見出し画像

【農産物流通の中心】卸売市場流通の課題を整理

産直流通と比較して多段階流通などのデメリットを挙げられることの多い卸売市場流通。
しかし、実は国産青果の8割近くの流通量を現在でも維持しており、私たちの生活には依然として必要不可欠なものになっています。

そんな卸売市場流通のキープレイヤーである卸売業者、仲卸業者、JAにスポットを当て、現在の問題点や今後の展望についてまとめられた本を先日見つけました。

今回は、この本をもとに卸売市場の課題を整理し、日本独自とも言われる流通構造について考えたいと思います。(今回の内容は青果を中心に書いています)

先にまとめです。

【まとめ】
「問屋不要論」は半世紀以上前から唱えられていますが、依然として農産物流通の中心は卸売市場流通です。
しかし、卸売市場の経営状況は芳しくなく、卸売業者の全体の6割が営業赤字、仲卸業者も廃業が相次ぐという状況となっています。
その理由としては、入荷量の減少、出荷者であるJAの指値、販売先であるスーパーなどの値下げ圧力が挙げられ、中抜きという悪いイメージとは裏腹に買値と売値のせめぎ合いに巻き込まれているのが現状です。
そのような状況を打開するためには、需要過多だった頃の川上から川下に農産物を流すだけのスタイルから、消費者のニーズを掴んで産地と連携をとっていくスタイルへ変わっていく必要があります。
仕組みとしてはネットが発達した現代でも替えが効かない大切な役割を背負っている卸売市場流通ですので、情報連携により魅力的な流通手段になってほしいです。

卸売市場の存在理由

半世紀以上前から存在する「問屋不要論」

問屋不要論(または問屋無用論)という言葉があります。
スーパーマーケットが日本に進出してきた1950年代以降から言われるようになり、従来の「生産者 → 問屋 → 小売業者」という形は非効率で時代遅れだとされるようになりました。

1962年には「流通革命」と題された本が出版され、この言葉は当時の流行語にもなったと言われます。

しかし、現在でも問屋と言われる卸売業者や仲卸業者は数こそ減ってはいますが確実に存在し、農産物流通の肝となっています。

卸売市場がなくならない理由

【卸売市場がなくならない理由】
■ 生産者・小売企業双方の規模が諸外国と比べて小さく、卸売市場の機能を代替できないため

一言でまとめると日本で卸売市場が必要な理由は以上のようにいうことができます。

生産者と小売企業の規模についてですが、以下のような比較ができます。
関連記事:【日本の胃袋を支える】卸売市場の大切な4つの機能

【生産者と小売企業の規模の各国比較】
■ 1農家あたりの耕作面積
・アメリカ:178ha(2017)
・イギリス:81ha(2014)
・フランス:52ha(2016)
・日本:3ha(2020)
■ スーパー上位5社の業界シェア
・アメリカ:45%(2012)
・イギリス:65%(2015)
・フランス:75%(2012)
・日本:31%(2021)

日本の平均耕作面積が小さいことは農業に少し詳しい方であればご存知かと思います(それでも大きくなっています)。

どちらかというと意外なのは下のスーパー上位5社のシェアの方でしょうか。
日本ではイオンのシェアが16%で圧倒的ですが、上位5社で足しても30%少しということで他国と比べて低いことがわかります。
(少しデータが古いですので現在はより寡占化が進んでいることが予想されます)

そして、そのような状態では代替することが難しいと言われる卸売市場の機能というのは主に以下の4つです。

【卸売市場の機能】
■ 集荷分化機能
国内外から必要なものを集めて、それを欲しい人たちの要望に合わせて効率的に分けて配る
■ 価格形成機能
需要と供給を反映した公正な価格を形成する
■ 代金決済機能
売買取引された商品の代金を出荷者(生産者など)へ一定期間で確実に支払う
■ 情報受発信機能
取引に関する情報や卸売価格の即日公表をする

市場ということで多くのものが集まって多くの人が買いに来るということはもちろんですが、青果のやりとりは決済期間が短い(数日ほど)という特徴があり、この辺りがスーパー業界での代替を難しくしているようです。

