かしわ ししゃも

ナチュラルボーン腐。インターネッツ老人会加入済み文字書き。こちらの名義は一次創作オリジ…

かしわ ししゃも

ナチュラルボーン腐。インターネッツ老人会加入済み文字書き。こちらの名義は一次創作オリジナル小説用(主に健全)。BL主食GL副菜NL別腹。鶏肉(かしわ)は四軍鶏(ししゃも)で最弱。筆頭:比内地鶏 次席:名古屋コーチン 第三席:烏骨鶏。鶏 皮 お い し い 。

マガジン

  • プリンセス・スノードロップ

    ―― 白雪姫には呪いと毒がつきものだ。白の公爵家の小さなお姫様は、この先無事にはいられまいよ。 (連載中)

最近の記事

【今生編】17.長銃の夜(上)

 泣いているのを誰にも知られないよう、アリアドネは城の裏手、特にひと気のない木戸へわざわざ遠回りし、そっと城内に戻った。  足音を忍ばせ、できるだけ気配を消したつもりが、うしろめたさがふるまいにあらわれたせいか、普段なら出くわしそうにないところで、見つかるはずのなさそうな相手と鉢合わせる。  上階の図書室にいるとばかり思っていたリィンセルだ。  わざわざ室を出ずとも、階上の住人が呼び鈴を鳴らせば、階下から湧き出るようにお望みのものが城内のどこへでも運ばれてくるのが貴族の生活と

    • 【今生編】16.墓参

       翌朝一番の汽車で、エリカは煙霧京へとむかうことになった。  鉄道のほうがやや遠回りで時間もよけいにかかるが、自動車で悪路を延々走るよりは病人に障りが少ないだろうとの判断からだ。  エリカの付き添いにはミズ・ジョンソンと、帝都の事情にあかるいエヴァグリン夫人も同行する。帰路に自動車を使わずにすんだ夫人は、どことなく安堵した様子だ。  白雪姫様に風邪をうつすようなことがあってはいけないというので、城の子ども部屋の窓から見送るリィンセルの眼下では、熱で赤い顔したエリカの、「せめて

      • 【今生編】15.森の散歩道

         雪花亭のあるニヴァリス・パークは、建物と人の密集する煙霧京市街では相当にひらけているが、青空の広がる田園で、土を踏みしめながらのびのびと散歩する開放感はまた格別だ。  階下から連れ出された星星も、はしゃいだようにあちこち動き回るので、アリアドネが注意して呼び戻さなければ、城近くで生い茂る森へと紛れ込んでしまいそうだ。 「城の周辺の畑や牧草地は、白雪公がこちらへおいでの折に馬で狩猟を楽しまれることがあるので、石垣や柵での囲い込みをしていません。ほら、ちょうどあそこに木立の並ん

        • 【今生編】14.カサブランカ城へ

           何時間走っても同じような風景の続く、なだらかな丘陵の牧草地にどこまでも伸びた道を、スノードロップ家所有の二台の箱型自動車が前後して進んでいる。 「スノードロップ家の本領地だというから、てっきり汽車を使うとばかり」  朝早くに雪花亭を発ち、払暁を経て日が高くなるあいだ、刻々と移り変わる色彩の鮮やかさが景色にあるうちはよかったが、市街を離れ、郊外にさしかかってからほとんど変わりばえしない車窓の眺めにうんざりしたのか、冬物の旅行服を着込んだアリアドネがため息まじりに言うと、ひとつ

        【今生編】17.長銃の夜(上)

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        • プリンセス・スノードロップ
          17本

        記事

          【始祖編】13.

           もはや娘のシェヘラザードが世間にどれほど恥をさらそうが、ファーロン・ボイドの心は動かなかった。  娘の人生は娘のものだ。  親とはいえ、自分以外の人間の生き方に口出しする権利などあろうか。  子を矯正するのは親の義務と思われがちだが、ファーロンに言わせれば、年長者が若輩者を説教する楽しみの正当性に過ぎない。ましてシェヘラザードは、とうに行き遅れと後ろ指をさされる歳の成人だ。  後妻だろうがなんだろうが、嫁ぎ先があるだけましというもので、娘が笑い者なら、その父親は咎人だ。すっ

          【始祖編】13.

