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本の紹介

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記事一覧

本心

平野啓一郎さんの新作が気になっている。最愛の人の他者性という見てはいけないパンドラの箱みたいなテーマならば尚更。言葉では何とでも言えるし言葉だけを信じていると痛い目にあうことはわかっている。しかし、本心を知ればその人に幻滅してしまうかもしれない。だから人は言葉に逃げるのではないだろうか。

愛が冷める時、そこには必ず本心がある。本心を隠したまま生きていくのは苦痛を伴う。だから好きな人にはせめて本音

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巡礼の年

記憶はいつか忘れてしまうだろう、でも歩んできた足跡と歴史を消すことはできない

歴史そのものに深い意味なんてない。ただ起こるべきことが起こっただけ。その出来事が自分にとって重要なものであるかどうかは後になってみなければわからない。後悔が残るかもしれないし、感謝するかもしれない

新宿からフィンランドへの直行便があればいいのに。そんな夢みたいなことを思わずにはいられなかった。

ブルーに生まれついて

クローバに囲まれて暮らすように生まれついた人たちもいる
でもそれは限られたわずかな人たち
クローバーの緑なんて目にしたことはない
だって私はブルーに生まれついたのだから
空に黄色い月が浮かんでいるとき
光があふれているとみんなは言う
でも月の光は黄金色だし
それは私の目には映らない色
だって私はブルーに生まれついたのだから
あなたに出会ったとき世界は輝いていた
あなたが去ったとき帳が降りてしまった

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ティファニーで朝食を

オードリー・ヘップバーンが主演したあまりにも有名なタイトルだが、映画の方はまだ観ていない

つい最近まで原作があることすら知らなかったけど村上さんが翻訳しているということで読んでみたらハマってしまい、一気にトルーマン・カポーティのファンになってしまった

あとがきで村上さんが書いているけど、カポーティのナイフのように鋭くて完璧な文章を読んでしまったおかげで村上さんは29歳になるまで小説が書けなかっ

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キリマンジャロの雪

「愛してないね。これまでだって」
「何を言うの、ハリー?どうかしてるんじゃない、頭が」
「いや。もともと頭なんかないんだよ、おれには」

豹がキリマンジャロの頂上を目指したのは、きっとそこが自分の死ぬべき場所だと知っていたからなのかもしれない。迷ったら頭なんて捨ててしまえばいい。心ゆくままに。

この悲しみの世に

我が心の友に薦めてもらった本。

いきなりシナイ山を登るところから始まる。これは神の楽園を追放されたアダムとイヴの物語なのだろうか。有名なモーゼの十戒には次のようなものがある

「隣人の妻を欲してはならない」

愛は時に掟を破り、神に背く。インドの聖者と呼ばれたラマナ・マハルシは「隣に住む人妻が魅力的で間違いを犯してしまいそうで恐い」と相談に来た信奉者に対してこう言った。「たとえ間違いを犯したとし

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DAOKOの赦し

DAOKOの不思議で妖艶な魅力はその声やルックスにとどまらず、文章にも滲み出ている

最近までDAOKOが小説を書いている事を知らなかった。正直、最初はそれほど期待もしてなかった。人気シンガーが趣味で書いた作品なのだろうと。しかし、読んでみると僕が持っていた先入観はぶっ飛ばされ、面白くてページをめくる手が止まらず一気に読み終えた

若干20歳そこらの女の子が音楽と絵と文章の才能を兼ね備えているとい

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ラオスとくまモン



8月の大阪旅行で宿泊したゲストハウスに置いてあった本。面白かったので後日、注文して読んだ

村上さんの旅行記。ボストン、アイスランド、ギリシャ、フィンランド、ラオス、熊本、等々。アイスランドやラオスはあまり馴染みのない場所なので勉強になった。タイトルの「ラオスにいったい何があるというのですか?」とは村上さんが中継地のハノイで、とあるベトナム人から実際に発せられた一言。そのくらいラオスに行く人は

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生と死は等価



「生きることだけに多くの力を割いてしまうと、うまく死ぬることができなくなります。少しずつシフトを変えていかなくてはなりません。生きることと死ぬることは、ある意味では等価なのです、ドクター。」

沈黙は詩的



「オレは100万回の人生で、100万回、幸せについて考えた」
「答えはわかった?」
「どこかでわかっていたなら100万回も考えない」
「そりゃそうだね」
「でも、なんとなく予想はついたよ。つまり幸せってのは風を感じることなんだ」
「ずいぶん詩的だ」
「猫はおしなべて詩的だよ。君は詩的じゃない猫に出会ったことがあるかい?」
「どうかな。たいていの猫は喋らないから」
「沈黙は詩的だよ」

(「いな

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ゆっくり読んで、ゆっくり書く。



小学生だった頃の話。僕が国語の教科書を忘れてしまい、隣の子に見せてもらう機会があった。だが、一緒に読み進めていくとその子はとんでもなく読むのが速かった。1ページを数秒で読み終えてしまう。「何でそんなに速いの?」と疑問をぶつけてみたところ「え?普通に読んでるだけだよ」と逆に不思議がられてしまった

僕は昔から本を読むのが遅く、それは大人になっても変わらなかった。どうやらそれは目に原因があることが

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マチネの終わりに



遅ればせながら、ようやく読み終えた。クラシックギタリストと美人ジャーナリストの切ない恋愛小説。だが、これは単なる恋物語として読むのではなく、おそらく多くの人にとって忘れかけていた優しさや純粋な感情をそっと届けてくれる手紙のような役割を担っているのかもしれない。特にあの震災以来、日本人はとても疲弊してしまっている。自分では気づかないほどに

主人公の蒔野と僕の年齢が割と近いことやギタリストという

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語彙力なんて必要ないのかもしれない



僕が人生で度肝を抜かれた小説の一つにアゴタ・クリストフの『悪童日記』がある。

この小説にはいわゆる「固有名詞」というものがほとんど出てこない。双子の悪ガキが主人公なのですが「ぼくら」とか「ぼくらのうちの一人」という言葉で表現されている。地名も「大きい町」や「小さい町」という言葉が使われていて町の名前すら出てこない

こんな小学生でも理解できる程度の語彙力しか使われてないのに、世界に衝撃を与え

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『青い花』ノヴァーリス作



スフィンクスが尋ねた。
「稲妻よりも不意をついてくるものはなんだ」
「復讐よ」とファーベルは言った
「いちばんはかないことはなんだ」
「不当に所有することよ」
「世界を知るものはだれだ」
「自分自身を知るものよ」
「永遠の秘密は何か」
「愛よ」
「愛はどこにある」
「ゾフィーのところよ」

未完の芸術。