九里九里九里

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この街最高!(詩)

 東京のはずれの街、敢えて言うまでもなく寂れて、老人か学生か、人生を折り返した顔をした人間だけが行き交う街に彼は住んでいる。  私は東京の西側に住んでおり、彼は東の果て。電車で1時間ほどかかる距離である。 「〇〇さん、僕仕事中だけどよくわからないビデオ見てるだけの日だからドンキホーテでもいく?」 「なに、ドンキで女装用の服買うの?」 「それかウィッグか、あと2時間ぐらい仕事しなくて良いし」 彼は在宅勤務で営業の仕事をしており、日がな家で電話をかけ続けるのである。今日は社内の特

    • 競争と真実

       真実、本当らしい、確からしいこと。そういったものに私は執着している。それは裏返せば「嘘」に対する嫌悪でもあると言える。私は虚偽に敏感であり、それは真実というものが確かに存在することへの盲信と、隠されたことに対する不安とでこしらえられた檻である。  例えば、「本当は私のことなど関心がなかった」という人がさも関心があるように振る舞う様や、「楽しい」ということが後々聞けば、実はしんどかったのだということに私は心底恐怖しており、過剰なサービスや、それに伴う心労はその恐怖を紛らわすた

      • 春、泥棒、静寂(詩)

         眠っていると部屋に泥棒が入ってくる。泥棒には事前に今日家いないことを伝えていたのだが、私は具合が悪く、予定を取りやめてロフトの寝床にいたのである。  私は恐ろしく、寝たふりをして息を殺す。 鼻歌混じりに彼女の荷物が運ばれていく。小さい声、独り言が聞こえる。ビリビリと破かれる段ボールの音。何度もドアのバタンという音。扉の向こうの共犯者の気配が恐ろしく、やはり私の呼気は減っていく。最後の仕上げと電気が消され、真っ暗な中に私は取り残される。私の寝息だけが2月を保存し、部屋の中はす

        • 笑いについて

           遊びのモデルが、世界認識のモデルと同一であり、その認識に没入するための装置であることは前回までに書いたことである。  そして、その没入がある種洗脳のように自らの基盤にリアリティをもたらし、それが普遍化したことによって、我々は人間となる。普遍化したパターンが他者から見て逸脱してる場合は神経症患者とよばれ、それが法律というまた別個の約束に抵触する場合、彼は犯罪者と呼ばれる。  我々は自らを同じ基盤を共有する共同体成員として生成し、その基盤の表現を古来では「聖なるもの」と呼んだの

        この街最高!(詩)

          競争/演技/社会

           競争の遊びと演技の遊びはともに、その遊び世界に没入させるための装置として機能する。没入することによってその世界観はリアリティを持ち、それ以外に世界などないような錯覚をもたらす。競争のうえでの敗北はまさに世界の終焉であるし、演技のうえでの悲劇は実際に涙を伴う場合すらあるのである。  我々は世界を安定化させるため、つまり認知の不可を下げるために「考えないようにする」「限定化する」ということを行う。それがなければ、私たちはたちまち、外に出ていいのか、家の中にいていいのかさえ判断が

          競争/演技/社会

          アゴン(競争)についての考察

           アゴンとはロジェカイヨワが遊びを四つに分類した上での競争の遊びの呼び名である。カイヨワ曰く、人間の活動は全て遊びのモデルで説明されうるという。  競争はあるゲームにおいて行われる。ゲームであるからにはルールがあり、そしてルールとはそのゲーム世界をゲーム世界たらしめる世界観そのものである。  そして、競争はそのゲームへ人を没入させる効果を持つ。「競う」というものは、人を「ルール」様の従順な奴隷に変え、ゲームの内側にどんどんと引き摺り込む装置なのである。  私が競争を恐れるのは

          アゴン(競争)についての考察

          ひとのいえ(詩)

          「おー、ひさしぶり!子供は?」 「もう寝たよ、おひさー!」  休日の夜、何もすることが思いつかない私は彼女の旦那に連絡をとり、彼と彼女と子供の住む家にお邪魔をしたのである。 「君、休職するんだって?」 snsで見かけた情報を妻に投げかける。 「そうなんすよ、大変で、昨日もこいつ自殺未遂して」 「えっへー!そうなんだよねー」 彼女の代わりに旦那が答え、それに妻は承認を。彼女はフライパンで何か料理を作っている。私は買ってきた日本酒の蓋をあけ、これまた買ってきたスーパーの惣菜の寿司

          ひとのいえ(詩)

          詩りとり2(詩)

          「裸の王様」という王様になりそこねた裸が私 わかる!わかる!!はい!!僕わかります!!! わかってます!!はい!!はい!!! 〜「横断歩道の渡り方」より〜 青いんですよ悲しみは。 馬鹿に騒々しいほど、音程は青くなって 残響もまっ青になっていくんです。 あたしらはね、PAですから、 そこに夕景とか血とか臓物とかをね、 足してあげるんです。 見るだけなら無料! さわるなら、 おさわりは料金がかかります! 惑星間航行についての話です 水面に映る月にだけ私は住んでいます。 い

          詩りとり2(詩)

          詩りとり(詩)

