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【待つ】向田さんは一生何かを待ちつづけた人でした?

向田邦子さんのシナリオを
いくつも演出した盟友、
久世光彦(てるひこ)さんは
向田邦子さんの良き理解者でした。

最近久しぶりに
読み返して感じたことを少々
書いてみたいと思います。

久世さんの文章の文体がまた
なぜか向田さんのそれに、
よく似ているのは偶然でしょうか。

ちょっと紹介させてください。

「あの人は人生のいろんなことについて、たいていは自分の方から出向いて、間違いなくきちんと選び取っていたように見えて、本当のところは、じっと辛抱しながら何かを待っていたのではなかろうか。
あるいは、生きるということのうちには、こっちから出向いて行かなければならないことと、待っていなければならないことと、両方あるとして、向田さんはその半分は満たされていたけれど、あとの半分では最後まで待っていたように思われるのである。
そのためには決して遅刻もせず、約束の場所にちゃんと立って、いつまでも待ちつづけ、待ちくたびれて死んでしまったのではないだろうか?
あの人が待っていたのは、いったい何だったのか。」

向田邦子さんは
久世さんとの打合せの約束では
1〜2時間は遅刻してきて、
しかもあまり悪びれてなかった、
とも書いています。

ちょっと分かるなあ、
向田さんは負けず嫌いで、
久世さんには照れ隠しで 
済ました顔をしたんでしょう(笑)。

向田さんのエッセイを読むと、
如才ない、器用な人、しっかり者、
という才能の側面が 
しばしば出てきますが、
その反面、
つい損をしたり、
他人のミスを被ってあげたり、
敢えて負ける人の側に付く側面が
あるようにも感じます。

何かに引かれるように
じっと待ちつづけたんでしょうか。

テレビシナリオを書けば
ヒットし続けていたり、
エッセイを書いたら
またたく間に天才扱いされ、
小説を書いたら直木賞をとり、
妹、和子さんには赤坂に
小料理屋を出させてあげたり、
一見、人生の幸福には
つねに貪欲な野心家でしたが、
お父さんとの関係は
つねに緊張が走っていたり、
恋愛や結婚には、
悲しいくらい不幸せな選択肢を
選びつづけていたように
思われてきます。

そうした二面性について、
先に引用した久世さんの文章は
とても納得させてくれました。

ちなみに、
久世さんのエッセイを読んでる時
皆さんは、向田さんの文章を
読んでいるような錯覚に
一瞬でもならなかったですか?

『向田邦子との二十年』
久世光彦、ちくま文庫より。
向田邦子ファンには
ぜひオススメの一冊。

なお、久世さんは
2006年に他界されています。

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