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アメリカ建築大学院受験への道標

建築の大学院に進んだ人の中で、留学や海外インターンに行く人はぼちぼちいるように思います。その中でも、海外の建築大学院、特にアメリカの大学院を受験して留学へ行く人はあまり多くないかなと思い、自分の体験を残しておこうと思いました。

また何よりも、出願のプロセスの中で助けてくれた方々に大変お世話になり、自分も同じように、同じ立場の人の力になれればと思いました。特に、海外経験が少ない人、周りにあまり参考になる人がいない人、アメリカになんとなく興味はあるが良く分からない人にこの記事が参考になれば嬉しいです。

なお、英語の勉強法、留学の動機などいくつかのトピックについては別記事にて書きます。この記事で全体像がなんとなくつかんでいただけたらと思います。

1. はじめに

アメリカ大学院の受験は日本の受験と異なり、ほぼ全てが書類審査で完結します。なので行きたい大学をリサーチ、いくつかピックアップし、複数校出願して合格したところから選ぶというのが主流だと思います。大体必要書類は同じなので、複数校出願が比較的容易です。絶対にここに行きたい!という学校が見つかるのは良いですが、大体この辺かな?という感じでも全然いいと思います。就活のマインドと似ていて、マッチングという感じだなと思いました。出願のプロセスの中で、自分のやりたいことや行きたい学校の照準を合わせていけるといいと思います。ヨーロッパの大学でも提出書類とかは近いですが、スケジュールや言語の要求が違ったりした気がします。どちらも受けている人もいるので、リサーチするといいと思います。

また、アメリカの修士のコースはどこの学校も大体コースが2つあります。M.Arch1という2〜3年くらい、建築外の人も入学可、アメリカの建築士の資格に近づける、日本の修士に近いコースと、M.Arch2という1〜2年くらい、学部が建築の人限定、M.Arch1より分野が絞られてる(?)コースがあります。これも学校によって割と違うので気をつけて調べましょう。期間も内容もバラエティ豊かです。

以下僕の基本情報です。

東京大学工学部建築学科卒(隈研吾研究室)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻M2(今井公太郎研究室)
TOEFL: 96/120 (R27 L28 S21 W20)
GRE: Verbal 144, Quantitative 165, AW 3.0
GPA: 2.33/3(学部)、2.88/3(修士)
合格:UCLA(M.S.AUD), SCI-Arc(M.Arch2, EDGE), USC(M.AAS), Pratt(MS Arch)
不合格:Yale(M.Arch2), Cornell(M.S.AAD),Princeton(Post-Professional)

いくつか合格を頂きましたが、UCLAに進学予定です。

2021/05/25 追記
UCLAに進学予定でしたが、SCI-ArcのEDGEプログラム、MS Synthetic Landscapesというコースから奨学金付きで合格を頂いたので、現在はそちらに進学予定です。
これもそのうち別記事を書こうと思います。

ちなみに一浪一留(院浪)、交換留学も前年落とされており、受験運に恵まれませんでした……。また、お金ない系の学生です。学部は家計的に授業料免除、現在一人暮らし、奨学金で家賃払ってバイトして生活費稼いでます。親の補助がほぼない状態です(本当に行けるのか……?)。お金なくてもあきらめないで……。
海外経験は旅行程度です。東南アジアに旅行計10日、卒業旅行でスペイン2週間くらい。院で自分以外全員留学生のスタジオ取ったりもしましたが、やはり会話は難しい。詳しい英語力は他記事で。
なお僕が受かった学校を調べてみると分かりますが、向いていそうな学校に受かり、向いてなさそうな学校に落ちました。
GPAは一応提出もありましたが、特に意味はないと思います。大学院の成績とか参考にならないので。

2. 留学に必要なもの

目次に書いてある通りですが、大体の学校で出願の際に要求されるものは
Statement of Purpose(SOP、エッセイのこと)、CV(履歴書)、成績表、GRE、TOEFL、推薦状×3(数は学校による)、ポートフォリオ
といった具合です。これらのマテリアルがそろえば大体出せます。
そして僕が現在も苦しんでおり、留学に最も必要と言っても過言ではないのは奨学金です。奨学金に申し込むには、エッセイ、成績、英語スコア、推薦状あたりが必要です。いっぱい出しましょう。

