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わたしのはなし:文字と癒しと虎と馬


今回は、わたしの幼少期のトラウマに関する思い出話が出てきます。


Instagramの検索画面に不可抗力で映し出されるおすすめの羅列の中に、とても美しい筆運びで美しい文字を書く動画を見つけた。初めて見つけたのはもっと前だったかも知れない。

家にある筆ペンを手に取り、真似をしてみた。
ゆっくり、ゆっくりと文字をつくる。
ゆっくり書く事で筆先の力加減を知り、やがてコントロールが可能になってゆくようだった。
ゆっくりと文字を生み出すその行為そのものが、とても心地よいことに気付いた。
そうやって出来上がる文字は今までの字と違い。なんだか生まれたことが誇らしく、嬉しそうだった。

こんな風に自分の文字と向かい合うのは、生まれて初めてのことだった。

わたしは長いこと、字を書く事に苦手意識があった。何とか美しい字を書けるようになりたくて習字ノートを買っても、三日坊主で終わってばかり。そして何より、字を書くのが苦手になった理由は、幼少期の父の怒号だった。

先天的な肝炎を患い、兄弟の中で唯一発症していた父は、疲れやすく気分の揺れが激しく、瞬間湯沸かし器のように突然沸点に達することがままあった。

小学校低学年の頃、家で宿題をしている時に母に質問をしたら、「お父さんが帰ってきたら聞いてみたら」と提案してきた。わたしもそうしよう、と父の帰りを待ち、宿題を教えてほしいとお願いをした。

どれどれと宿題を覗き込んだ父は、急に顔色を変え「こんな事も分からないのか」と、ものすごい剣幕で怒鳴り始めた。
教えて貰えるどころか、理不尽に怒鳴られたわたしは泣きじゃくり、その後も何とか頑張ろうとしても怖くて手が震え、もう何もかも涙でぐしゃぐしゃで、宿題どころではなくなってしまった。
それからは、何と問えば良いか分からないのもあったが、学校でも先生に質問することが出来ず、家でも怖くて聞けない。
そんな八方塞がりの状況が、分かったふりをする落ちこぼれをつくってしまったように思う。
そしてその件以来、誰かが見ている気がするだけで、文字を書く手が震えて力が抜けていってしまうようになった。
その震えが嫌で、悲しくて恥ずかしい気持ちを振り払うように、書き殴るように字を書くようになった。単発的に力を込めれば、文字を書く事が出来るからだ。

今なら、「分からないから聞いているのだが?」と冷静に突っ込めるが、ものすごい剣幕で怒鳴られた当時のわたしには到底無理な話であった。
反抗期には父の足の間を強かに蹴り、父が理不尽な怒りを顕にする時には倍にして応戦した。
そうしないと怒鳴った後はその事すら覚えてもいない相手に納得もできず、傷つくだけでは生きていけなかったのだ。

それでも父のおかげで、まわりで怒鳴っている人がいてもある一定気にしないでいられる、というスキルが身についたのは、心臓にお得な話なのかもしれない。

幸い暴力は数える程度だが、父が突然理不尽に怒り出し、暴言を吐くのはこの時だけの話ではなく、私が生まれてからのデフォルトであり、現在も変わらないのである。社会人になってからは、距離を保っているのでなんとか大丈夫である。
もちろん(?)、穏やかに会話が出来る時もある。

そんな理由から、わたしにとって字を書く行為は不穏な事であり、決してゆっくり向き合うものではなかった。

しかし、何らかのアリゴリズムによって現れた美しい習字の動画によって興味をもち、真似をしてゆっくりと字を書いた事で、苦手な行為がいつのまにか“心を落ち着ける行為”へと転化していた。
気持ちが癒されたと同時に、忘れていた記憶が久しぶりに蘇り、何とも言えない悲しい気持ちになった。
それでも、溢れ出てきた昔の悲しみに向き合う事で、克服出来そうな気がしたのは大きな一歩だった。

実は、字をゆっくり落ち着いて筆ペンで書くようになってから“セルフセラピー効果”以外にも、普段の字が格段に綺麗になる(私比)という大きな収穫があった。まるで太極拳のゆっくり修練した動作が、咄嗟の事態に身を守るように、字を書く動作が実を結んだのだ。
これについては、おぉお!や、なんと!びっくり!などの感嘆詞を連発したいほどの驚きである。
意識をしなくても、そう書きたくなり、丁寧な字が生まれてくれるのだ。

これは、最近の出来事の中で何よりも嬉しい発見だった。

fin

▪️おまけ▪️
わたしが、なんて美しいのだろうと感動した字を書いている方の、Instagramのリンクを以下の写真に貼っておきますね。

写真は並べてみただけの絵筆


あとがき
このお話はノンフィクションです。
思い出が多めな上、取りとめが無いのですが、文字を書くというアナログな行為がもたらす心身への健全な効果が絶大で、びっくりしたので文章にしてみました。
拙い文章ですがここまで読んでくださり、ありがとうございます!とっても嬉しいです!

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