          (ためいき、ピンピンの深海魚) 「なんですか?この紙」 「一言詩書いたから、しりとりの要領でまわしていこうよ」 「はあ、よいですよ」 暫くすると先ほど、隣の席に渡した紙切れが私のデスクに返ってくる。 (ジャンクフードが大好きな僧侶の信仰心) 私は、小さな矢印を書き込み文を綴る。そして、それをまた横の席のモジャモジャ髪に渡す。 (膿んだりした 傷を 塩で揉んだり 噛んだり おいしい) (かき氷のシロップは全て同じ味だと知った時のがっかり感と どうでもいい感が ちょうど釣り合う現

          詩りとり(詩)

          詩(詩)

           人間は文脈の束で編まれた織物である。多数の文脈を編んで人の形にしてそれが駆動するのだ。その文脈には当然、他者がいるのである。誰々といついつに見た〇〇。そういったものが、イメージを形成し、それがその人の認知を支配し、嫌悪や歓喜を生み出すのだ。  であれば、我々はあなたと話す際、本当はあなたの文脈と語り合っているのである。あなたが嫌悪を語る時の顔はあなたの母であり、趣味について語るときは父の顔で。その複数の顔顔顔。その濁流の中に確かに貴方らしい顔を見つけたとき、私は貴方と語り合

          死神(詩)

           我々の出番が終わる。桜まつり特設ステージの後ろで片付けていると、ギャーという悲鳴が聞こえる。何かと駆けつけてみると、2、3歳くらいの幼児が頭から血をダラダラと流し泣き叫んでいる。母親らしき女性は呆然とどうしようという顔。どうにも転んだらしい。  私とドラムが「救急車呼びますか?」と尋ねると「あ、え、いやでも」と困惑した様子。ドラムが「いや、呼びますわ、絶対呼ぶ」とその、困惑を切断し、携帯で救急に連絡をとり、大通りに向かって走り出す。私はその場にとどまり、集まってきた役場の人

          酔いどれ天使(詩)

          「ぼぉくだってねぇ、愛されたいですよぉぉ」 「はいはい、だから嫌いとは言ってないじゃん」 「ぼぉくはぁぁ貴方のことぉこんなぁに好きぃなのにぃ」  昼の部を任されている彼の急な絶叫を夜の部を担当するマスターは軽くいなす。マスターはなにやらカウンターで屈んで作業をしながら目線は合わせず気怠そう。一方の彼はフラフラと、まるで芯のない白菜のように揺れながら。隣の私たちは大いに笑う。彼は酔っ払っており、マスターは仕事中である。しかし、この光景が私たちにとってはいつもの光景であり、ちょっ

          酔いどれ天使(詩)

          RUN(詩)

           息も絶え絶えに、私は疾走する。隣では店主が仕事終わりの体に鞭を打ち、自転車を押している。今や鞭打たれるのは馬ではなくなった。電車の走る高架の横。あたりはすっかり夜である。買い物かごを手に下げた人や、退屈な仕事を終えたであろう人の顔、顔。全ては流れていく景色でしかなく、彼らにも人生があるであろうことなど微塵も感じず、真っ直ぐに道は続く。 「せっかくだし、走りますか」  そういって駆け出したのは私であった。 「わざわざ自転車の私にあわせなくてもいいのに、いい年した人が走ると怪我

          掃除ができない(詩)

           帰宅して、私は小さな違和感に気がつく。ユニットバス、洗面台に置かれていたいくつかのシャンプーやボディーソープがなくなっている。それらは居候するあの娘のものである。  (ああ、そうか、25日、別の家に入居するのが24日)  私がいない間にいくつかの日用品を持っていったのであろう。すっかり綺麗に片付いた洗面台に何か季節の終わりを感じる。何かがあった場所に何もないということ、空虚は水や汚れの円形によって表現される。過去ここには何かがあった。その痕跡ほど、季節と寂しさを結びつけるな

          掃除ができない(詩)

          あなたの文章と詩

           何故だろう、他人の文章というのは全く、面白い。その人を知っているとまた2倍面白い。文章には味もあれば色もあるし、軽やかなステップから瞬間の凝縮の閃光まで、まったくバリエーションに富んだ内容がある。言葉の上での身体性。彼や彼を知ってるからこそ、貴方こんな身体をしていたんだね、と言いたくなるような。初夜、君ほど美しいものはこの世にないのかもしれないと思った20歳の頃。それと同じ感覚を私に与える。  恥ずかしながら、貴方のことを知ったつもりでおりました、しかし一方、初めて見た貴方

          あなたの文章と詩

          固い床の刑(詩)

           「君はそっちで寝なさいよ」 私は梯子を登ってくる彼に向かって言い放つ。 「床固っ」 「そりゃそうだよ、下に僕の使ってるマットレスも毛布も投げ捨てたじゃない。せっかく気を使ったのに。」 私と、彼は固い床の上に2人雑魚寝の状態になる。私はお酒でズンズンと痛む頭を押さえながらリモコンで電気を消す。 「なんで電気消すんだよー!えー、寝るの?」 「寝るよ、もう四時だし、僕は朝から仕事にいくんだから」 「あーなんで、こんな床固いとこで寝なきゃいけないんだよー、ほんとは今頃映画一緒に見て

          固い床の刑(詩)