SKATER GIRL

インド出身の監督による映画。
TBSラジオ たまむすびで、町山智浩さんが紹介していたので観てみた。
これが素晴らしく、今の所2021年のおれ的ベスト作品である。

インドといえば人口が中国に次いで多く(中国は今後人口減少するが、インドはまだまだ爆発的に増えるのでいずれ追い越す)、近年経済的にもどんどん力をつけているイメージ。

それだけに、貧富の格差は大きく、映画でもテーマになるのはこの点にスポットを当てたものが多い、というか自分が観たインド映画といえばそういうものだった。(スラムドッグ・ミリオネアやホワイト・タイガー)

また、まだまだ市民の中には根強く残るカーストや女性への権利制限といった人権上の課題も大きな社会問題・・と見聞きしていた。

ちなみにモディ首相により、近年、トイレを全国に普及させる大プロジェクトが行われ、首相いわく、プロジェクトは完了したらしい。(実態はまだまだらしいが)
女性にとってはトイレに行くだけでも場所によっては非常にリスクのあることのよう。(レイプの危険がある)

そんなイメージから、インドといえば、自分探しというか度胸試しというか、そんな位置づけでインドに旅行に出かける若者が今でも昔でもいる、ちょっと理解の範疇を超えているミステリアスな国である。

とまあ、さんざんイメージだけで悪口を書き連ねてしまったが、この映画はインドのそれ以上でも以下でもない、リアルな今の姿を観る人に届けたいという製作者の思いが伝わってくるような作品だった。

主人公の一人の少女がスケートボードに出会い、人生で初めて自分自身の内側に眠っていた意志を感じ始める。
けれど、スラムドッグ・ミリオネアやホワイトタイガーのように、貧困から一気に抜け出すというような、ストーリーに大きな起伏があるわけではない。

父親からの抑圧を当然のこととして受け止めつつ、少女は、突如目覚め、抑えられない意志の力を、どうすればいいのか分からない。

何かを主張するのでもなく、静かでいつも困惑した表情が印象的な少女の姿は、こんな社会が存在しているなんて許せない、といったまるで別世界への行き場のない憤りを喚起させるよりむしろ、観るもの一人ひとりが問いかけられているような、そんなリアリティを生み出している気がする。

さて、ここで少し考えてみたいのは、インドと日本のジェンダーをめぐる問題ではなく、対照的な両国の人口問題だ。

上述したようなインド社会の現実が、インドの人口爆発にどう関連しているのかは分からない。
けれど、女性の社会進出がカッコつきで進んでいる日本では、超少子化と超高齢化がどんどん進み、総人口が減少を始めてからもう10年以上?経っている。

女性がこれまでの抑圧(仕事には行かず家を守るとかなんとか)から解放されれば、結局は少子化が進み、国が衰退するわけだから、結局昔っからの仕組みが合理的なんだ、けしからん。みたいな、そんな声、声には出さなくても内心そう思っている人(多くは男性だろう)は、けっこう多いんじゃないか。

まずもって、人口が増えて国や社会が経済的に発展するということは、つまりは資本主義が浸透し、化石燃料を大量に燃やして大量生産と消費のサイクルを回す、ということだよね。

それって結局、地球のキャパを超えてしまってほっとけば戦争とか飢餓とかそもそも地球が住めなくなるとか、破滅に向かってしまうわけだから、少子化で人口が減る、というのは一時の国というスケールより、もっと大きな視点で捉えれば、人類にとって、意図的にかどうかは別にしても正しい選択であり必然だ。つまり、政策によってコントロールできるような問題ではない。

であるならばなおのこと、資本主義と大量消費・生産システムによる経済発展が行くところまでいき、限界に達したような地域では、一人ひとりの自由意志を尊重する社会を目指していくことが、人間社会の本当の意味での「発展」であり、自然な姿ということだと思う。

先進国は今後、どんどん人口減少社会に突入していくし、今は人口が爆発しているインドのような国でも、経済発展が続いていけば、いずれ人口が減少するフェーズに入る。(100年くらい先になるのかもしれないけれど)


人口減少社会を世界で初めて体験している日本では、これをきっかけに今までうやむやにされてきた女性への抑圧が一気に露呈してきた感がある。

政治家に代表される高齢男性を中心とした、これまで自分たちに都合のよかったシステムを温存したい人や、このシステムの中でなんとか生き延びてきた一部の女性たちは、これまでの自分の人生を守るためにも、これを抑え込もうと少子化対策と銘打って、女性への抑圧社会をなんとか延命させようとしてくるだろう。

正直、この人達の考え方を変えることは難しい。
けれど、今を生き、未来を生きる世代が、縮む日本という国で幸せを感じられるようにするために、自分の意志に気づき、大切にされる価値観を社会全体で育てていくことが、日本人の役割なのではないかなと思う。

とにもかくにも、SKATER GIRL、最高でした。


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