          【始祖編】12.

           ファーロン・ボイドには息子がなかった。  キャラバンにいるとき砂漠で娶った妻が一人娘のシェヘラザードを産んだあと、アルビオン王国のニヴァリス家に腰を落ち着けるころには、幼い娘をファーロンに残して妻とは死別していた。  アルビオンのマネット領主ニヴァリス家の、若き当主ナサニエル・ニヴァリス卿は、砂漠を隔てた東方諸国と交易するキャラバンに随行し、大陸各地で珍しい植物を採取する旅に出た。このキャラバンに養われ使い走りをしていたのが、孤児のファーロンだった。  世間知らずのナサニエ

          【始祖編】12.

          【始祖編】11.

           スノードロップ家と白雪公のなりたちを語るには、退嬰の現ワトリング王朝に三人の女王が連なる当代より、アルビオン史を数百年余さかのぼる。  まだアルビオン大英帝国が成立する以前、『白き断崖の岸辺』……アルビオン王国の時代だ。  中世アルビオン国内に勃発した百年戦争を挟み、ビーフィッド王朝は前後期に二分される。  冗長な前期の歴史が過ぎ、後期ビーフィッド王朝の趨勢が語られたのちに、王冠戦争で現ワトリング王朝が成立する。  その前期ビーフィッド王朝最初のアルビオン国王、すなわち『調

          【始祖編】11.

          【当代編】10.昔語り

           雪花亭の使用人の中でもローズオンブレイは特に外出が多く、昔の医者仲間に会うだの、なにかの研究会だのでひんぱんに邸を不在にしている。  知的職業の医師は、聖職者や弁護士とともに紳士階級に含まれるため、常から邸の階上で生活し、ほかの使用人のように力仕事をすることもない。そこが紳士階級の教育を受けながら執事となったコハクとは違うところだ。  勉学に集中できるのは連続して三時間が限度、との自説を唱えるローズオンブレイの方針で、リィンセル(近ごろはアリアドネも)との授業は、休憩を挟み

          【当代編】10.昔語り

          【当代編】9.短剣の花嫁

           淡い暁光が階下にも届く朝方、地上と階下をつなぐ階段を降りてくる軽い足音があった。  家令のアダムシェンナとローズオンブレイ医師をのぞいた使用人が、厨房に参集して朝食の準備に忙しくしている最中のことだ。もちろん邸の執事のコハクもかり出されている。  朝は特に、一日の食事の仕込みのできるところをまとめてすませるので、人手は多いほどいい。 「執事さん、今よろしい?」  毛皮の外套を着込んだアリアドネだった。  たまたま厨房の戸口に近いところにいたのが、腕まくりをしオーブンへ鉄鍋を

          【当代編】9.短剣の花嫁

          【当代編】8.再会のとき

           初雪までに車の運転を覚えようと、コハクはサフィルに頼んでスノードロップ家所有の屋根付き箱型自動車を融通してもらい、空き時間に雪花亭とパークの人夫小屋のあたりをくり返し走らせた。  ジョゼが事故に遭ったときはまだ初期型のオープンカーだったから、かれは横転した自動車から投げ出されて全身を強く打ち亡くなった。自動車の型や構造の変遷は、コハクに年月の経過を実感させる。 「ギアの切り替えがうまくいかんな」 「回転数をよく見てくだせえ。発動機の振動と音を聞いて、クラッチを踏むタイミング