3. スケジュール

アメリカ大学院の出願時期は、早い学校だと12月頭、ほとんどは1月初旬~中旬に締め切りがあり、次の秋学期(9月~とか)に入学、授業開始です。僕の場合は一番早いところでUSCのM.AASというコースが12/1に締め切りでした。M.arch1というメジャーなコースは12/15とか1/4とかそれくらいに締め切りが多かった気がするので、その辺です。よって、そこに上記の必要な提出のマテリアルがそろえばいいわけなので、ちょうど授業開始の1年前くらいに準備を始めればいいと思いました。

という程に甘くはありませんでした。留学には奨学金が必要です(詳しくは次項)。8月に2,3個奨学金の締め切りがあったり、アメリカ大学院留学界隈で有名なフルブライト奨学金は留学開始の前年の5月とかに締め切りでした。つまり最初の締め切りは留学開始の前年5月ごろです。

フルブライト奨学金は英語のスコア要求はありませんが、夏にあるいくつかの奨学金はTOEFLスコアを要求されます。それがなんと90~100点……!
留学前年の夏までにTOEFLで100点を取っておくのがベターです。と言っても僕はサッパリでしたが……。
初めてTOEFLの問題を解くと割と絶望します。100点取るには半年~1年くらいコツコツ勉強しなければなりません。よって、留学開始の1年半~2年前から準備を始める必要があると思います。

ちなみに僕のスケジュールは以下の通り。人のことは言えません。

2019/05 TOEFL勉強開始
2019/08 TOEFL 1回目、勉強終了、トビタテ申し込み
2019/10 学内交換留学申し込み
2019/11 学内交換留学面接、落選
2020/04 TOEFL勉強再開
2020/07 UCLAの先輩にコンタクトを取る
2020/08 TOEFL 2回目
2020/09 船井情報財団奨学金
2020/10 TOEFL 3回目、平和中島財団奨学金、ポートフォリオ制作開始、SOP考え始める
2020/11 TOEFL 4回目、GRE 1回目、イノアック奨学金、推薦状作成依頼
2020/12 USC出願、GRE 2回目、SOP執筆&添削、ポートフォリオ仕上げ
2021/01 SOP仕上げ、Yale, Cornell, Princeton, Pratt, UCLA, SCI-Arc出願
2021/02 FUTI奨学金提出
2021/2月下旬~3月中旬 合否通知
2021/04 本庄国際財団奨学金
2021/05 SCI-Arc EDGE 出願、合格

上にも書きましたが、僕は奨学金が夏に締め切りと知らず、スコアが間に合わずあまり出せませんでした……。英語のスコアをとにかく早めにとる、TOEFLの程度を早めに知ることをおすすめします。

4. 奨学金

奨学金は留学、特にアメリカ大学院への留学には必要不可欠です。アメリカ大学院は学費が破格です。アメリカンドリームです。学費は1年でおよそ500万、生活費も1年で200~300万くらいです。どこかで資金を調達しないと死にます。奨学金には主に2種類、財団から出る奨学金と、入学先の大学からもらえる奨学金があります。

財団からもらえる奨学金は、申し込みに必要な書類が出願の要求書類と大体同じです。エッセイなどもここで書いておくと後々楽になります。また、財団からの奨学金そのものがコンペの賞みたいなもので、実力の証明にもなります。フルブライトなどに通ってると大学院も合格しやすくなります。
財団からの奨学金はこちらのサイトにかなりまとまっています。しかし、世の中には様々な奨学金がある、締め切りが大学により異なる場合があるなど厄介なので、自分でも入念に、定期的にリサーチしましょう。気づいたら締め切りは終わっています。

入学先の大学からもらえる奨学金は、提出書類から成績上位者に提供されます。学校によって奨学金をもらいやすいところと、全然もらえないところがあるそうです。僕はSCI-Arcから$30000、USCから$26515、Prattから$25165を提示されました。UCLAはまだ審査中なので分かりませんが、そこそこの確率でもらえることがあるようです。知り合いの方はUCLAで初年度学費免除だとか。財団の奨学金に落ちてもまだチャンスはあります!
また、出願、合格後でも間に合う奨学金も少なからずあるので、最後まで調べて財源確保しましょう。

2021/05/25 追記
UCLAからは奨学金を頂けませんでした。残念。よく見ると、M.S.AUDは社会人向けかつ自費が中心のプログラムだったようです。それでも奨学金をもらっている人はいるので実力不足でもあります。
そしてSCI-ArcのEDGEプログラムは、学費がおよそ$75000(!)でしたが、$45000の奨学金を頂きました。額が大きすぎてもう感覚が分かりません。

