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マルタのポークとりんごのローストと森と木の話


盛りつけ写真

毎年誕生日には友人達を呼んで食事会をする。

いい歳して誕生会なんて。
もう祝う年齢じゃない。
とも思う。
でも映画「ティファニーで朝食を」に出てくるようなホームパーティーを開く年齢ではもっとない。
ので各方面の好きな友人を一緒にする唯一の口実としてお誕生食事会を開く。
今年は日曜なので昼食会だった。

今年は定員一杯の14人の着席ランチ。本当はもう4人呼びたい人がいたけど、テーブルの大きさが足りない。揃いのお皿もグラスも18人分は無い。

モノユーズの食器は使わない主義。

テーブルセッティング写真

お皿は前菜用、プリモ用深皿、セコンド用平皿、デザート用で一人4枚、14人で56枚のお皿を使うことになる。
初めにセッティングするのはセコンド用平皿の上に前菜用のお皿を重ねる。
プリモ用深皿はスープをサーブするので別途温めておく。
最も小さなデザート用平皿、果物を盛った大皿の横に積んでおく。

グラスは水用、ワイン用、乾杯用シャンパンまたはその他スパークリングワイン用のクープグラス、一人3客の42客をテーブルにセッティングする。

イタリアではフランスとやや違い、横に並べずこの3種のグラスを「お花の様に」お皿の右上に配置する。

食後酒用の小さめのグラスはリキュール類のボトルと一緒にサービステーブルに準備しておく。

テーブル写真14人となると、普段キッチンやバルコニーで使っている椅子も総動員

肝心のメニューは:

前菜は新しくNOTEで仕入れたレシピ2種(少し我流アレンジ)と新開発レシピ1種の計3種。
こちら追って投稿予定。

プリモは長ネギとお米のスープのジョバンナ風。来週掲載予定。

メインのセコンドは去年はお魚料理だったので今年は何か新しいお肉料理、と思って色々試したけれど結局いつものマルタの豚ロースのローストを少しだけアレンジしたものになった。

写真では本格的な感じがしますが、オーブンさえあればチャーシュー作るより簡単です。

マルタのリンゴ&ポークローストと森の木の話はレシピの後に。
長文ですのでお時間のある時にどうぞ。


材料写真

<材料 14人分>

・豚ロース肉 塊で 2.2kg

・ハム 300g  写真はスペックと呼ばれる冷燻ハム

*写真ではスペックと呼ばれる冷燻ハムを使いましたが、豚ロース肉を保護しジューシーに仕上げるために使うので、日本で冷燻ハムが高額の場合は普通のプロセスハムでも似たような効果はあるはずです。

・りんご  約3kg
*今回はりんご多めで作りましたが、こちらも好みで1kgでも2kgでも大丈夫。

*マルタが作ってくれたものにはプルーンも入っていましたが、今回は省略。

<調味料>

・オリーブオイル 適量

・白ワイン  カップ1

・塩  適量

・胡椒 適量

<作り方>


1・豚ロース肉塊は全面に塩胡椒します。少し多めに、という感じで。

2・スペック(ハム)の幅と長辺に1本にロース肉塊を縛るためのたこ糸を配置します。
3・2の上にスペック(ハム)を配置します。


4・3の上にロース肉塊を乗せ下面のスペック(ハム)を肉にフィットさせます。

5・上面にもスペック(ハム)を配置しフィットさせ、先に配置したたこ糸を結んでいきます。

*通常は糸一本で縛り上げていくのが普通ですが、その方法だと焼き上がってから糸を取るのが大変で形を崩すリスクもあるので、糸が取りやすい新しい試みとしてテスト。
結果、糸をを取るのがとても簡単になり今後これを採用することに決めました。

*普通の蝶結びだと蝶を作る前に緩んでしまいキツく締められないので、着物の帯締めを締める時のように糸を2度潜らせるとうまく締めることが出来ます。


6・大きいオーブン皿にオリーブオイルを塗り中央に5を配置します。


7・りんごは 1/4  に切り、タネと芯を取ります。
*以前は皮を剥いていましたが、皮付きの方がおいしく、かつ手間が省けます。


8・6の周りにぎっしりと7のリンゴを配置します。


9・通常は8をオーブンに入れますが、今回はリンゴ多めにしたかったので、5の上もリンゴで覆います。

10・9全体に塩胡椒し、全体に白ワインとオリーブオイルを振りかけます。


11・さらに余ったりんごは別の小さめのオーブン皿に入れ、塩胡椒し白ワインとオリーブオイルを振り肉と一緒に焼きます。初めの1時間から1時間半は焦げすぎないようアルミホイルを被せて頃合いを見計らって外すので、初めはアルミホイルで覆います。

