九里九里九里

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記事一覧

ギリア(詩)

 花を飾る。そのために朝の町を歩く。仕事に向かう彼女を見送りがてら無人販売の花屋に寄ろうという算段だ。改札をくぐりダラダラと歩いて行く彼女の背中。手を振りながら…

九里九里九里
12時間前
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クリシュナ(詩)

 私はひとり、自宅の庭で、友人の書いた文章を読んで涙を流す。最近はなんだかずっと涙脆いなあなんてことを思いながら。しかしそれはきっと、与えられたものに気づいたか…

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4月に死んだ動物たち(詩)

4月に死んだ動物たちの供養塔を建て、 これは嘘であったとする儀礼。 ドキュメンタリーとは嘘である。 見せたい自分を見せるだけ。 ドキュメンタリーという虚構。 ただそ…

4

うれしい【詩】

人にするキスよりも 人からされるキスの喜びを考える あんなに喜ばしいことを あなたにできる自信がない そのくらい うれしい

5

手相【詩】

手をとるとは 手首の傷に気づくこと そのうえでまた傷をつけ 運命線を増やすこと 傷をつけて 生命線が縮むことはない 線は伸びるばかりで 消したり、縮めたりは出来…

6

この街最高!(詩)

 東京のはずれの街、敢えて言うまでもなく寂れて、老人か学生か、人生を折り返した顔をした人間だけが行き交う街に彼は住んでいる。  私は東京の西側に住んでおり、彼は…

九里九里九里
2週間前
5

競争と真実

 真実、本当らしい、確からしいこと。そういったものに私は執着している。それは裏返せば「嘘」に対する嫌悪でもあると言える。私は虚偽に敏感であり、それは真実というも…

九里九里九里
2週間前
5

春、泥棒、静寂(詩)

 眠っていると部屋に泥棒が入ってくる。泥棒には事前に今日家いないことを伝えていたのだが、私は具合が悪く、予定を取りやめてロフトの寝床にいたのである。  私は恐ろ…

九里九里九里
2週間前
6

笑いについて

 遊びのモデルが、世界認識のモデルと同一であり、その認識に没入するための装置であることは前回までに書いたことである。  そして、その没入がある種洗脳のように自ら…

九里九里九里
2週間前
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競争/演技/社会

 競争の遊びと演技の遊びはともに、その遊び世界に没入させるための装置として機能する。没入することによってその世界観はリアリティを持ち、それ以外に世界などないよう…

九里九里九里
2週間前
4

アゴン(競争)についての考察

 アゴンとはロジェカイヨワが遊びを四つに分類した上での競争の遊びの呼び名である。カイヨワ曰く、人間の活動は全て遊びのモデルで説明されうるという。  競争はあるゲ…

九里九里九里
2週間前
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ひとのいえ(詩)

「おー、ひさしぶり!子供は?」 「もう寝たよ、おひさー!」  休日の夜、何もすることが思いつかない私は彼女の旦那に連絡をとり、彼と彼女と子供の住む家にお邪魔をした…

九里九里九里
3週間前
5

詩りとり2(詩)

「裸の王様」という王様になりそこねた裸が私 わかる!わかる!!はい!!僕わかります!!! わかってます!!はい!!はい!!! 〜「横断歩道の渡り方」より〜 青いん…

九里九里九里
3週間前
4

詩りとり(詩)

(ためいき、ピンピンの深海魚) 「なんですか?この紙」 「一言詩書いたから、しりとりの要領でまわしていこうよ」 「はあ、よいですよ」 暫くすると先ほど、隣の席に渡し…

九里九里九里
3週間前
7

詩(詩)

 人間は文脈の束で編まれた織物である。多数の文脈を編んで人の形にしてそれが駆動するのだ。その文脈には当然、他者がいるのである。誰々といついつに見た〇〇。そういっ…

九里九里九里
1か月前
7

死神(詩)

 我々の出番が終わる。桜まつり特設ステージの後ろで片付けていると、ギャーという悲鳴が聞こえる。何かと駆けつけてみると、2、3歳くらいの幼児が頭から血をダラダラと流…

