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第9話 和氣愛愛(わきあいあい)村

翌朝、スカシとシノブはアタシノジョーたちの様子を見に行った。傷の具合も良くなったのか、ジョーとヨウコは起き上がって、スカシとシノブに「ありがとう」と挨拶をした。

スカシ
 「だいぶ良くなったみたいだね。 痛みはある? ちょっと傷口を
 見せて。」

シノブもスカシと一緒に傷口を確認した。野生の遺伝子のなせる業なのか、この島の自然のおかげなのか、予想以上の回復ぶりに二人は驚いていた。

アタシノジョー
 「おかげで、俺もヨウコもすっかり回復したみたいだ。 痛みも
 ない。 何とお礼を言っていいのやら。」

スカシ
 「氣にしなくて不大丈夫だよ。 元氣になって良かった。 ところ
 で、お腹はすいてない?」

昨日の『ミックチュベジタブリュウ』はすっかり空になっていたので、食欲も戻ってきたんだなと、スカシとシノブは安心した。
 そして、『ミックチュベジタブリュウ』のおかわりと飲み水を用意した。

ウシケンヨウコ
 「あなたたちのおかげで命拾いしたわ。 本当にありがとう。 それで 
 ね、さっき、ジョーとも相談したんだけど、このまま私たちをここで
 住まわせてもらえないかしら。 きっと番犬としても役に立つと思うし、
 わたしのお乳もサルモノクレタさんや、あなたたちの栄養源としても
 お役にたててほしいの。」

スカシ
 「ほんとうにいいの? それは助かる。 牛乳やチーズにヨーグル
 ト・・・ 楽しみも増えてく・・・ ここでの暮らしが快適になる
 ように環境も整えるから、要望があったら遠慮なく言ってね。 
 俺たちの方こそ、よろしくお願いします。」

シノブ
 「やった~! また仲間が増えたね。 ジョーさん、ヨウコさん、
 よろしくお願いします。 そして、ありがとう。」

スカシとシノブも、雑穀米ご飯とハーブ茶で朝食をとった。

スカシ
 「これで味噌汁があったら最高だな。 今日は味噌造りかな?」

シノブ
 「うわ~、楽しみ~。 麹はどんな感じかな? 見てみようよ。」

二人は麹の発酵具合を確かめると、スカシの願いが微生物たちに届いたのか、見事に発酵していた。この後の工程は・・・

 ・水洗いした大豆を土鍋で茹でる。
 ・茹でた大豆を水で冷ましたら、すり鉢で潰していく。
 ・潰した大豆を木桶に移して、発酵した雑穀米麹と塩を混ぜる。
 ・木蓋を載せて重石を載せて、さらに発酵するのを待つ。

スカシ
 「今日はここまでかな? 微生物さん、お願いします。 お味噌が
 ちゃんと発酵しますように・・・」

シノブ
 「あたいからもお願いします。 お味噌が美味しく仕上がります
 ように。 うふ。」

スカシには氣になることがあった。それはシノブの両親のことだった。

スカシ
 「シノブさん、俺たちのことなんだけど、ちゃんとご両親に報告し
 た方が良いと思うんだ。 そこで提案なんだけど、俺が挨拶を
 かねて手紙を書くから、シノブさんはいったん里帰りして、
 ご両親に手紙を渡してくれないか?」

シノブ
 「スカシさん、ちゃんと考えてくれてたのね。 ありがとう。 
 そうよね、あたいも、スカシさんへの思いや、おとんとおかんへの
 感謝を伝えた方がいいわね。 わかったわ。 いったん帰ってちゃ
 んと話するね。 おとんとおかんにスカシさんを紹介できるように
 話してみるね。」

スカシはワタリガラスのチカカラスとトオカラスを呼んだ。

スカシ
 「シノブさんが“忍びの里”に帰る道中を見守ってくれないか?」

トオカラス
 「喜んで引き受けよう。 彼女の身の安全は俺たちに任せてくれ。」

チカカラス
 「それにね、彼女のお母さんは、わたしたちと念話ができるから、
 わたしからも二人のことは話しておくわ。 きっとうまくいく。 
 大丈夫よ。 任せておいて。」

ワタリガラスとスカシとの念話がシノブにも感じとれていた。念話が通じてることへの感動と、ワタリガラスの愛情を感じたシノブの目から、とめどもなく涙があふれた。

スカシ
 「シノブさんも、ワタリガラスと俺との念話が通じたんだね。 
 やったね。 心が解放されて、自然との調和ができるように
 なったんだね。 おめでとう。」

スカシ
 「トオカラス、チカカラス、ありがとう。 よろしくお願いします。」

シノブ
 「ありがとう。 みんな、ありがとう。」

シノブは涙を流しながらスカシの懐に飛び込んだ。スカシはそっとシノブを抱いて背中をさすっていた。
 その光景をサルたち、モグラたち、アリたち、クモのアミノアミエ、モリノウタヒメと越冬ツバメたち、バッファロー夫婦、そして島の自然も暖かく見守っていた。

