JW172 帰って来た神様
【孝霊天皇編】エピソード27 帰って来た神様
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)の御世。
すなわち、紀元前255年、皇紀406年(孝霊天皇36)1月1日、大日本根子彦国牽尊(おおやまとねこひこくにくる・のみこと)が日嗣皇子(ひつぎのみこ)に定められた。
そして、あっという間に、九年の歳月が流れたのであった。
紀元前246年、皇紀415年(孝霊天皇45)のある日のこと。
ここは出雲国(いずも・のくに)。
出雲君(いずも・のきみ)である知理(ちり)のもとに、一人の家来が駆け込んで来た。
家来の名は、明速祇命(あけはやづみ・のみこと)(以下、あっくん)という。
あっくん「お初にお目にかかる。みどもが『あっくん』じゃ。エピソード94と95で紹介された、日御碕神社(ひのみさきじんじゃ)の宮司家(ぐうじけ)、小野家(おの・け)の祖先であるぞよ。」
知理「自己紹介のために、駆け込んで来たのか?」
あっくん「あっ! そうではござらぬ! 我(わ)が君に、お伝えせねばならぬことが!」
知理「なんだに?」
あっくん「帰って来たのでござる。あの御方が・・・。」
知理「あの御方? もしや、ヤマトの君の笹福(ささふく:孝霊天皇)が戻ってきたのか?!」
あっくん「さにあらず。帰って来たのは、素戔嗚命(すさのお・のみこと)にござりまする。」
知理「な・・・何を言っておるのじゃ? 帰って来たということは、どこぞに行っておったということになるではないか? ど・・・どこに行っておったのだ?」
そこに当該の人物、もとい神様がやって来た。
素戔嗚命こと「スー」である。
スー「そう! 俺が、俺こそが、素戔嗚(すさのお)だっちゃ! 今日は特別に『スーさん』と呼ばせてやるっ!」
知理「ス・・・スーさん。これは、どういうことだに?」
スー「まあ、簡単に言うと、韓郷(からくに)から戻ってきたんだっちゃ!」
知理「韓郷? そこは、どこにございますか?」
スー「汝(いまし)が、知らぬはずが有るまい。朝鮮半島のことだに。」
知理「申し訳ございません。読者のためだっちゃ。」
あっくん「今年(孝霊天皇45年)、韓郷から帰って来たと、伝わっておりまする。」
知理「さ・・・されど、なにゆえ、韓郷に行っていたのですか?」
スー「まあ、特に何も書かれとらんが、KARA(カラ)に会いたかったんじゃないか?」
知理「ま・・・まさかのアイドル・・・。そこは、せめて、TWICE(トゥワイス)と言ってほしかったに。」
あっくん「い・・・いや、どっちも二千年、待たねば・・・。」
スー「知理の言う、TWICEには、我が国のオミナ(女)も、三人ほど加わっているようだな?」
あっくん「ところで、理由はともかく、なにゆえ、今年になって帰国あそばされたのです?」
スー「居心地が悪くなったからではないか・・・と、作者は考えちょるようだ。」
あっくん「居心地が悪くなった? どういうことにござりまするか?」
スー「実はな。俺の玄孫(やしゃご)のことが、バレてしまったんじゃないかと思っちょるんだ。」
知理「具体的には、どういうことにございますか?」
スー「俺の玄孫こと、四世孫の八束水臣津野命(やつかみずおみつぬ・のみこと)こと『ヤッズ』が、出雲国を創った時のことだ。出来たばかりの出雲は、まだ小さかったんだな・・・。」
あっくん「えっ? 小さかったのですか?」
スー「そうなんだに。そこで『ヤッズ』は、国土を大きくしようと考え、韓郷や高志(こし)から、土地を引っ張ってきたんだっちゃ。」
あっくん「高志は北陸地方のことですな?」
スー「そげだ(そうだよ)。それで、そのことがバレて、居心地が悪くなったのが、帰国の理由ではないかと、作者は考えちょるんだに。」
知理「完全な妄想だっちゃ! 真面目に聞いて、損したぞ!」
スー「まあ、そう言うな。ただ、バレたことで、あっちの王様が激怒してしまってなぁ。」
知理「は? 激怒? あっちの王様・・・彦波瓊王(ひこはに・おう)がですか?」
スー「汝(いまし)は、韓郷と通交しておるゆえ、王の名を知っておるのであったな。」
知理「はい。会ったことはありませんが・・・。」
スー「ちなみに、国の名は、月支国(げっし・こく)だに。」
あっくん「その月支国ですが、『日本書紀(にほんしょき)』に書かれた年代、すなわち、紀元前246年が正しいとするなら、箕子朝鮮(きしちょうせん)という国になりまするな。」
スー「まあ、伝承だからなぁ。そうかもしれんし、そうでないかもしれん。」
知理「これが、ロマンだに!」
スー「とにかく、彦波瓊王が土地を取り返しに来るかも分からんから、気を付けておけよ!」
知理「なっ! い・・・戦(いくさ)になるかもしれんと?」
スー「その覚悟だけはしておけっ! 俺は、荒魂(あらみたま)を出雲に鎮(しず)め、和魂(にきみたま)を対馬(つしま)に鎮めようと思う。」
あっくん「荒魂は、荒々しい心。和魂は、優しい心ですな?」
スー「まあ、そげな感じだ。その地で、成り行きを見ちょるんで、よろしく!」
知理「なっ! 自分だけ逃げるんですか!?」
スー「勘違いするな! 俺は神様だっちゃ! 人世(ひとよ)に手出しするのは、御法度(ごはっと)なんだに。本当は、そうしたくてウズウズしちょるんだに!」
知理「ま・・・まことですか?」
スー「まあ、そういうことで、出雲のこと、頼んだにぃぃぃ。」
そう言うと、素戔嗚命は、ゆっくりと姿を消してしまったのであった。
知理「大変なことになってしまったに・・・。」
あっくん「如何(いかが)なされまするか?」
知理「月支国との戦に備えねばなるまい。されど、そうなると・・・。」
あっくん「そうなると?」
知理「各地に蔓延(はびこ)る賊の鎮定(ちんてい)が難しくなる。ここは、ヤマトの兵に頼むほかないか・・・。」
あっくん「ヤ・・・ヤマトに合力(ごうりき)を?」
初の外交問題。
出雲の運命や如何(いか)に・・・。
次回につづく
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