九里九里九里
1か月前
6

ギリア(詩)

 花を飾る。そのために朝の町を歩く。仕事に向かう彼女を見送りがてら無人販売の花屋に寄ろうという算段だ。改札をくぐりダラダラと歩いて行く彼女の背中。手を振りながら私は踵を返し、家を目指す。今日は私が休みなのだ。
 花屋にきてみるとまだ開いてない。11時から開店との看板。また後で来ようかと思い歩き出すと、いつものバーの髭のマスターとすれ違う。マスターは目がほとんど開いてないような状態で自転車にまたがっ

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クリシュナ(詩)

 私はひとり、自宅の庭で、友人の書いた文章を読んで涙を流す。最近はなんだかずっと涙脆いなあなんてことを思いながら。しかしそれはきっと、与えられたものに気づいたからである。
 過去、私の涙は何に捧げられていたか。おそらくそれは私の苦しみにであった。それは苦しみに捧げるのであるから捧げられた苦しみはより勢いを増し、もっと捧げよと私に詰め寄るのである。
 しかし、今日私が流す涙はおそらく、世界そのものに

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4月に死んだ動物たち(詩)

4月に死んだ動物たちの供養塔を建て、
これは嘘であったとする儀礼。

ドキュメンタリーとは嘘である。
見せたい自分を見せるだけ。
ドキュメンタリーという虚構。
ただその中で、もし演劇が行われるならば
そこに「ほんとうのこと」があるのではないか。
虚構の中の入れ子の虚構、そこにふっと現れるどちらでもないもの。どうやらそれが一番確からしい。
何度か同席したドキュメンタリー作家の監督が言っていたことであ

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うれしい【詩】

人にするキスよりも

人からされるキスの喜びを考える

あんなに喜ばしいことを

あなたにできる自信がない

そのくらい

うれしい

手相【詩】

手をとるとは

手首の傷に気づくこと

そのうえでまた傷をつけ

運命線を増やすこと

傷をつけて

生命線が縮むことはない

線は伸びるばかりで

消したり、縮めたりは出来ない

この街最高!(詩)

 東京のはずれの街、敢えて言うまでもなく寂れて、老人か学生か、人生を折り返した顔をした人間だけが行き交う街に彼は住んでいる。
 私は東京の西側に住んでおり、彼は東の果て。電車で1時間ほどかかる距離である。
「〇〇さん、僕仕事中だけどよくわからないビデオ見てるだけの日だからドンキホーテでもいく?」
「なに、ドンキで女装用の服買うの?」
「それかウィッグか、あと2時間ぐらい仕事しなくて良いし」
彼は在

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競争と真実

 真実、本当らしい、確からしいこと。そういったものに私は執着している。それは裏返せば「嘘」に対する嫌悪でもあると言える。私は虚偽に敏感であり、それは真実というものが確かに存在することへの盲信と、隠されたことに対する不安とでこしらえられた檻である。
 例えば、「本当は私のことなど関心がなかった」という人がさも関心があるように振る舞う様や、「楽しい」ということが後々聞けば、実はしんどかったのだというこ

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春、泥棒、静寂(詩)

 眠っていると部屋に泥棒が入ってくる。泥棒には事前に今日家いないことを伝えていたのだが、私は具合が悪く、予定を取りやめてロフトの寝床にいたのである。
 私は恐ろしく、寝たふりをして息を殺す。
鼻歌混じりに彼女の荷物が運ばれていく。小さい声、独り言が聞こえる。ビリビリと破かれる段ボールの音。何度もドアのバタンという音。扉の向こうの共犯者の気配が恐ろしく、やはり私の呼気は減っていく。最後の仕上げと電気

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笑いについて

 遊びのモデルが、世界認識のモデルと同一であり、その認識に没入するための装置であることは前回までに書いたことである。
 そして、その没入がある種洗脳のように自らの基盤にリアリティをもたらし、それが普遍化したことによって、我々は人間となる。普遍化したパターンが他者から見て逸脱してる場合は神経症患者とよばれ、それが法律というまた別個の約束に抵触する場合、彼は犯罪者と呼ばれる。
 我々は自らを同じ基盤を