          【当代編】8.再会のとき

          【当代編】7.生まれ変わりの娘

           そこらの石を拾い集め、中庭で急ごしらえしたかまどで朝夕煮炊きをし、そのかまどのそばにたらいを置いて、温室の水路で汲んだ水で洗濯をするサーカス団のひとびとを、雪花亭の窓から遠目に眺める家令アダムシェンナは、「日がな一日大騒ぎだな」とこぼして嘆息した。夜は夜で、あちこち洗濯物がぶらさがった温室から印度の音楽と歌声が響き、それらに混じってにぎやかな拍手や笑い声がたびたび起こった。それでも、夜半を過ぎる前に宴をおさめて寝静まってしまうのは、かれらなりにリィンセルへの義理を守っている

          【当代編】7.生まれ変わりの娘

          【当代編】6.印度のサーカス団

           欧州大陸とアルビオン大英帝国の本土アルビス島を隔てるドーヴァー海峡を渡るには、大陸側からであれば、フランセーズ王国に臣従するブリタージュ公国のカレー港で船に乗り、対岸のアルビス島ドーヴァー港へ向かうのが一般的だ。  印度王国を旅立った『ラムダスファミリー・サーカス団』は、欧州大陸各地をおおむね巡業すると、荷馬車の列を連ねてカレー港から船に乗り込み、大陸西部のはずれに位置するアルビス島へ渡った。  どの地でもサーカスは好評だったが、大陸を移動するにつれ、暑さに慣れた印度のひと

          【当代編】6.印度のサーカス団

          【当代編】5.新品執事

           スノードロップ家と父の忌があける前に、コハクはいったん大学へ戻った。  卒業までは三ヵ月あまり、その準備を考えると葬儀に参列するだけでも微妙なところだというのに、あまつさえ、新品執事として慣れない葬祭儀礼に忙殺されて数日をつぶすなんて本当なら論外だった。  二心ありきとはいえ、亡くなった父の跡を継ぐと決めた以上、コハクはなんとしても卒業しなければならない。  その年の初秋、睡眠を削って論文を書き上げ卒試に適ったコハクは、雪花亭へと帰ってきた。  大学の学生寮を引き払い、雪花

          【当代編】5.新品執事

          【当代編】4.女王の果樹園

           届けられたばかりの信書をたずさえ、アルビオン大英帝国中央議会宰相のシャナハン・アイギスは、王宮内にもうけられたリザベル女王の執務室ではなく、ド・ポワッソン草庵へと足を向けた。  広大な王宮の敷地は、『白雪公』スノードロップ家の煙霧京での荘園と境を接している。  その荘園の大半をニヴァリス・パークとして開放する白雪公の、町屋敷たる雪花亭と、王宮本殿をあいだにして反対側にあるのが、ド・ポワッソン草庵だ。  古ガリア語の名を持つド・ポワッソンは、『黒馬公』セングレン家現当主のダネ

          【当代編】4.女王の果樹園

          【当代編】3.弔問客

          「葬儀には男手がいる。家令殿は、荘園の人夫をいくらか呼んできたまえ」 「そうしよう。ではコハク、さっそくだが働いてもらう。冠婚葬祭の仕切りは執事の役目だ。君が、はじめからイヴォークの跡を継ぐつもりであったなら、このあたりの段取りは多少なりと掴めておったろうな」  ローズオンブレイ医師はともかく、辛辣なアルビオン人の例に漏れないアダムシェンナに、しょっぱなから当てこすられて、コハクは憮然となる。寄宿学校では上級生の身の回りを世話する当番生を務め、寮の小間使いの手伝いも長年こなし

          【当代編】3.弔問客

          【当代編】2.さようなら、おとうさま

           数百年続いてきたスノードロップ家を、小さなリィンセルは七歳で継ぐことになった。  リィンセルを産んですぐにお母様は亡くなり、お父様に新しい奥方様を迎えられるそぶりがいっこうに見られなかった時点で、まわりの大人たちは皆、次代の女公のことを考えただろう。ただ、思っていたよりその時の訪れは早かった。旧き家名を、小さな白雪姫様が幼くして一身に背負われることを聞くにつけ、市井の片隅の人々、アルビオン大英帝国臣民の誰彼もが心を痛め、同情した。  リィンセルの愛するお父様……当代の白雪公

          【当代編】2.さようなら、おとうさま