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短歌連作サークル誌 あみもの 第七号/各連作より一首選
2018年7月24日に発行された、短歌連作サークル誌『あみもの』第七号。
さまざまな連作があり、とても興味深かったです。私も初参加させていただきました。
ご一緒させていただいた皆さま、そして編集発行人の御殿山みなみさま、ありがとうございました。
だいぶ日が経ち、発行日より次号の〆切り日の方が近くなってしまいましたが、皆さまの連作から、好きな一首を以下に引かせていただきました。
なお、時間の都合上ま
塔 2017年2月号掲載歌/川田果弧
自転車に通学してゆく少女らのスカートの襞交互に尖る
ハンドルの無き蛇口立つ裏庭にかたばみの花咲きて静もる
秋晴れのプールサイドに軽鴨は嘴ふるはせて首をしまへり
おもむろに吹かるる Over the Rainbow 虹の手前に二度つまづきぬ
荻の穂の揺るる彼方にかがよへり今し吹かるるトランペットが
荻原はクリーム色の陽に染みぬとんび平たき螺旋を描く
死のうよと誰彼にいふ酔ひどれの袖口に貝の釦が光る
塔 2017年1月号掲載歌/川田果弧
声あげて素足に浅瀬をわたりゆく子らの腓にひかりの鱗
積雲の天辺きらり光りをり乗り越したれど顔には出さず
曽祖父は名をニヘイと言ふ うはごとに西瓜欲りつつ逝きにしと聞く
眼鏡にぶつかり来たる青金蚉 日なかの月はうすく削がれて
登戸駅ゆ乗りしタクシーの助手席に多摩川梨の積まれてをりぬ
恋人に梨買ひにきとふ運転手の形よき眉ミラーに映る
ひと枝に咲き残りゐる百日紅あなたの声を憶えてゐます
(若葉集/江戸
塔 2016年12月号掲載歌/川田果弧
小さなる木彫りの象のキーホルダー開くドアもう無き鍵に下がれる
けふ夫は小諸へ行きて天気予報地域選択長野県とす
公園へ移されし馬頭観音に紅き造花の供へられをり
消火器にバリエーションのありと聞き人気色とふオレンジを買ふ
立ち話する人の影伸びゆきて隣町との境越えたり
エアコンの修理工来て皺ふかき手にはふたつの結婚指輪
波のごと風はかたちをあらはして夏野の草の裏のしろがね
(若葉集/前田康子選)
塔 2016年11月号掲載歌/川田果弧
前輪のなき自転車の棄てられておしろいばながめぐりに咲きぬ
教卓の抽斗に飼ふお蚕に水泡のやうに君は触れたり
スプライト二缶を投ぐ雲梯の上で夕雲眺めゐる君に
夏の野に紛れてわれもそよぎたり 君の街より夕立よ来よ
自転車の二台がふいに近付きてせえのと少年少女にキスする
別れしとふ電話のまたもかかり来ぬ薬缶の麦茶いまだ温とし
ひさかたの月の真下のバス停で人運びゆくバスを見送る
「ウスターソースちよつと垂ら
塔 2016年10月号掲載歌/川田果弧
わが嫁ぐ朝に姉貴と呼びかくる弟鴨居に額をつけて
ベランダに雀の糞の黒くあり野に桑の実の熟れたるころは
僕といふ一人称のをみなごのあけぼの色のひなげしを摘む
音のなき裏門に咲くあぢさゐは監視カメラに撮られてゐたり
どの人も供花を提げつつ列となり服部坂をしづかに上る
苔生せる地蔵の面眺めをり 祖父に遺影の一枚もなく
コトコトと父の手になる椅子揺らし子は『人体のしくみ』読みをり
チヨさんは目の見えぬ犬か
石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも / 志貴皇子
万葉集より。
雪解けの流れのほとりに芽吹いた蕨。まだ地表に小さく身を屈めてはいるが、春の訪れを喜ぶかのようにしぶきを受けてきらきらと光る。
上句は「の」が繰り返されることでテンポよく勢いをもって進む。声に出してみると、その響きはどことなく落ちてゆく水音を思わせる。下句は「萌え出づる春に」の字余りが、小さなふくらみをもって穏やかな結句へと到る。言葉どおり芽吹きの兆しのよう。一首全体が透きとおる
舟が寄り添ったときだけ桟橋は橋だから君、今しかないよ/千種創一
歌集『砂丘律 』より。
一読して青く静もる夜の湖畔を思い浮かべた。
「舟」とは「君」か、はたまた詠み手自身のことか。「君」との間には何か躊躇するような(おそらく避けては通れない)ことがあり、ひいて二人の関係性の変化も予感する。惑う心や、確約のない相手との結びつきに、揺れる小舟のたたずまいが重なる。
相手を諭すような語り口は、同時に自身にも言いきかせている。四句まではモノローグで、実際に声
雀らを追ひちらし立つひよどりの顔つきはどこか誰かに似てゐる/清水房雄
餌を独占するために低く旋回して雀たちを追い払うひよどり。着地して胸を張る姿には「立つ」という言葉がしっくりくる。
「誰かに」としているが、詠み人の脳裏には特定の人物の顔が浮かんでいるに違いない。下の句の二度の字余りが、口をついて出かかったその人の名前をのみこんだかと思わせて、歯切れの悪さがかえって微笑ましい。
ともかくも、ひよどりに似ているというのなら憎からず思っている相手だろう。素直ではな