また、日本の卸売市場の特徴として生産者側の立場に近い「卸売業者(大卸)」とスーパーなどの小売側の立場に近い「仲卸業者」がいます。
ここについてもスーパーの集荷力などから存在意義を説明できますが詳しくはこちらに書いています。

現在増えている産直流通とは長所が違う

最近流行りなのがインターネットを使った産直サービスですが、両者は得意な点が異なります。

【市場流通と産直流通の比較】
■ 産直流通(EC):少量で多様な農産物の取引
[得意] 生産者とのコミュニケーションを楽しめる、鮮度がいい、こだわりの農産物がどこでも手に入る
[苦手] 大量の取引、送料を抑えた取引

■ 市場流通:大量で価格を抑えた農産物の取引
[得意] 大量の取引、安定した品数の確保、価格の安定
[苦手] 生産者のことが分からない、鮮度が良くないこともある、大都市以外ではこだわりの農産物が手に入りずらい

私は上記のように整理をしています。
そして、現在の日本では市場流通がまだまだ主流です。

農産物はIT商材と違って有形ですし、工業製品と違って数日でダメになりますし、金額の割に送料も高くつきます。

産地と消費地の距離感が物理的にも心理的にも昔と比べてかなり遠くなってしまった現在では、農家さんがSNSなどで個人として発信することでその辺りの距離感が少しでも近づくかもしれません。

ただ、安定して農産物を消費者に供給するという意味では産直流通が主流になることは考えにくいです。

青果の主な流通経路(2021年)
※数値は業者数

市場の財務悪化とその原因

現代の食生活に欠かせない卸売市場ですが、財務状況は芳しくありません。
2019年度のデータで卸売市場の全体の6割以上が営業利益において赤字となっています。

この赤字は下記の事柄が原因となっていると言われています。

  • 入荷量の減少
    人口減少、中食需要の増加などにより市場への青果物の入荷量自体がピーク時の6割ほどになっています。
    人口が減少すると卸売市場の売上の源泉である農作物を扱う量が減ってしまいますし、中食や外食に使用される農産物は輸入品だけでなく国産品についても市場を介さずやりとりをされることが多く、その理由としては値段が相場で決まる卸売市場よりも、産地との交渉で自ら価格を固定できる方が良いからとされています。

  • 出荷者による指値の増加
    競り取引により値段が決まっていた頃は産地が値段に口を出すことはなかったのですが、スーパーの台頭により相対取引が増えると産地は卸売業者に対して「この値段で買ってほしい」というように指値を提示するようになったと言われています。
    多くの荷を集める必要がある卸売業者はそういった産地からの作物を「自己買受」という形で買受け、仮に購入金額よりも安い金額で売らなければいけなかったとしてもそのマイナス分は卸売業者自体が負担をしています。

  • 川下主導の価格形成
    日本がデフレスパイラルに陥った1990年代後半から仲卸業者に対してはスーパーからも相場を無視した値下げ圧力が強くなりました。また相場が高ければ仲卸業者からの購入量を減らし、冷凍食品などに切り替えるなどの方法を取ることで、仲卸業者にはなす術がなくなってしまい、結果として東京都内では平成元年から4割の仲卸業者が減少しています。

本来は相場による価格形成機能を持っている卸売市場ですが、川上からも川下からも取引価格を要求されることで両者の負担を背負い込み財務状況を悪化させてしまっているのが現状です。

市場と関係が深いJAの経済事業の課題

主に市場へ農産物を出荷するJAですが、全国600弱あるJA(農協)において経済事業(農産物の委託販売、営農指導、資材販売)が赤字のJAは約8割に上ります。

現在のJAは農業を行う人を対象としている正組合員よりも、農業など全く行っていない准組合員の方が多く、両者から預金を集めていることがJAの存続を助けていますが、この准組合員についても今後は制限がかかる恐れがあり信用・共済事業頼みを正す必要性があるというのは兼ねてから言われており、「自己改革」として経済事業の立て直しを図っているJAが多くあります。

JAの販売事業においては、農家から集めた農作物を卸売市場へ流すことで販売活動を終了してしまっているJAが多く、消費地においてどういった作物にニーズがあるのかを把握できていないことが課題とされています。

