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静けさという美しさをローストで表現するためには。

ボクはいつの頃からか、良質さとは「美しさ」であると思うようになった。
なので、良質なローストの表現の探求では、美しいロースト、美しい味づくりを目指したいと思うようになった。
そうした考えをするようになったことで、では「美しさとは、どのようなものなのか?」を理解するための日々の生活が始まった。

その目線を手に入れるためには、まずはボクよりも美しさを理解している人たちの目線が必要になるのだと考えた。
一番身近に存在しているのは、生まれつき潜在的に嗅覚が敏感なボクの奥さんだった。
その次は、ボクよりも感覚が敏感なウチの常連さんたちだった。

会話の中から、人それぞれが見ている「美しさの視点」を探すということを取り組んだ。
すると、美術品の好みもあるのだが、東山魁夷さんの存在に気づかされた。
そして、東山魁夷さんの美術館に出向くことになった。

ボクは焙煎士であり、ロースト(焙煎)によって表現をすることがボクの目指すところである。
ローストの表現においては、ローストの設定により変化する色調と色彩の色の積み重なりであると理解できていたので、美術館で展示されている実物から、東山魁夷さんが取り組んでいる表現はどのような色を使い、色を重ねることで表現をしているのかを探りたかったのだ。
それが技法であり、ロジックでもあるのだ。
しかし技法を知るだけでは表現はできない。
そこに難しさがあることも気づいている。

そして感覚として感じなければならないことは、どのような「美しさ」であるのかだ。
ボクが思った東山魁夷さんの美しさとは「静けさ」だった。
静寂と言ってもよいのだが、寂しさだけで終えるのではなく、余韻に温もりがあるところが素晴らしいのだと感じている。
色には感情が宿っているので、ローストによってそのような彩色を施さなけれなならないと言うことである。

それからの表現のテーマは、「静けさ」が味づくりのテーマになっている。
静けさの表現で大切なポイントは、透明感があることであり、そして彩度のトーンを抑えることだ。
ローストをしている人間なら気づくことなのだが、相反する表現なのである。

そして、ローストにおける表現では、酸味の美しい色彩とローストにおける甘さの調和であることは言うまでもないが、甘さはとても厄介な存在であり、そこに透明感を求めることは迷宮の入り口でもあることを意味している。

しかしボクにはヒントがある。
2018年のローストの競技会の頃に表現していたローストの技法が荒削りではあるのだが「静けさ」が表現できていたからだ。
そのヒントを元に、感覚とこれまでに培った技法を組み合わせることで、いつか静けさという美しさを表現ができるようになるものだと確信をしている。

そしてもう一点理解していることがある。
この表現が可能になるのはコーヒー豆のポテンシャルに左右するという点である。
すべてのコーヒー豆で静けさが出せる訳でなく、豆によると言うことだ。
なので、仕入れにおける目利きはとても重要なのである。

これが今まで28年間ローストで培って気づいていることである。


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