12・180度に熱したオーブンに入れ約2時間焼きます。

*肉の塊のローストの所要時間は180度で1kg1時間というのがスタンダードです。
今回は2.2kgだったので2時間以上時間がかかるかと思いましたが、2時間で十分火が通っていました。

*オーブン皿がやや浅めでりんごの形が崩れてくる時に汁が下に落ちて焦げることを予想し、予想通りになり。。。、下の段にトレーを入れて焼いたので後の掃除が簡単になりました。トレーに水かオーブンペーパーを入れていたら、もっと掃除が簡単でした。

14・タコ糸ををとり、塊のままテーブルに運び、皆の前で切り分けます。
ここが見せどころ。
十数ミリの厚さに切ったお肉の上にたっぷりのリンゴを乗せます。


完成写真焦げているのはりんごの皮だけで中はジューシーです。


盛りつけ写真
大勢の会食で、来客が来てから心と時間と余裕がなかったのですっかり写真を撮り忘れ、、、この出来上がり写真は、僅かに余った小さな切り端を撮りました。
ヌーベルキュイジーヌを目指した訳ではありません。。。

*****

マルタのリンゴ&ポークローストと森の木の話 (長文です)

「お父さんの本を読んだわよ。すごく面白かった。自分の名前を持つ森があるってどんな気分?」と電話口の久しぶりのマルタに質問してみた。

「実は子供の頃からずっと森の名前を私につけたのだと思っていたの。私の名前を森につけたのではなくて。」と彼女。

マルタの一家の銘木専門材木屋「リヴォルタ」はミラノ北部25kmデジオにある。

ミラノとコモの間のブリアンツァという緑も豊かな工業地帯にある町のひとつで、家具製造の国際的評価も高い多くの有名家具ブランドがその一帯にある。
ミラノが世界的なデザインの首都と長く言われてきたのは、ミラノ在住のデザイナーとブリアンツァにある有名家具会社とのコラボレーションが多かったためだ。そのため家具向け材木屋も多数。

だからマルタのお父さんは若い時競争の激しい家具向けの木材ではなく、銘木を専門に扱うことに決めたという。
そして「リヴォルタ」は世界各国の珍しい銘木を扱うだけでなく、特にバイオリンなど楽器用の木材で国際的に有名な銘木専門の材木屋になった。

***

マルタに知り合ったのは昔勤めていたミラノのデザイン事務所で、フランスの文化省依頼のアヴィニョンの僧院の図書館の内装を設計していた時。実施設計に十分な時間がなかったので私一人ではこなせないのではと心配したボスが助っ人としていわゆる事務所の短期アルバイトで当時まだミラノ工科大学の建築学部の学生だったが「仕事が早い」という折り紙つきで紹介され採用された。実際の実務は日本のバブル期の実務経験で膨大な量の仕事をこなすことに慣れていた私には助っ人を頼む必要は全くない量だったが、勤め始めてから2年近くボスとマンツーマンで仕事をしていたので期間限定でも「同僚」を持ったというのが何より嬉しかった。

今でも彼女に会うと幼馴染みに会うような感覚を持つもはそんな風に知り合ったからなのか、それともマルタの人柄のためかはわよく分からない。

アルバイトの当時、学生だったマルタはデジオの材木屋の敷地内の家に両親と暮らしていた。
彼女の自慢はナポリ出身のお母さんの料理と材木屋のお父さん。「うちの母はナポリ出身だから、我が家の食文化の奥行きは深いの」というのと、「木材のことをうちの父ほど熟知してる人は世界中にいないの」というのが彼女の口癖だった。

う~ん、材木屋ってそんな職能が必要なのかなぁ、と当時無知だった私は不思議に思った。ただ木を右から左に売っているだけの仕事だと思ったから。

まだイタリアの友人が少なかった当時、両親への敬愛をキッチュなくらい素直に表現する彼女に若干違和感を覚えたが、30年以上住んでイタリア人化した今の私にとって、そういう率直な愛情の表現は素敵で大切なことだと思える。