5. TOEFL/GRE

アメリカ大学院を受験する際に、英語がネイティブでない場合はTOEFLかIELTS、GREといった英語試験のスコアを提出する必要があります。スケジュールでも書いたように、奨学金に間に合わせるには入学前年夏までにTOEFL100点が理想ですが、そんなのはなかなかうまくいかないです……。大学出願に向けての目標点数と時期、勉強法などについては別記事にて。

6. Statement of Purpose (SOP)

僕はアンビルドに興味があり、建築の表現の幅を広げることで未来を示す建築家の役割の拡張みたいなものに興味があったので、それに近そうなことをやっている学校(UCLA, SCI-Arcとか)をたまたま見つけて出願を考えました。

そこで、Statementを書く際に、今までの自分の作品作りや活動、そこから次は何をしたいのか、なぜその学校が一番それをするのに適しているのか、という内容を書きました。内容について詳しくは別記事で書こうと思います。

学校ごとの要求用件をざっと並べます。
UCLA: Statement of Purpose (500words), Personal Statement (500words), Statement for M.S.AUD (200words), Statement for studio (オプション)
USC: Statement of Intent 文字制限なし
Yale: Personal essay (400words)

こんな感じで、学校や年度によって条件が違いますが、大体が500~1000wordsの作文を課されます。Harvard GSDとかはless is moreについて500words書けみたいな感じだったような気がします。

これをある程度自分の中で(内容面に関して)スムーズに書けることが、その学校との適正を判断するのに役立つように思います。自分の興味と合ってなさそうな学校は、その学校が一番行きたい、行くべきだというところが書きにくくなります。僕はHarvardはless is moreか~と思って書かなかったり、Pennsylvaniaを受けようと先生方に推薦状までもらいましたが、エッセイでなんか違うなと思い受験をやめました。
合否結果も何となく納得感があるような。実力不足とかもありますが、学校ごとの適正もあるので、その判断には必要なプロセスだと思います。面倒で大変ですが……。

あと英語添削、内容添削をしてもらうことは必須だと思います。人を見つける、何度もラリーすることを考えると、ひと月前くらいには見せられる状態である必要があるかもしれません。
それこそ奨学金を出す際にある程度内容が固まっている人が多いらしいので、これも早めに考えたほうがいいですね。

7. 推薦状

意外と曲者なのが推薦状。出願にも必要ですが、奨学金にも必要です。
日本ではあまり推薦状を提出するというプロセスはないので、良く分からない教授の方もいるかもしれません。僕は幸いそういうのにも慣れている先生方だったので、お願いはスムーズにできました。

しかし、大抵の場合は、先生から下書きを書くように言われます。つまり自分で自分の推薦状を書かなければなりません。おまけに3通あるので、最悪の場合自分で3つのバリエーションで推薦状を書くことになります。
僕は助教の方が全部書いてくださったので二人分書きました。そのうちの一人はテンプレを持っていたので内容を考えればよかったのですが、もう一人はすべて自分で書きました。これが地味に骨の折れる作業なので早めに初めてやばさを確認しておきましょう。

ネットに落ちてるものや、知り合いや友人、先輩からもらったものを参考に書きました。下書きを書く→教授にサインをお願いする→学校に送ってもらう、というのが意外と時間を食ったりします。先生方は忙しいので、これもギリギリになると迷惑になってしまいます。2か月前くらいにお願いできるといいですね。

ちなみに僕がお願いした三人は全員東大の先生で、
・学部時代の指導教官、世界的にも有名な教授
・上の教授の研究室所属で、UCLAらへんに知り合いのいる助教授
・現在の指導教官、過去にHavardとかに学生を推薦している
という感じでした。正直助教以外はあまり具体的な話を知ってもらえておらず、自分で書いたのでどうなんだろうという感じです。志望校の出身の先生、知名度のある先生に書いてもらえると強いです。これに関しては割と僕は有利だったと思います。

しかし、知り合いの方の推薦状で非常にあっさり「こいつ優秀だよ~」くらいのものもあったりしたので、これも重要度は分かりません。他の分野だと推薦状はかなりウェイトが大きいとよく言われていますが、建築だとやはりポートフォリオの方が大きいかなと思うので、そこまで躍起にならなくてもいいと思います。