ただJAというのは株式会社のように上位下達の組織ではないため、JA職員が「こんなものを作ってほしい」と言ったところで、農家さん全員が簡単に首を縦に振ることはなく、金銭面だけでなく地縁的な関係性も強い人たちが集まっているため、組織内の利害関係はより複雑です。いずれにしても組合員とJAの信頼関係や連携が非常に重要になります。

魅力的な流通手段になるために

卸売市場法改正(2020)の主な内容

一部の農家さんや消費者にとっては魅力的でない市場流通

問屋不要論が提唱されてからも、存続している卸売市場ですが、中抜きというイメージが浸透してしまっている部分もあります。
実際にはそのようなことがないことは上述しましたが、ネガティブなイメージがついてしまうのは、消費者のニーズを捉えられていないことが原因として挙げられるのではないかと考えています。
消費者のニーズが多様化している中で、全てのニーズを確実に満たすことは難しいですが、産地と消費地の連携ができておらず、ただ荷物が川上から川下に流れるだけになってしまい、消費者のニーズを掴むという動きが少ないというのが現状です。

「朝どれトウモロコシ」を可能にする仲卸業者

消費者のニーズ把握の不足はJAや卸売業者において言えることですが、スーパーや青果店などの小売店とやりとりを行う仲卸業者については卸売市場からの委託販売だけでは消費者の要求に応える農産物を十分に揃えることができない(スーパーの要求を満たせない)と考え、卸売業者を経由しない産地からの直荷引きという手段をとることも増えています。(元々は原則禁止とされている行為でしたが2020年の法改正を受けて自由に行えるようになりました)

その代表例がスーパーによく並ぶ「朝どれトウモロコシ」だといいます。
仲卸業者が自らとうもろこしを産地から仕入れることで行っていますが、これにより仲卸業者の儲けがあるわけではなく、スーパーとの関係性を維持するためにはこれくらいのことを行う必要があるのです。

外食や中食への対応も要検討

日本の家庭消費における野菜の自給率というのは95%以上ですが業務用・加工用については70%ほどであり、後者の需要は今後さらに増えると言われています。
品目別で見ると既に半分以上が家庭消費ではなく業務用・加工用に回されている品目もありますが、こういった数少ない増加するニーズにどのように卸売市場が対応していくのかを検討する必要もあるかもしれません。

情報連携で仕組みをより機能させる

日本独自の仕組みと言われる卸売市場の仕組みですが、生産者と消費者の間に卸売市場が入ることで取引コストが下がることはマーガレット・ホールにより証明されています。

特に日本のように生産者も小売企業も比較的大規模でない場合はこのことがより顕著に言えますが、多段階流通の場合、意識をしないと情報の行き来が少なくなってしまう恐れは大いにあります。

卸売市場が時代遅れだとする見解も一部であるようですが、それは卸売市場自体というよりも、情報連携の在り方に問題があるという方が正しいと思います。

需要過多だった以前であればそれでも良かったのですが、供給過多となった現代では情報連携の重要性が卸売市場流通の今後を左右することになるかもしれません。

最後に

今回は日本の青果流通の中心である卸売市場流通の課題について書きました。

「問屋不要論」は半世紀以上前から唱えられていますが、依然として農産物流通の中心は卸売市場流通です。
しかし、卸売市場の経営状況は芳しくなく、卸売業者の全体の6割が営業赤字、仲卸業者も廃業が相次ぐという状況となっています。
その理由としては、入荷量の減少、出荷者であるJAの指値、販売先であるスーパーなどの値下げ圧力が挙げられ、中抜きという悪いイメージとは裏腹に買値と売値のせめぎ合いに巻き込まれているのが現状です。
そのような状況を打開するためには、需要過多だった頃の川上から川下に農産物を流すだけのスタイルから、消費者のニーズを掴んで産地と連携をとっていくスタイルへ変わっていく必要があります。
仕組みとしてはネットが発達した現代でも替えが効かない大切な役割を背負っている卸売市場流通ですので、情報連携により魅力的な流通手段になってほしいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?