『恋しくばたずね来てみよ』・其の陸

《 ご訪問くださいまして、誠に有難う存じます。


連載の第五話目のリンクはこちらです。


〈『小説 『恋しくばたずね来てみよ』 伍|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #眠れない夜に

https://note.com/kinosita_asahi/n/n247bef0c6d5d

 今回は、上のリンクの回の内容の続きです。 》



祖母ちゃんも、生前よく口にしていたのだけれど、

「あの子も馬鹿水飲まなきゃ良い子なんだけどねぇ…」。


( 余談ながら、

 これも常々、周りを見ていて思うことなのだけれども、

 どうやら、「母親」にとっての「我が子」という存在は、

 たとえ親元を離れて就職し、髭面を晒して歩く年齢になろうとも、
 世帯を持ち、子や孫を儲け、一家を成そうとも、

 「三つ子の頃と大して変わらない…」と認識されるものであるらしい。

 ……再び、閑話休題)



とにかく、伯父さんの酒の飲み方というのは、

意地が汚い、…と言うか、

……はっきり言って、『質が良くない、始末に悪い』という類いの代物である。


よく話に聞く、

容器の底に残った酒を一滴たりとも残したくない…と、

いつまでもいじましく瓶や徳利を逆様にしている、…だの、


溢した酒が勿体なくて、直接お膳に口を付けて吸う…だのは、

伯父さんの「アレ」に較べれば、
ずっと可愛い部類だと思ってしまう。

(まあ、…正直、あまり見栄えの良いものではない…とは思うけれども)


伯父さんの場合で言う、
いわゆる「酒癖の悪さ」は、

宴会の最中、特に後半に掛けて
「酒を残すなんて勿体ない!」と、

他の卓を回ってまで、余り酒を飲み歩く、…というものなのだ。


もちろん、大抵の場合、
その以前に、既にかなりの量のアルコール飲料を「摂取」済なので、

卓を「巡回」する間には、相当の酩酊状態に陥り、


そして、もう一段、質の良くない、始末に悪いことには、

辺り構わず…と言うか、

より正確に表現するならば、
「当たるを幸い」…とばかりに、他の人間に絡む。


一度、伯父さんの勤める営林署に
県庁の方から視察に来た「お偉いさん」に
その歓迎を兼ねての宴会の席で、へべれけになって絡み、
危うく免職になりかけたことも、

…と、
これは以前、うちの母親から聞いた話である。



伯父さんは、

普段は余り口を利かない、
少々物静かが過ぎるくらいの性格なので、
日頃の伯父さんを知っている人が、その様子を見れば、
恐らく、同一人物かどうか…を、まず疑うのではなかろうか。


自分では記憶に無いのだけれども、


……これもまた、うちの母親の話によると、


それこそ三つ子の時分、

やはり、身内の宴会で、
そういう状態の伯父さんを初めて目にした時には、驚いて大泣きしたらしい。


(その出来事の影響の下での変なトラウマは、幸いにして今のところ出ていない、
…とは思うのだけれども、

そう言えば、
「酒席で『楽しく酔う』」ということができなくて、

アルコール飲料は普通に好きだし、
そこそこ「イケる口」だとも思うのだけれども、

どうしても、「宴会の酒」、
もしくは「酒の席」というもの自体が、
…成人式を過ぎた今現在でも、
あまり好きにはなれないでいる。


嫌な酒を断るための良い口実にはなるから
別に構わないのだけれど)


だからと言って、
伯父さんの「巡回」、及び「痛飲」を、誰かが止めに入りでもすれば、

なお一層、
色々と、様々に、事態は質の悪い状況へと向かう

…という事情を、
伯父さん以外の親類全員が、
それはもう、身を以て知っている。


なので結局、現実に取れる手立てとしては、

気が済むまで「鯨飲」してもらって、
その間、伯父さん以外は皆、
息を潜め、
時に、自らの腹の虫を抑え付けながら、
伯父さんの酔態での「独演会」を、
時間の経過ごと、ひたすらやり過ごし、

そして、伯父さんが酔い潰れるまで待つ、…という、


何やら、…それこそ「過ぎ越しの祭」か、
または祇園会の、

そのそもそもの由来の再現めいた事態が、

親類中の寄り合いの宴会の度に繰り返されるのである。



《 ここまでご披見くださいまして、誠に有難う存じます。
m(_ _)m

物語は、第七話に続きます。


よろしければ、引き続きのご高覧を賜りたく存じます。 》


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