8. ポートフォリオ

建築の海外大学院受験において、最も重要なマテリアルがポートフォリオです。ポートフォリオが最強ならどこでも受かるとすら思います。詳細は別記事に書こうと思いますが、概要を書きます。
まず、日本の就活とかで見るポートフォリオと、海外大学院受験でのポートフォリオはかなり異なるものだと思います。issuuで"architecture portfolio"とか、"application portfolio"とか、学校名とか入れて検索すると色々出てきます。正直強すぎて萎えます。
しかし、どんなポートフォリオだとその学校に受かるのか、傾向など異なると思うので、色々見て雰囲気をつかみましょう。
僕は暇なときに卒制を少し直したりもしていましたが、本格的に始めたのは10月くらいから。半月で1作品くらいだったような。早めに1作品をある程度完成させてみて、どれくらい時間がかかってやばいのかを把握しないとパンクします。一方で、「完成」することはあまりないです……。もう直せるところはないという状態にはなかなかならないので、優先順位をしっかり整理して作りましょう。スケジュール管理が大事です。

9. 参考サイト

特にMBAなど、留学の情報は多少ネットに落ちていて、参考になるものも多いですが、建築のものはまだまだ少ないです。大学院受験に限らず、見つけたものやよく参照したものを載せます。TOEFLやポーフォリなどはそのトピックの記事で載せます。

ARTITECTURE BLOG
お世話になった助教の方の昔の留学の記事です。まとまっている上、SOPなど実例が参考になりました。

月岡 平 TAIRA TSUKIOKA – BLOG
UCLAを卒業し、現地で働いてる方。Hulicコンペで名前を見て検索して発見しました。留学に限らず参考になります。

XPLANE
海外で修士、博士を取るための情報まとめ。プロセスが大体分かります。このサイトを早めに見つけたかったです。

mameoisiiyo.com
主にTOEFLの参考ですが、気持ち的にも助けられました。パワーを感じます。

船井情報科学振興財団
情報系の奨学金ですが、体験談など多く載っており参考になります。建築の方も2020年にいましたが、そちらの方は強くて心が折れました。

OICE
東大工学部の交換留学に関するサイトです。交換留学に関してですが、報告書が読めて参考になります。

Tech-Tech-MOCCHI
NYの建築事務所にインターンしていた方のブログ。海外インターンの情報がかなりまとまっています。

ハーバード大学建築・都市デザイン留学記
企業留学(?)のようなので少し事情は違うようですが、GSDの課題の様子などがよく分かります。

There is no Magic!!
TOEFLで調べてると必ず出てくるサイト。留学に関しても色々記事があります。

Atsueigo
同じく英語学習で調べると必ず出るサイト。体験談がモチベにもなり、有益な情報も色々あります。

大学院留学コンサルティング
必要書類やスコアなど情報が様々あります。

トビタテ!留学JAPAN
初めは見ていましたが、多様過ぎて参考になる人が少ないです。

栄陽子留学研究所
体験談やtipsなど多数。

給付型の奨学金をもらうには
大学の先輩のnoteの記事。奨学金だけでなく、エッセイを書く際にも参考になりました。

米国大学院出願① 研究実績のない学部生がインターンを通じてアメリカPhD合格を勝ち取った話
分野は違いますが、かなり情報がまとまっています。

Masaki.I🇺🇸パーソンズ美術大学 非常勤講師
経歴強そうです。最近見つけましたが、とても参考になります。

ちょこっとプログラミング
プログラマの方のブログ。推薦状やTOEFLの話があります。

10. 終わりに

海外大学院受験を終えて思ったのは、受験なので当たり前ですが、準備が長期にわたるのでスケジュール管理が非常に重要だということです。人に見せる機会を作って無理やり進めましょう。就活のポーフォリ相談会とかを利用して目安とし、一応就活しつつ進捗を生んでいました。
あとは一緒に作業してくれる人がいた方がメンタル的に良いです。卒制と同じです。一緒に受験する人がいるのが一番ですが、なかなかいないと思うのでその点が大変です。僕は修論書いてる同期と一緒に作業してました。

また、今までの作品の延長に行きたい学校があると感じました。実力があれば様々なタイプの学校に同時に合格をもらえるのかもしれませんが、そこまでには至らないなと思いました。ポーフォリやSOPなど、受験のプロセスですでに選抜されている気分になりました。最初にも書きましたがマッチングですね。

最後に、ノートは有料記事にできるらしいですが、お世話になった方々からの受け売りな上、その方々の無償の愛や男気(?)を鑑みるにとても有料にはできません。しかし、極貧なので役に立ったと思われた方は投げ銭していただけると大変喜びます。
概要と思って書いていたのに長くなってしまいましたが、この記事が多くの人の参考、勇気になれば嬉しいです。

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