二人は手紙を書くための準備にとりかかった。
 スカシは紙の変わりになる樹皮をナイスナイフで薄く剥いで、ヤスリキヨシで表面を滑らかにした。さらに、木材をナイスナイフで削ってペンを作った。
 シノブは野草から染料を作り、ペン先につけるインクにした。

スカシ
 「ところで、シノブさんのご両親の名前って、聞いてなかったね。」

シノブ
 「う~んとね、おとんは“イザナギンタ”、おかんは“イザナミカ”よ。」

スカシ
 「国が生まれそうな凄い名前なんだね。 シノブさんの名前も
 ご両親の名前もすごく素敵だね。」

シノブ
 「そうかな(照れ笑い)。 ありがとう。」

スカシはシノブへの思いと両親への挨拶と感謝を手紙にしたためて、
シノブに渡した。

二人は来客用に作ったテーブルとイスのところに行き、ここでシノブの両親を迎えることを想像しながら、昼食の準備に取り掛かった。

シノブ
 「ねぇ、あたい思うんだけど、お互い、そろそろ“さん”付で呼ぶの、
 やめた方が良いんじゃないかって思うの。」

スカシ
 「確かに、そうだね。 もう他人じゃないんだし。 ちょっと練習
 してみようか。」

スカシ
 「シノブ。 初めて会った時から好きでした。 俺と結婚を前提に
 付き合ってください。」

シノブ
 「ありがとう。 喜んで。 あたいの方こそ、よろしくお願いします。
 ダーリン(照れ笑い)。」

サルモノクレタ
 「いよ! お二人さん、この時を待ってたぜ。 おめでとう!
 ヒューヒューだよ、ヒューヒュー。」

島の動物たちや自然も二人を祝福した。
 スカシとシノブは顔を真っ赤にしながら、「ありがとう」と感謝を
伝えた。

スカシ
 「シノブが両親を連れてここに戻ってくるまでに、接客用の部屋と
 宿泊施設を用意しておくね。 そうだ。 里との交流も考慮に入れて、
 数十人規模の宿泊施設や大浴場も造っておくよ。」

シノブ
 「うわ~ 楽しみだわ~。 どんどん夢が広がっていくね。 里の
 人たちもきっと喜ぶと思うわ~。」

こうして二人は夢を語り合いながら、のどかな午後のひと時を過ごした。

シノブ
 「ねぇ、ダーリン、“忍びの里”だけじゃなく、今後はいろんなところから
 も訪問客が来るかもしれないでしょ? だから、この村の名前を考えて
 おいた方が良いと思うの。」

スカシ
 「言われてみれば・・・。 村の名前かぁ~。 それもそうだな。
 う~ん。 何にしようか?」

頭を抱えている二人にクモのアムノアミエが話しかけてきた。
 「スカシはこの島でどんな暮らしがしたいのか、決めてたんじゃないの?
 思考が現実になるんだから、あなたの思いを村の名前にしたらいいんじゃ
 ないかしら?」

シノブ
 「そうだよ、ダーリン。 あたいも一緒にその夢を追いかけたいっていう
 思いが強くなったから、プロポーズを受け入れたし、一緒にいたいって
 思ったの。」

スカシ
 「そうか、そうだよな。 アムノアミエ、シノブ、ありがとう。
 自然と調和した暮らしを基本とする楽園を造りたい。 それが俺の願いで
 ありシノブの願いでもあるから、『和氣愛愛(わきあいあい)村』って
 どうかな?」

シノブ
 「素敵! それいい! 決まりだね!」

アムノアミエ
 「素晴らしいわ。 スカシの思いが名前に込められていて良いと
 思うわ。」

スカシ
 「シノブ、アムノアミエ、ありがとう。 よし、早速、看板を
 造ろう!」

こうして楽しい思いを語りながら、一日が終わろうとしていた。
スカシは島で採れた野菜を草で編んだ籠に入れ、シノブに両親への
手土産として渡してもらうように頼んだ。

あくる朝、シノブの出発の時を迎えた。スカシは帰り支度を済ませた
シノブを、サルモノクレタとともに船着き場まで送った。
 上空にはシノブの帰途を見守るトオカラスとチカカラスが旋回し、
モリノウタヒメと越冬ツバメのコーラス隊も美しいハーモニーで、
シノブを見送った。

  この物語はフィクションであり、作者である私の妄想から
  産まれた空想物語です。したがって、登場する人物や名称などは
  実在のものとは異なりますので、ご注意願います。

        つづく

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