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『くもをさがす』から考える|医療従事者の明るさは善か?悪か?

西加奈子さんの『くもをさがす』を読んだ。

当初、乳がん診療に関わる医師として読むつもりだった。

でも読んでいる自分は、アメリカの医療システムやカルチャーの違いに戸惑った患者としてが強く出た。

あるいは北米の色んな人種がいり混っている地域に住んでいる日本人として。

共感の連続だった。共感の嵐だった。

共感し、魂が揺さぶられた。

私はこんなにヒトに共感したことがあっただろうか?

シェアしたいポイントは数限りなくあるが

今回は医療従事者と患者の関わりにおける

日本とアメリカ/カナダの違いについて

まとめていきたい。


その前にちょっと補足。

私は乳腺分野が専門の放射線科医で、医師15年目で在米5年目。

スタンフォード大学のがんセンターで、1年半臨床見学と研究経験あり。

一方、妊婦健診、出産、産後の緊急入院、二度の流産、子宮外妊娠の手術など

産科の分野において、アメリカで患者としての経験を積んだ。

私も西さん同様、コロナ禍のERで一人で長時間待たされたり

手術後30分で帰宅になったりした身である。


本の中でも出てきたが

アメリカやカナダで、医療従事者は人間として扱われ

ただその時間、その仕事をしている人

という感覚があり、服装や見た目はもんのすごい自由である。

見ためにびっくり


スタンフォードに留学した時

タトゥーだらけ、ピンクの髪、鼻ピアスをしている医療従事者をたくさん見た私は驚きを隠せなかった。

「日本でやったら、速攻苦情が出そう。。」

とすぐ思ったのも、日本の勤務先で

医療従事者の見た目に関する苦情の投書を、たくさん見てきたからである。

・女医のピアスが大きい。

・髪の毛の色が明るすぎる。

・白衣がしわくちゃだった。もっと身だしなみに気をつけるべきだ。


医師の仕事は、診断と治療であるにも関わらず

見ためでこうも文句を言われるものか?

と、私は窮屈さを感じずにはいられなかった。

私は放射線科医なので、ジャッジされるべきは「診断能力」である。

セミナーをやる際は「わかりやすさ」であり

決して見ためでつべこべ言われる筋合いはない。

そう思いながらも、投書されたら嫌なので、それなりに気を使って過ごしてはきた(笑)。


でもアメリカに来てみると

色んな見ための人がおり、それは受け入れられていること

見ためでのジャッジはない。

むしろ見ためへのコメントから会話がしやすい、というくらいに思える。


また医師が白衣を着ていないことも多く

私の産科の主治医はワンピースで登場

Costcoの眼科医はアロハシャツを着ていた。

白衣高血圧はこれで解消(笑)。


また接し方についても大きな差がある。


接し方にびっくり


個々人のキャラや受け取り方にもよると思うが、日本では

▶︎医師→患者 やや高圧的

▶︎看護師→患者 ややへりくだり

に感じるところ

アメリカ/カナダでは

距離が近く、対等

人が人として接している感じ

を受ける。


日本では、かっちりしていないといけないが

アメリカ/カナダではフランク、カジュアルなやり取りでOK。

ナースは年上の私を”honey"や”sweetie"と呼び

お世話に愛を感じる。

きちんと目を見て話し、冗談も言える雰囲気がある。


私が産後3日目、呼吸困難で救急搬送されたとき

ERで会ったナースが、猛烈にガムを噛みながら

"Hi, honey! How are you doing?"

とスーパーカジュアルに言われて、びっくりした時のこと、今でも鮮明に覚えている。

「いや、こっち息が苦しくて酸素吸っとるんやけど…」


明るさにびっくり


『くもをさがす』では医療従事者の明るさ、ユーモアに助けられている場面がたくさんある。

西さんが関西人ということで

英語であるにも関わらず、関西弁を話す、カナダの医療従事者(笑)。

それがプラスアルファ面白くさせているところはあるが

買い物に行ってもどこに行っても、こっちの人ってみんなほんとに明るい!


医療現場も当然明るく、スタッフ同士も雑談しまくっているし

失敗しても、笑いに変える

そう、皆ユーモアがあるのである!


患者として「しっかりしてよ!」と思いながらも

私もツッコミどころがあると、ついついツッコミたくなってしまうタチなので

「えー?さっき◯◯って言ったばっかじゃん?よくそんな簡単にひるがえすなぁ」

と、笑ってしまう場面が何度もあった。

上手く表現できないけれど

患者であっても、私はかわいそうな人ではない。

そういう接し方もしてくれた。



医療従事者の明るさは悪?