一番最初にリヴォルタ社を訪問した時、「残念なことに父は出張中なの」と言いながら色々な貴重な銘木を見せてくれ、サンプルも土産にもらってきた。
中にリニウム・ビタエ(Linium viate)「生命の木」 という意味のラテン語の名の付いた緑色の木があった。木目が綺麗な緑色でつやつやと滑らか。木に多く油脂が含まれているため、ボールベアリングが普及する以前、円滑性を求められる軸受部品の素材として古い木製の船などに珍重されていたという。とても心の休まる良い香りがして自宅に持ち帰った後1、2ヶ月枕の近くに置いて寝ていた。いつもよりよく眠れる気がした。


20年以上前リヴォルタ社訪問でもらった銘木サンプル

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アヴィニョンの僧院の図書館の内装設計から約10年後

マルタと久しぶりに会ったのはのフランチェスカとピエールの結婚式。

コモ湖畔の美しいヴァレンナで披露パーティーがあった。フランチェスカとはデザインジャーナリストとしてマルタとは別に知り合ったのだが、知り合って2、3年後に二人の両親が親友で夏のバカンスは子供の頃から一緒に過ごしていたというのを知った。

再会の当時、彼女も私も家を買ったばかりでお互いの家で食事しようと約束。先に招待してくれたのはマルタでその時に黒キャベツのスープと一緒にこの豚肉のローストを作ってくれた。

二人だけの食事だったのに立派なローストで美味しかった。

それ以来この豚肉のローストは我が家の定番メニューになり、冬場に本格的なディナーをする際、頻繁に登場することになる。

その後私の家の工事が終わり家具を誂える。仕事用のテーブルトップに、リヴォルタの銘木を使うことを思いついた、それ以外がほぼ真っ白な空間なので存在感、素材感のある濃い色の木の無垢板をテーブルトップにだけ使うことにより空間の厚みが増すだろうと思った。

リヴォルタ社に出向いて倉庫で木目を吟味しながら一枚一枚材木を選ぶ。選んだのはマダガスカル産のパリッサンドロ、日本語訳するとローズウッドになる。ローズウッドといってもいろいろあるのだけど。切り端は食卓にも出せるまな板にした。(いつも材料写真を撮っているテーブルとまな板です。)

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フランチェスカとピエールの結婚式からさらに約10年後、マルタのお父さんの木と森に関する手記を、偶然にも木工関連の商品開発を始めようとしていたクライアントから貸してもらい読む機会に恵まれた。

「イタリア語では読むのが遅いし、仕事も忙しいから読む時間はないと思う」と辞退しようとしたのに、良い本だからぜひ読んで、とほぼ無理矢理クライアントから貸し出されたその本は、読み始めたら面白くて一気に読んでしまった。途中、著者がマルタのお父さんであることに気がついた。


改訂版のマルタのお父さんの著書

銘木屋というものはどこかの材木問屋から木を仕入れてきて小売するのではない。マルタのお父さんはアフリカやアジアの森林に出かけ、多くの国には招待されて、どの木を切りどの木を切らないかを判断し、切る木の質だけでなく、その後の森の生態系も考慮しての判断を彼に委ねられていたという。材木になるその木のことだけでなく森全体のことも考えるエキスパートなのだ。

その分野の最高の専門家でも切って割った木の木目が想像通りである確率はたったの50%だという。バイオリン作りで珍重されるゆらゆらと揺れるような木目のカエデの木は100本に1本あるかないかで、「聖マルタの森」と娘の名を付けたその森を買った時もその森の中の何本かのカエデがあの美しい木目を持っていないかと夢想したなど、マルタのお父さんの仕事、木々、森に対する愛情が世界各国の森での貴重な体験とともに伝わって来る本だった。

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それからまた約10年後、仕事で檜に似た木材を探していたら、リヴォルタ社のサイトに行き着く。以前クライアントに借りて読んだマルタのお父さんの著書の改訂版が売られている。
自分用とパオラへのクリスマスプレゼント用に2冊購入。

パオラはすっかりその本が気に入って、友人達にプレゼントしたいから、と。10冊、また10冊と3度繰り返し30冊も購入していた。

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そして今でも自宅事務所のテーブルのその木材がはるばるマダガスカルから来たことを考える度、私も一緒に旅行をしたような気分になる。

タミーとエンリの結婚披露宴の引き出物でもらったマダガスカルのジャスミン(部屋の写真の天井に広がる植物)が我が家で妙に勢い良く育つのは、もしかしたらマダガスカル産のローズウッドという同郷の木のテーブルが家にあるからかもしれない、などとも思ってしまう。


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