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甘えたい、ぼくなりのSOSだよ。


長男が、泣いて暴れた。


何を言ってもぜんぜんだめで、夫とふたり、顔を見合わせて立ち尽くした。
あれこれ声をかけ、共感して、慰め、笑わせようとしたり、物で釣ろうとしてみたりしたけど、ぜんぶだめ。

こんなことめったにない。
おとなしく、理性的な4歳。
でも、アデノウィルスがしんどいのか、眠いのか、夕方彼の気持ちは爆発した。
すでに熱は下がり、どこにも異常はない。




結局、いつもなら絶対しないような電車のアプリゲームをちらつかせて、気まぎらわせて、落ち着かせた。
話を聞いてくれる状態にするために、それが最後の手段だった。
そんな手を使う自分を情けなく思いつつ、今回だけだと見逃してやる。


ご飯を食べるために、わたしの膝に彼を乗せて、「あーん」してやる。
何度もグネグネ身をよじらせつつも、好きな食べ物をちらつかせ、優しくおだやかに声をかけ、テレビもつけ、ゲームの話もして、何とか軌道に乗った。

もぐもぐする長男の頭をなでながら、頭のなかで、考える。


ゲームで釣って冷静になれるってことは、長男は体がしんどいのではなく、意図して暴れているということだ。
それを、「わがままやな」「疲れてるんだろう」と捉えてしまえば、それで話は終わりなのだけど。

でも、ちがう。
長男の出すサインを考えてみる。
この子は、何を訴えたいんだろう。
なぜこんな態度に出るんだろう。

問題行動の裏には、かならず理由がある。
長男は、「泣きわめいて暴れる」という問題を起こしたいのではなく、その問題を起こすことで「なにか」を叶えたい、あるいは訴えたいのだ。



ここ数日の出来事を思い出し、なんとなく、答えは出ていた。

「甘えたい」のだ。


いま、次男もおなじアデノウィルスなので、自然とわたしが次男につき、長男には夫がつきっきりだった。
優しい夫。なんでもしてくれる夫。
お父さんでも満足なんだけど、それでもやっぱり「お母さんに甘えたい」のだ。

ぼくだって、しんどいんだよ。
お母さんに抱っこしてもらって、一緒に寝てもらいたかったのに。
次男ちゃんがいるから、それはしてはいけないっておもって、ずっと我慢してきたんだ。
でも、もう限界!ぼくも甘えさせて!


そうやって素直に訴えることもできず、それでも我慢の限界だった長男の、精いっぱいの自己表現が「泣いて暴れる」だったんだろう。

長男にばれないよう、夫とLINEでそのことを確認しあう。
夫も、「そんな気がした」とすぐ返答してくれた。

そこから、なるべく次男を夫に引き付けて、長男はわたしの膝に乗せたまま、ゆっくりご飯を食べさせた。
お正月の話をしたり、テレビの話をしたりして、リラックスした時間を過ごしていると、だんだん長男も、いつもの穏やかさを取り戻していった。

そのまま、食後すぐにわたしの足に挟まれた隙間で、ひとり寝始める長男。
その顔を見ながら、「ごめんよ」と、心の中で謝った。

かまってあげられなくて、ごめんよ。



そのときふと、わたしも6年生のとき、おなじことがあったのを思い出した。

その頃、あらゆるストレスを抱えていたわたしは、毎晩一人で寝るのを嫌がった。
みんなが寝た時間、急に自室を飛び出し、トイレに閉じこもって、大声で泣くのだ。

12歳。身長150cm後半の6年生が、わんわん泣いて、壁をどんどん叩いたり蹴ったりする。
当然、父も母もびっくりして、飛んできた。


してやったり。

いちばん最初は、わざとではなかった気がする。
それでも何度か目には、わざとそうやって気を引いた自覚がたしかにあった。

母はそれに気が付いたのか、妹や弟の世話で手一杯だったのか、トイレにこもっても駆けつけてくれなくなったけど、父だけは毎度来てくれた。
そして、自分のベットの隣をあけて、手を握って、寝かせてくれた。

5回くらい、それを繰り返したころ、わたしは満足したのかそれを止めた。
ひとりで部屋で寝られるようになった。
今でも覚えているこの出来事。

あれは、あの頃のわたしの、SOSだったのだ。


あのとき、わたしは父の優しい対応や声かけに救われた。
手を握ってもらったときの、あたたかいぬくもりを覚えている。
大きな父のベットの隣に居させてもらえたときの、暗い天井を覚えている。
いびきがうるさくて、自室の方がずっと静かで寝やすいはずなのに、わたしは父の隣で寝ると何より安心した。

長男も、おなじなのだ。

思えば昨晩も、長男は泣いて暴れて、寝室から、わたしのいるリビングに下りてきた。
そして、やかましい次男のいるすぐそばのソファーで、コテンと寝た。
さびしかったのだろう。


心のエネルギーが空っぽなんだね。

そう夫と言い合って、「明日はうんと甘えさせてやろう」と頷きあう。
アデノウィルスは、もうすぐ回復しそうだけれど、心のパワーが満たされるには、もうすこし時間がかかりそうだ。

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