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会計を学ぶと世界が見える:NVIDIAのイシューから

前回、noteに記載した「MBAで学んだ会計(アカウンティング)の重要性と学習法」の記事について、予想よりも多くの反響をいただいたのでこの話題について定期的に書いていこうと思います。

具体的なMBAでの学習内容などについては、まとまった時間ができた後に記載しようと思います。今回はよりカジュアルな話題で、今をときめく「NVIDIA」が抱える会計上のイシューを取り上げて、会計を学ぶことで得られる実践的な成果や学ぶ面白さについて記載します。

※なお、以下には公表されているNVIDIAの決算資料から、私が考えるNVIDIAのビジネスに関するリスクを記載していますが、あくまでも私の考えであり、NVIDIA株の買いや売りのいずれも推奨しているわけではありません。

1. NVIDIAの事例

NVIDIAは、アメリカにある半導体メーカーであり、半導体の中でも特にGPUの設計に特化しています。毎期、市場予測を超える成長率を示しており、株価もうなぎのぼりとなっています。
NVIDIAの各クオーターの売上は以下のようになっています。

NVIDIAの売上

そして、この大きな売上の成長の原動力は「データセンター」部門の成長に依拠しています。

セグメント別売上

次に、Gross Margin(粗利益率)について見てみます。これが下表になります。これを見ると、売上原価(COGS)の成長率は売上高の成長率を下回っており、粗利益率は2024Q1以降急激に改善しています。
しかし一般的に売上高と売上原価は比例関係にあり、規模の経済や効率化による多少の改善は考えられても、この短期間で急激に改善するのはやや奇妙に思われます。

NVIDIAの粗利益率(Gross Margin)
NVIDIAの粗利益率(Gross Margin)

コストをかけていないのに収入が増加している?
この奇妙さの原因は、実は、「NVIDIAの多くの売上が注文時点で計上される」というNVIDIAが示している収益認識の会計方針に起因するものとなります。

収益認識(Revenue Recognition)とは、ビジネスの一連の流れの中で、いつ得た収入を収入として認めるか、というものです。
例えば、車のディーラーが顧客に車を販売するときに、
・顧客が車の注文をした時点
・顧客が車の代金を支払った時点
・顧客に納車された時点
このいずれかで収益認識がなされ、一般的には「商品やサービスが提供された時点」として、納車された時点で認識されるはずです。そして、これが最も保守的な会計方針として好まれます。
一方、NVIDIAは、上記の車の例でいくと、「顧客が車の注文をした時点」で収入を認識しています。

そして、これが少しリスクのある会計方針であると思われます。

NVIDIAは、需要面では顧客から製品の注文を受ける一方、供給面では「自社では製造せず、海外の第三者に製造を委託する」ファブレス経営を行っています。以下が、需要面と供給面におけるリスクです。

・需要面:地政学リスクを含む海外の特定の大口顧客に依存したうえで、彼らからの注文は簡単にキャンセルされるリスクがある
①海外の特定の大口顧客に依存している
顧客 A への売上は 2024 年度第 3 四半期の総収益の 12% を占め、顧客 B への売上は 2024 会計年度の 9 か月間で総収益の 11% を占めています。
②顧客は製品購入契約を解約することができる
顧客は通常、ほとんど通知することなく、ペナルティなしで製品購入契約をキャンセル、変更、または遅延できます。 したがって、現在計上されている収入には、キャンセル可能な収入が含まれる可能性があります。

従って、注文時点で収入を計上したとしても、その収入が実現する(実際に現金としてNVIDIAに入ってくる)かどうかは分からないのです。

・供給面:NVIDIA はファブレス経営により海外の第三者パートナーに生産を委託している。取引先の経営状況や地政学的リスクにより予定通りに生産が行えないリスクがある。

従って、注文を得たところで第三者に生産を委託するので、予定通りに供給が行えるかは分からないのです。

こうした、需要と供給の両方の点でリスクのあるビジネスに携わっているNVIDIAにとって、注文時点で収益認識をするのはリスキーだと思われます。

現に収益を認識した上で、全て商品を納品し、代金を受け取っていればいいのですが、そうではなさそうな論拠があります。それが、売掛金(Account Receivable)の増加です。

売掛金
売掛金

売掛金は収入が急激に伸びた2024Q1以降、急激に増加しています。この売掛金が過剰に増加した部分は、取り消すことができる「前受収益」と考え、収益として計上すべきではないと考えてもよいかもしれません。そのため、修正として、この「前受収益」の部分を収入から取り除いてみます。

収入の修正


修正後の収入とGross margin

上記のグラフを見てみると、修正後のGross Marginは急激な伸びは示さなくなりました。収入は減少したものの、それでも大きな成長率です。

結論としては、収益認識に関する課題はあり、これにより現在公表されている収入が過剰なものの可能性はあるが、この影響を除いてもNVIDIAの成長率は高い(が、公表値よりは低い)というものです。

2. まとめ

具体例で会計の活用例を示してみましたが、いかがでしょうか。
この分析は、NVIDIAの決算書類(10-K並びに10-Q)の以下の項目から得られる情報を結び付けて作成しています。
・財務諸表
・リスク要因
・収益認識
・各項目に関する説明(収益、売掛金)

ビジネススクールで学ぶ会計においてはこのように、実践的なビジネス場面と会計知識を結び付けることを念頭におくことが求められます。ビジネスの流れを認識した上で、それが財務諸表のどういう部分に表れているのかを見つけ出し、会計上の課題や将来予測の分析に活用します。その上の「基本言語」として会計が必要となります。
「会計科目の名前を一言一句間違えずに記憶する」ということではなく、「こういう取引に対応する会計処理はこんな感じだ、そしてこの会計処理はBS、PL、CFにこういう風に影響するだろう」という考え方を身につけることが重要です。


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