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【読書】本で一番大事なのは、冒頭か?読後感か?

ああ、いい本を読んだな、
と思える本には、共通点が
あるように思うんです。

読後感の良さ。
読後の圧倒力。
読後の清涼感。
読後の共鳴力。
読後の徹底的な孤独感。

つまり、総じて、読後感です。

読後感が良いためには、
冒頭をうんと工夫しようとか!
前半で読者を引きずりこもうとか、
そんな浅い文章講座では
とうてい、無理です。

私もこれまで、
冒頭や前半の大切さばかり
気にして、書いてきましたが、
浅はかでしたねえ(汗)。

やはり後半も大事だし、
クライマックスも大事だ。
でも、最近の文芸は
特に本屋大賞系は、
クライマックスや結末の
スタイルがパターン化してますね。

クライマックスは
ただ、癒やし系やハッピーエンドなら
いいって訳でもないでしょう。

作者が原稿に込めた力や愛情、
主人公たちへの思い。
読者への思い。
それらがしっかり伝わるか?
ではないでしょうか。

最近、仕事で預かっていた
マンガの原稿を整理する機会があり、
古い紙の原稿を触る機会が
あったのですが、
後に売れたマンガ家の新人時代の
原稿の絵からは、
サウナの熱波みたいな?
オーラがビシビシ伝わってきます。

そんな人の新人時代に
いっしょに仕事が出来たことは
誇りだけど、
そうしたキラキラするオーラは
どのマンガ家からも
伝わるものでもないようです。
マンガの神様も残酷な性格らしく、
全員にまんべんなく
原稿に何かをこめる才能を
与えている訳ではないんですね。
不平等だなあ。

じゃあ、そばにいた私に、
その、
オーラの有る無しの違いを分析して、
記事で解説しろよ、
と言われても、
私にはそれはできないんです。

いかにもな分析話なら
できるかもしれませんが、
でも、それはあとづけなんですよね、
編集者たちの、悪いクセ。

さて、話が逸れました。

最近、私はある秀でたエッセイ集に 
出会いました。

加藤典洋という
文学評論家が書いた、
みじかい掌編エッセイをまとめた
岩波現代文庫です。
「大きな字で書くこと」。

一つ一つのエッセイは30行前後。
一つのエッセイは2ページと数行。
数分で読めてしまいます。

ですが、これを加藤典洋さんが
晩年の闘病中のベッドで書いていました。
死について強く感じる日も
あったでしょう。
だからか、一つ読むたびに、
ページを閉じ、しばらくは
余韻に浸りたくなります。
そうしたくなる何かがあるんです。
余韻が良くて深くて、
でもさらりとしています。

加藤典洋さんは
2019年に他界しました。
この「大きな字で書くこと」が遺作に。
このエッセイ集は
どこから読み始めても良く、
ただ、どの掌編も、
それなりに深く刺さります。

生前には、
「太宰と井伏」
「敗戦後論」
「村上春樹は、難しい」など、
硬軟さまざまな評論集を
出し続けた本格的な書き手でした。

さて、また話が逸れました。
冒頭の、読後感の話に戻ります。

読後感については、
小説講座や文章指南でも、
あまり出てこないかもしれません。

でも、読み終えて一番大事なのは、
もしかしたら、
読後感かもしれませんね。

冒頭が多少読みにくくても、
クライマックがワンパターンでも、
読後感が良い本は
それを読んだ人には
素晴らしい本だったと、
心に刻まれるのではないでしょうか?
コースを食べていって、
結局は、デザートの良し悪しで
全体の印象が記憶されるように。

短い掌編エッセイ集というのは、
あまりマーケットで
大量に売れたり、
話題になったりするものでは
ありませんが、
加藤典洋「大きな字で書くこと」
(岩波現代文庫)は、
久しぶりに深い読後感をもらえた
一冊でした。
加藤さんからしたら、
もっと中身のつまった、
代表作「敗戦後論」(ちくま文庫)や
「もうすぐやってくる 
尊皇攘夷思想のために」
(岩波現代文庫)を誉めて欲しいん
でしょうけれど(笑)。

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