当たり前だという価値観がもはやどうでもいいもので、実際にそれは当たり前ではなく、そう思い込んでいるだけだ（思い込まされているだけだ）ということが、また「当たり前」になっているのが今である。

　その当たり前は、たとえどのようなものだったとしても、ある「権力」によって（大きな力という意味での）そう定義づけられているのだと言うことがある。
　しかし、たとえそれが事実だったとしても、まさかその当たり前が3大欲求にすら及んでいるとは誰も思わなかったはずだ。
　つまり、私達が生物的に当然に欲している食や性など、即ち生きようとする欲望でさえ、それはもしかすると、絶対的に当然のものではないのではないかと疑われているのが、そんな実感が覚えられ始めているのが、今という時代なのである。

　いったい、何が当たり前で、何がそうでないのか？　生きるためにしなければならないと思えることすら、それがもしそう思わされているだけだとしたらどうだろうかと、考えるほどに、いいしれない恐怖を覚える。本当に、その食は必要なのか？　その性は必要なのか？　そして本当に、その生きることは当然なのか？　そのように考えることは、もう止められることはない。笑われることは少ない。誰にだって、「当然」を、それがどんなものだったとしても疑い、抵抗する権利だってある。
　もし、より良いものを求めようとする時にその当たり前が不都合ならば、それがどんなものであっても、あなたにとってそれは当たり前ではないはずだ。なぜなら第1に考えるべきは「自分」だから、唯一、もし当然だと思わなければならないのならばそれは「自分」だから、それを阻害するような何かは当然に、当たり前だと思われてはいけないだろう。

　この、個人主義が「当然」になった現代で、それの邪魔をするものは等しく「当然でない」。だから、3大欲求ですら、その地位は安泰ではないのだ。それらですら、何かの権力によって必要だと思わされているのかもしれないという懸念が、疑念が、観念が生じてくるのは止められない。

　そんな「今」に当然などない。あったとしても、崩れ去ってしまう無常なものだと思った方がいい。だからそんな「当然」に縋ってはいけない。容易なことではなくとも、むしろそうだからこそ、私達はまさに今の時代を定義づける「自我」に、「己」に責任を持つことが必要である。「当然だ」ではなく。「自分が」どう思うのか？　どうしたいのか？　どう進もうとするのか？
　生の基本すら崩れようとしている今、「私」こそが1つ強いの指針である。

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