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初個展直前に脳梗塞になった話:77~87日目

77日目:気分一新

もがき苦しみ歯痒くもどかしい。医学的には怒りをコントロールする部分に損傷があれば怒りぽくなったりもするそうです。発症前に出来ていた事だとまでは判るのだけど、その答えが判らないという事に苛立ちます。整理がつかない。とても辛い。こんな事がと。

月に一度訪問してくれる美容師の方に予約をして入れておいたので髪の毛を切った。改めて頑張ろうと思った。自信を持って明るくしよう。廊下でノッポさんとすれ違う。『誰かと思いました!』と言われる位に長かったものがバッサリいったって事だ。

78日目:シーンの音

これからの時代は年齢での敬語とかではなく間柄の言葉使いなんだと思う。人と人の言葉使い。親しくなればお互いの気持ちで判ると思う。そして若者の発想を大事にしてほしい。柔らかく尊重していきたい。難色を示したり抵抗感は一度宇宙のかなたに追いやって10年後20後に地球に戻ってきたらしっくりきてるかで考える位の大人でありたい。
談話室の朝イチのテレビ。森尾とキリコとナオミの番組でキリコが
『シーンって本当に聞こえるのよね』
と言ってて鋭いなぁと思った。

79日目:生きてこそ

頑張ってる雑音は嫌いじゃない。生活音としてBGMとして安心する。とりあえず前向きに。命までとられていない。動けるだけで幸せ。運転できなくてもいい。どうにかなる。生きてれば。生きてこそ。どうにかなる。どうにかする。

80日目:トランプを探す方法

午前ST(言語聴覚士)リスさん
リスさんがトランプの1枚を無作為に抜いて隠す。どんな方法でも良いからその1枚を当てなさいという課題。これの近道はまずマーク毎に分ける。13枚じゃないものを見つける。そこから何が足らないかを見つけるとの事。それを聞いてハッとしたし、こういう風に方法を考える事からなんだと思えた。学びは【ゴールは何か。そこに行くにはどんな道があるかから。】ということ。

81日目:エアロバイクレベルアップ

午前STノッポさん。
以前と同じ要領で僕がエアロバイクを漕ぐ。その前にノッポさんが絵の描いてあるカードを持って立つ。描いてあるものが濁音を含む場合は右手をチロッと挙げる。『ん』を含む場合は左手をチロッと挙げる。両方の時は両手をチロッと挙げる。かなり難しくなってる。右手と左手と両手がこんがらがって常に両手が挙がってる状態かどちらも握ってる状態が続いてしまった。これが動いてるバイクはおろか車だったなら大事故だ。

今日はこの後トレッドミルの歩行運動を自主トレした。時速2~3kmで30分程は歩けた。途中何度も水分補給した。500mlボトルは空になった。2km前後だった。こんなんでヘロヘロになるのも入院してるからだろう。もともと持久力がないのにこんなんじゃダメだ。

82日目:絶妙に面白い患者さん

同室で先に入ってた患者さんは絶妙に面白い。同室で退院していく人が居る度に看護士さんに『次は誰が入るのかなぁ、静かな人がいいなぁ~』と言っていた。でもテレビ見ながらなかなかの感想を口走ってましたよね。ゴルフ(を見てると思われた時)の日に『はいったぁ~!』と声を上げたのは忘れません。

83日目:便はとても重要

朝の検診。看護士さんは手慣れたもので丁寧に説明している。朝の回診時にお通じとお小水の回数を聞かれるのは、便が出ずにイキむ事で血管に負担をかけない様に管理するため。脳卒中、脳梗塞患者は特に怖い。1日1回出ない人は体質もあるだろうが食生活から見直しが必要。

血管への圧力負担軽減で言うと流動食もそう。よく噛まないで飲み込もうとすると力む。その力みで血管への負担がかかる。さらに噛まれてないから消化も鈍い。便も固くなりがち。それらを軽減する。また、呑み込む力が無い人への助けになる。そういう点に今までは、本当の意味で気づけていなかった。

