小説 『恋しくばたずね来てみよ』 伍


《ご訪問くださいまして、誠に有難う存じます。

連載の第四話目のリンクはこちらです。

〈新連載〉『恋しくばたずね来てみよ』 肆|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #クリエイターフェス #眠れない夜に

https://note.com/kinosita_asahi/n/nbadc1de97f5a

今回は、上のリンクの回の内容の続きです。 》




祖母の法要は、

地元で代々お世話になっている、いわゆる菩提寺で行われた。



法要が無事に済み、

近くの小料理屋の二階座敷に場所を移しての精進落としの席では、


(特に年嵩の)親類による、

お定まりの「アンタが子供だった頃…」といった類いの昔話、或いは暴露話が始まる…というのは、
従来の経験からも充分に予見されたので、


なるべく「被害」に遭わないように、

事前に出来るだけ座敷の隅の方の席を確保しておいて、


(この辺り、

普段の授業で、なるべく教壇から目に付かない座席を…という「日頃の鍛錬」が役に立つ)


宴会の最中はもっぱら、

この際だから…と、
普段、貧乏学生の口には滅多に入らない類いの栄養源である、

大皿の刺身や、
鉢に盛られた筑前煮、煮豚に揚げだし豆腐、

早物の茄子の揚げ浸しや南瓜の煮物、瓜の新漬けなんかを

熱いほうじ茶を片手に
ひたすらぱくつくのに精を出していたのだけれど、


そのうち、突如、「…み~さ~お~…!」という、

明らかに酒精の、個人の適正許容値超過摂取から齎される酩酊状態に拠って、
いささか以上に音程を外している…と判る、


馴染みはあるが、
懐かしさや慕わしさのあまり感じられない濁声が、頭上で響いたかと思うと、


汗臭さと酒臭さの混じったニオイのする、

普段ネクタイというものを締め慣れていない…と一目で判る、
自ら緩めたと思しき、完全に緩んだ襟元をした、赫ら顔の中高齢男性が、約一名、

長い座卓の、向かって左手が壁になっている、その右隣の座布団…我が隣席に、
断りもなしに降って「来やがった」。



この人が、件の母親の長兄、
…母方の伯父に当たる人で、

祖母、…祖母ちゃんの、最晩年の同居家族の一人で、

早くに亡くなった祖父
(何しろ、写真でしか顔を知らないので、「祖父ちゃん」と呼べる程の親しみがない)
に替わり

祖母ちゃんの葬儀の際の喪主でもある。



本人は、こういうのを「飲ミュニケーション」と捉えているのかも判らないけれども、

こちらから見れば、それは単なる傍迷惑で


将来、自分の葬式で

「……伯父さん、
生前は、葬式やら法事やらのたんびに酔っ払っちゃあ、あっちこっち絡んで来るの、
ホント勘弁だったよなあ…」

と、満場一致で溜息を吐かれるであろうことを、
全く予期、及び理解していない、…と思わざるを得ない。


ちなみに、うちの母親の、自分の長兄を評して曰く
「根っから悪い人じゃないんだけど…」。

そう、「根っから悪い人じゃない」のは、それは確かだ。

ただ、それは必ずしも、
「『善き人』である」という意味と等号で結ばれるという訳では、決して無い。

そして、人生において、
その手の人間の、「根っから悪意がある訳ではない」言動の方が、対処に困る分だけ始末に悪い、…という場合もままある、ということを、

二十年と少しの間、人間として生きてきた中で、既に経験則として知っている。



《 ここまでご披見くださいまして、誠に有難う存じます。

m(_ _)m

物語は、第六話

『恋しくばたずね来てみよ』・其の陸|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #眠れない夜に https://note.com/kinosita_asahi/n/n361554fb1c26

 へと続きます。


よろしければ、引き続きのご高覧を賜りたく存じます。 》


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