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競争/演技/社会

 競争の遊びと演技の遊びはともに、その遊び世界に没入させるための装置として機能する。没入することによってその世界観はリアリティを持ち、それ以外に世界などないような錯覚をもたらす。競争のうえでの敗北はまさに世界の終焉であるし、演技のうえでの悲劇は実際に涙を伴う場合すらあるのである。
 我々は世界を安定化させるため、つまり認知の不可を下げるために「考えないようにする」「限定化する」ということを行う。そ

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アゴン(競争)についての考察

 アゴンとはロジェカイヨワが遊びを四つに分類した上での競争の遊びの呼び名である。カイヨワ曰く、人間の活動は全て遊びのモデルで説明されうるという。
 競争はあるゲームにおいて行われる。ゲームであるからにはルールがあり、そしてルールとはそのゲーム世界をゲーム世界たらしめる世界観そのものである。
 そして、競争はそのゲームへ人を没入させる効果を持つ。「競う」というものは、人を「ルール」様の従順な奴隷に変

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ひとのいえ(詩)

「おー、ひさしぶり!子供は?」
「もう寝たよ、おひさー!」
 休日の夜、何もすることが思いつかない私は彼女の旦那に連絡をとり、彼と彼女と子供の住む家にお邪魔をしたのである。
「君、休職するんだって?」
snsで見かけた情報を妻に投げかける。
「そうなんすよ、大変で、昨日もこいつ自殺未遂して」
「えっへー!そうなんだよねー」
彼女の代わりに旦那が答え、それに妻は承認を。彼女はフライパンで何か料理を作

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詩りとり2(詩)

「裸の王様」という王様になりそこねた裸が私

わかる!わかる!!はい!!僕わかります!!!
わかってます!!はい!!はい!!!
〜「横断歩道の渡り方」より〜

青いんですよ悲しみは。
馬鹿に騒々しいほど、音程は青くなって
残響もまっ青になっていくんです。
あたしらはね、PAですから、
そこに夕景とか血とか臓物とかをね、
足してあげるんです。

見るだけなら無料!
さわるなら、
おさわりは料金がかか

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詩りとり(詩)

(ためいき、ピンピンの深海魚)
「なんですか?この紙」
「一言詩書いたから、しりとりの要領でまわしていこうよ」
「はあ、よいですよ」
暫くすると先ほど、隣の席に渡した紙切れが私のデスクに返ってくる。
(ジャンクフードが大好きな僧侶の信仰心)
私は、小さな矢印を書き込み文を綴る。そして、それをまた横の席のモジャモジャ髪に渡す。
(膿んだりした 傷を 塩で揉んだり 噛んだり おいしい)
(かき氷のシロ

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詩(詩)

 人間は文脈の束で編まれた織物である。多数の文脈を編んで人の形にしてそれが駆動するのだ。その文脈には当然、他者がいるのである。誰々といついつに見た〇〇。そういったものが、イメージを形成し、それがその人の認知を支配し、嫌悪や歓喜を生み出すのだ。
 であれば、我々はあなたと話す際、本当はあなたの文脈と語り合っているのである。あなたが嫌悪を語る時の顔はあなたの母であり、趣味について語るときは父の顔で。そ

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死神(詩)

 我々の出番が終わる。桜まつり特設ステージの後ろで片付けていると、ギャーという悲鳴が聞こえる。何かと駆けつけてみると、2、3歳くらいの幼児が頭から血をダラダラと流し泣き叫んでいる。母親らしき女性は呆然とどうしようという顔。どうにも転んだらしい。
 私とドラムが「救急車呼びますか?」と尋ねると「あ、え、いやでも」と困惑した様子。ドラムが「いや、呼びますわ、絶対呼ぶ」とその、困惑を切断し、携帯で救急に

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