生活のリズム。スケジュールについて。単純な話。歯磨きを後回しにする。そうするとあれよあれよと全てが後回しになる。場合によっては機を逃す。最悪なのは命に関わる事にもなりかねない。いたって単純で幼い時から学ぶ話。そんな事を今さら痛感する。

窓から見える金網フェンス。なにやらいったりきたりの猫。この距離なら観察しててもばれない。2m程もある金網の上を見上げる猫。軽々乗り、越える猫。とてもしなやかで機敏。

84日目:メモをとらなきゃ出来ないではなくメモをとれば出来る

午前STノッポさん。
・プリント課題で類語のペアを見つける。
・白いもの単語をより多く出す。
・『た』で始まるものをより多く書く。
・4文字の単語より多く書く。
・平仮名抹消
以前は7分半台でミス1個
今回は6分半まで縮んでミス1個
だいぶ回復。
・雑学を聞き取りして
その後要約して話す。
そしてそれはメモしても良い。
それを明日最初のSTさんに伝える。
『メモをとらなきゃ出来ない』
ではなく
『メモをとれば出来る』という
思考をしっかり植え付ける。

85日目:メガネさんプライベート

STメガネさん。
昨日のメモを見ながら連絡・報告・説明する。この様に日をまたぐ伝達もリハビリである。メガネさんは仕事にハンドサイズのシステム手帳とサッと書く用のメモを使っている。プライベートはスマホのカレンダーだそうだ。それを惜しげもなくむしろどうだ!といわんばかりに見せてくれた。思わず『プライベートなのに見せてくれちゃっていいんですか?』と聞いたほどである。

86日目:意外と言ったら失礼な私服

今日は疲れがとれない。膝も痛いし肩も硬いし腰も痛くてもうどうにもこうにも、なんて口に出してたらもう気分は落ちる一方!そんな気分を変えてくれる光景を目にした。自主トレフロアでノッポさんの私服を見た。そのフロアはセラピストさん達の事務フロアで丁度帰宅する時間だった。なんともお嬢様みたいで素敵だった。上は黒くてシルクっぽい襟の高めなシャツ。スカートはロングでこれまた上品でサラッとした素材感の白生地ベースにこれまた上品な黒紋模様だった。なんだかいつものテキパキビシバシノッポさんとは打って変わって素敵だった。なんとなく元気が出た。

87日目:言語聴覚士の必要性

どうやら歴史は浅いらしい。脳の損傷は傍目に判らないし判るレベルだとしてもないがしろにされてきたらしい。他の病院に行ったSTの同級生なんかは同僚のPT(理学療法士)さんからも認められてなかったりという状況らしい。傍目には判らないとしても当の患者は助かってる。僕は強く思う。症状が重い患者はそういう事を言う事は出来ないとしても絶対感謝している。

脳のリハビリは必要だ。
目覚ましく回復してきた。
無くてはならなかった。
発症時の状態で社会復帰なんて
今考えたらとても怖い。
なにより判ってない、出来てないという事に気がつけないからだ。
いざ喋ろうとしてもまとまらない。
組み立てが出来ない。
こうやって文章にはなるのに話せない。
話言葉だと出てこない。
今だって文章も稚拙だろうしもしかして同じ事を書いてるのかとも思う。そういった事をいざ自分がなって判る。今の自分はそういうのが判るという場所にまで戻れた。
これは本当にSTさんのお陰なんだ。
日々回復を感じている。
リスさんから『ありがとうございます!全国公演で回って下さい』なんて冗談も言われた。

夜、ホワイトボードで明日の予定を見る。その横で4人の女性患者が包帯を巻いてる。毎晩、病院スタッフが洗濯した病棟の患者さんが使う包帯を巻くお手伝いをしている。リハビリも兼ねてなので一石二鳥なのだそうだ。その中の外国人患者さんに話しかけられた。スタッフとも気さくに話す人だ。
『お兄さん、どこ悪い?』
返答に困ってたら
『のうこうそく?どこ動かない?
     わたし、右手』
僕は思うように喋れなかった。

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