医療従事者が明るいことで救われたこと、私にもあるし

西さんにもたくさんあったようであった。


でも私には過去、日本で医療従事者はしんみりしていないといけないとすりこまれたエピソードがある。

一つめは

医学生のとき、模擬患者さんとの医療面接の時に

「先生とお話しするのは楽しかったけれど、私がん患者の設定だから、ちょっと話し方が明るすぎる。」とフィードバックされたこと。

二つめは

初期研修医の時、チームでラウンドをしている時
指導医の先生と談笑していると、その上の指導医の先生に注意された。

「病棟の廊下で笑わない方がいい。不快に思う患者さんがいるかもしれないから。今度から気をつけて。」と注意されたこと。


これらの経験から、「病院で明るいと不快に思う人がいる」とすりこまれたのであるが

本当にそうなのか?

入院とか、闘病とか、大変なときだからこそ

明るさやユーモアを求めている患者さんはいるんじゃないのか?

少なくとも私はそうであったし、西さんもそうであったようだ。

「べき論」と人からの評価


医療従事者に限らず

日本には「この職業の人はこうあるべきである」

という「べき論」が強い。

公務員とか保育士とか、はたまたお母さんとか

誰かが勝手に作った「こうあるべき」

というイメージから、少しでも外れるとNG。

しかも苦情はその人に直接言われるのではなく

陰で言われるという、陰湿なカルチャーもある。


でも仕事って職業って、その人の生活の一部であって、全部ではない。

職業以外のその人の、人権もちゃんと守ってほしい。


コロナ禍で浮き彫りになったけれど

医療って、医療従事者の自己犠牲のもと

成り立っているところもあり

そのトキシックな文化はアメリカにもあるのだけれど

程度が日本よりもマシだと思う。



日本では「人にどう思われるか?」ということも気にして生きないといけない。

同期の男の子が、夏休みに南国に行き、真っ黒に日焼けして帰ってきた。

それを見た上司に「患者さんが不快に思うかもしれないから、今度日焼けには注意するように」とお叱りを受けた。

せっかくとれた夏休みをエンジョイしたら、注意される。

私たちには日焼けする権利すらないのか。。。

悔しかった。

医者っていっても人間だ。

もっと個人の生活を尊重してほしいと思った。



また話はそれるが、日本に一時帰国した時に

周りの目を気にするがあまり、子供に対してキツく当たってしまった

というところで、西さんに強く共感した。

アメリカ/カナダでは気にしていないのに、どうして日本にいると

あぁまで、人の目を気にするのであろうか?

「人に迷惑をかけてはいけない」マインドが染み付いてしまっているのだ。



結局は人と人とのつながり


医師は医師、看護師は看護師、患者は患者

そういう役割で、出会って話をするわけだけど

その職業の前に、人と人なのだ。


医療は、人と人とのつながりであり

もちろん知識や経験も必要だが、人間力も問われる。


若い頃は医師として経験値が低いと、自信もないし

個人の経験から、強く打ち出せる何かもない。

だから言われるがままの価値観に縛られるのも無理はない。

でもだんだん知識と経験を積んできたら

自分を活かしていけばいい、と私は思う。



年齢が上がるにつれ、自分の経験の全てが糧となる。

失敗も、辛い経験も、子育て経験も、グリーフ経験も。

これまで培った自分の全てを使って、人と接するのだ。

感情も自分の経験も何にもない、機械みたいな人は魅力的じゃない。

それこそAIがやれば、という話になる。




医療従事者の明るさは善である


『くもをさがす』を読んで

若い頃、すりこまれた「病院では明るくしてはいけない」

これは間違いだと確信した。


カジュアルで、間違いだらけ

でも明るさとユーモアのある、カナダの医療現場で

乳がん治療の経験を綴ってくれた西さん。


当然のことながら

海外に住んでいると、視野が広がり、価値観も変わるが

一般の方、そして素晴らしい作家さんである、西さんが

医療従事者を個人として捉え、感謝してくれている

また、医療従事者の明るさ・ユーモアを評価してくれたことが

私はものすごーい嬉しかったのだ。

それが伝わった。

だから心がこんなにも動いたのだろう。


私は日々「乳がん」と「流産」について発信している。

どちらも明るいテーマではないが、いつもどこかに笑いはある。

それが私らしさだから。


私は私らしく、明るくいればいい。

テーマがデリケートでシリアスでも。

勝手に認められた気がした私。


書きたいことはごまんとあるけど、最後に一言。


西さん、この本を書いてくれて、本当にありがとう。




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