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ミュージカル『ヘアスプレー』を観た。最高にポップでキュートな世界観にハートを鷲掴みされちゃった

ブロードウェイ・ミュージカルの『ヘアスプレー』がツアー公演で、この町にやってきた。

開演前から会場は大勢の人で賑わっていて、みんなこの公演を楽しみにしているようすだ。私はフーさん(アメリカ人、夫)と二人で出かけたのだが、周りを見渡すと、なんだか女の人が圧倒的に多い。どこもかしこも女、女、女。こんなにたくさんの女の集団を見たのも久しぶりな気がする。しかも、母と娘のペアが多い。

私は下調べせずに駆けつけたので、ストーリーをよく把握していなかったが、そうなのだ。これは母と娘の物語、そして女の物語だ。でもそれだけじゃない。人種、体型、ジェンダーと、差別問題まで盛り込んだ、なかなか欲張りなストーリーなのだ。

このミュージカルは1988年公開のジョン・ウォーターズ監督のコメディ映画、『ヘアスプレー』を原作としてつくられた。2002年からブロードウェイで上演され、大ヒットし、トニー賞も8部門の受賞を果たしている。2500回を超えるロングラン公演だったが、2009年に終演した。

1962年6月、メリーランド州ボルチモア。明るくて、ちょっと太っちょな16歳の女の子、トレーシーはダンスが好き、地元が好き、そしてテレビに出て有名になりたいと夢を見る。ヘアースタイルはジャックリン・ケネディ(ケネディ大統領の奥さん)を真似て、ボリュームたっぷりに、思いっきり盛り上げた髪を、ヘアースプレーでガチガチに固めている。髪型のせいで学校に行けば、先生に校則違反だと罰せられる。

母親には、チビで太っちょだし無理だ、と反対されるが、意を決して憧れていたテレビ番組『コニー・コリンズ・ショー』のオーディションに臨む。だが、黒人の少女、アイネスとともにトレーシーはオーディションを受けることを拒否されてしまう。

しかし、のちに彼女は『コニー・コリンズ・ショー』のプロデューサーの目に留まり、テレビ出演を果たすのだ。そして、その個性で、お茶の間の人気者になってしまう。

ミュージカルは、トレイシーがベッドで寝転がっているシーンから始まるのだが、そのベッドがなんと、立っているのだ!もちろんトレーシーも立っている。観客席から見ると、まるで、ベッドで寝ているトレーシーを真上から眺めているみたいな感覚になる。そして背景の照明。ポップな赤や黄色の大きな水玉模様がくるくると舞っている。めちゃくちゃキュート。私はもう、この最初のシーンでやられてしまった。

photo by Jeremy Daniel for Metro Philadelphia

コメディ仕立てなので、最初から最後までみんなずっと笑いっぱなしだ。とにかくおもしろい。ジョークの連発で、しかも下ネタに近いものがかなり多い。視覚的にもポップで派手だし、次々にいろんな物やら、人やら出てくるし、そして、なんといってもセリフがおもしろい。キャクターも個性豊かで、人間味に溢れているので、感情移入してしまって、いつのまにか好きになってしまっている。

そして、見ていて退屈なシーンが一つもない。1960年台のダンス音楽やリズム・アンド・ブルースで溢れていて、ノリがいいので、見ているほうも自然に体が動きだしてしまう。

私たちの前のおばさん達も、体を揺らして一緒に踊っている。アメリカ人の観客はとにかくノリがいい。そして、思ったことは口に出す。私達の後ろの席のおばさん達は始終、「Oh, my God!!」の連発だ。「どうなるの?」「えっ、大変!」「ちょっと待って」「それはダメよ、ダメだってば」などとうるさいくらい。フーさんは、私に耳打ちして「後ろがうるさいよ」と不満を漏らしていたが、私はなんか、それも含めて全部が気持ちよかった。心地よい女同士の一体感っていうのだろうか。自分がすごく解放されていく感じになるのだ。

このストーリー自体が解放の物語なんだけど、観客もみんな一緒になって解放されていくのである。私も、途中から「ウォーウォー!」とみんなと一緒になって歓声を上げ、体を揺らしていた。

トレーシーの友達で一緒に人種差別撤退運動に参加する、黒人ダンサーのシーウィードのダンスも素晴らしい。彼の母親が歌う解放の歌も圧巻である。

そして、何よりトレーシーの母親、エドナのキャラが強烈なのだ。見た目はドラァグクイーンである。わかりやすく言うと、よく動くマツコ・デラックス?体の大きな男優が演じているのだが、動きも仕草も女性にしか見えない。名演である。ときどき、どら声で凄むと男声になるので、(あっ、そう、この人、男だった)とハッとする。

そして、トレーシーも他の登場人物も、刑務所に入れられたりと、散々な目に遭うが、最後はみんな解放されて、自分の道を進んでいく。自分らしく生きていく。

エンディングは、観客もみんな総立ちで、「You can't stop the beat!」(もうこのビートは誰にも止められない)と歌う。何度も何度もキャストが「You can't stop the beat!」と繰り返して歌えば、観客も一緒になって歌う。

私ももちろん、立ち上がり、一緒になってスウィングしながら歌った。歌いながら私は気づいたら泣いていた。涙がポロポロ、ポロポロ頬を伝っていく。感動していた。心が震えて涙が止まらない。みんなが一体になった会場で、私は全身で解放感を味わっていた。なんとも例えようのない体験だった。

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