多様に広がるイメージがバッサリ捨てられて、対象物を尖った物で引っ掻く動作に矮小化してしまっているのです。これは由々しき事態ですよ。

もう少し映画に愛があって教養がある人材に仕事を頼めなかったのかよ。(怒り🤬)(本日2回目)

●マヌケな誤訳である

「傷ではなく傷跡」にしたのも相当なマヌケです。

傷にすれば、その傷が原因で死ぬこともあります。

しかし傷跡にすれば、その傷を負った後に生き延びたことになります。

ライフギヴァーの反対語なのだから、命を奪うレベルで傷を与えなきゃいけないのに、ある程度は回復してるなんて、こんなマヌケな話がありますか。

本編中でThe Lifegiverを「命を与えし者」と書いてるので、だったらThe Scargiverは「命を奪いし者」と意訳強めに翻訳しても良かったし、むしろそちらの方が中二病感があって正確だったとさえ思います。

そもそも日本語で「傷」と「傷跡」ってあまり差がない単語です。英語だと血が出ているのが傷(wound)で古傷になったものを傷跡(scar)と明確に使い分けますが、日本語はどちらも傷(キズ)と呼ぶのが一般的です。むしろ傷跡って生き物に対しては使わないんじゃないでしょうか。

であれば言葉のリズムの良さを考慮して、素直に「傷を与えし者」で良かったと思うんですよねー。

日本語で「顔に傷がある男」とはよく言うけど、「顔に傷跡がある男」ってあまり言わないでしょ。だから英語タイトルのscarを直訳して「傷跡」にしてしまった日本の翻訳担当者のミスだと断言できるでしょう。

英語を勉強する前に日本語を勉強しろ!と強く思いますね。

●やり過ぎた意訳の可能性もある

さらに「者」という漢字を当てているのも気になります。

英語でgiverといえば「与えるもの」という意味になりますが、これは人に限った話ではありません。「者ではなくて物」かもしれないです。

例えば、パート2のクライマックスで「私はスカーギヴァーじゃない。お前でもない。この帝国のシステム自体が人々に苦しみと不幸を与えるスカーギヴァーだったのだ!」という結論になる可能性だってあります。

だから私は「傷を与えしもの」と平仮名にして余白を残しました。

漢字は便利なツールですが、意味を限定してしまう場合があるので注意が必要ですね。

今回のネットフリックスジャパンのようにgiverを「者」だと制限するような翻訳していると、《誤訳の女王》として名高い戸田奈津子師匠せんせいが過去にスターウォーズやロードオブザリングで残した《やり過ぎた意訳》と同類になってしまうリスクがあります。

戸田奈津子師匠の事例紹介:
原文:I am a servant of the Secret Fire, wielder of the flame of Anor.
直訳:わしは神秘の火に仕える者、アノールの焔の使い手じゃ
戸田奈津子の字幕:わしは生命の創造主 秘密の炎につかえる者だ!
批判の理由:生命の創造主という意味は原文のどこにもなく文字数を無駄に増やしているだけ。'Anor'はエルフ語で太陽であって、秘密の意でもない。

https://arda.saloon.jp/?%E6%88%B8%E7%94%B0%E5%A5%88%E6%B4%A5%E5%AD%90

▼ネットフリックス日本公式に届けたい:

パート2の公開は来年の4月です。

まだ修正が間に合います。

日本公式のネットフリックスは弱小アカウントの私が個人で公式サイトに意見したりTwitterで訴えたくらいでは動きません。個々のカスタマーの声に真摯に向き合っているほどの彼らにはリソースがありませんので、そこは仕方ないです。

しかし拡散されて、人が集まって、声が高まって、ムーブメントが大きくなれば話は変わってきます。ネットフリックス日本公式が無視できないくらいまで炎上させてください。大歓迎です。

この炎上のゴールは、ネットフリックス・ジャパンにレベルムーンPART2の日本語タイトルを修正させることです。それ以上は求めません。

本稿を読んで共感していただけた方は、SNSでの拡散や声かけに協力していただければ幸いです。まずはこのnoteのいいねを押して、一言ご自分の言葉を添えてリンクを貼ることから始めてください。

私はある程度英語が堪能なので今回書いたような違和感に気づき、ザックの意図を正しく理解できましたが、日本人の大半はそうではありません。英語が苦手な方々にも、ザックのメッセージが正しく伝わってほしいと強く願います。

どうかご協力お願いいたします。

(了)

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