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XmasSS【パパさん】#シロクマ文芸部

 お題「振り返る」から始まる物語

【パパさん】(2982文字)

 振り返ると今年もあっという間じゃったのぉ…。
 おじいちゃんはカレンダーを見て、しみじみと一年を思い返した。ギックリ腰になったこともあったが、幸せを感じない日は一日としてなかった。孫のタカシとおかあさんのおかげじゃ…。

 その時、ちょうどタカシが元気に幼稚園から帰ってきた。
「おじいちゃん、ただいまー」
「おお、おかえり。明日からは冬休みじゃなぁ」
「うん、ずーっといっしょにあそべるよ!」
 二人は大の仲良しなのだ。
 おじいちゃんはタカシの笑顔に、うっかりすると昇天しそうなほど胸がキュンとした。
 寒い冬の日、温かいコタツにもぐり込み、一緒にほうじ茶をすすり、せんべいをかじる…(タカシはおじいちゃん子なので好みが同じである)。これほどの幸せがあろうか。

「ねぇ、おじいちゃん。うちには煙突がないけどサンタさんはどこから入るのかなぁ」
 おじいちゃんはせんべいを誤嚥しかかって本当に昇天しそうになった。
 ゴホゴホ!
「おじいちゃん、だいじょうぶ?」
 タカシが心配そうに背中をさする。
 そ、そうじゃ、その問題についてわしとしたことが考えておらなんだ…。不覚!去年はまだタカシはサンタさんの存在も知らなんだからな…。クリスマスの朝は無邪気に喜んでおったが。今年は幼稚園で知恵をつけてきたようじゃ。

「だ、大丈夫じゃよ。去年もちゃんと来たじゃろう?」
「うん。ぼく、すごーくうれしかった!でもね、サンタさんは煙突から入るんだって。去年はどうしたのかなぁ」
「あれはな…、ええと、そうじゃ、おかあさんが窓を薄く開けておいてくれたんじゃよ」
「そっかー!窓からもサンタさんは入れるんだね」
 タカシは安心したような顔で、にこにこしている。
 おじいちゃんはまた胸がキュンキュンした。

「…で、イヴの夜は窓を薄く開けておけですって?」
 タカシのおかあさんは眉間にシワを寄せた。
「おかあさんや、タカシにそう言ってしまったんでのぉ…」
「おじいちゃんたらー。この年の瀬に不用心じゃないですか」
「わしが起きて見張っとるよ。年寄りはそう眠らなくても平気じゃから」
「そんなこと…」
 しかし、おじいちゃんは孫のためならなんでもできるのである。

 イヴの夜、おかあさんの手料理とショートケーキで三人はささやかなパーティをした。
「ホールケーキ買えなくてごめんね、タカシ」
「ぼくショートケーキ大好きだもん」
 ケーキを一緒に買いに行ったおじいちゃんは、タカシが丸いケーキをチラッと見たことを知っていたが、おじいちゃんの年金は三人の生活費の一部でもあったので、孫のためとは言え四千円もするケーキを買うのは厳しかった。
 せめて今日はサンタが無事に来られるように寝ずの番をするのじゃ。おじいちゃんは心に固く誓った。
 泥棒が来ないための見張りであることを、おじいちゃんはほんのりと忘れかかっている…。

「おじいちゃん、おやすみ」
「タカシ、サンタさんの窓は開いとるからの、安心しておやすみ」
「うん!」
 素直ないい子じゃなぁ。おじいちゃんは、タカシ可愛さに凍死したとしても本望じゃと思いながら、窓を薄く開けてコタツにもぐった。冷たい風が吹き込んでくるが、なんのこれしき。
「おじいちゃん、風邪ひかないでくださいね。タカシが寝ちゃったら閉めていいんですから」
 おかあさんが小声でおじいちゃんにささやく。
「なんの。わしはタカシに嘘はつけん」
 おかあさんは苦笑いしながらも、私は明日も仕事だから休ませていただきますね、と言って自室に戻った。プレゼントは、明け方に枕元へ置いときますから…。

 静かな聖夜だった。
 豆電球だけ灯した寒く静かな部屋で、しかしおじいちゃんの心は明るく暖かかった。
 こんな時間もいいもんじゃな。
 おじいちゃんは昔から多くを望まないタイプの人間だった。小さな幸せを大切に守って暮らしてきたのだ。それでも失ったものはあるし、ひどく悲しいこともあった。しかし人生にはどうしようもないことはある…。

 おじいちゃんは壁際に置いてある息子の写真をちらりと見た。タカシは大きくなったらお前そっくりになるかもしれんなぁ…。素直なところはそっくりじゃ。
 その時、コトンと音がした。おじいちゃんはハッとして窓に目をやった。サンタさんかもしれんぞ!

 しかし、薄く開けた窓からおじいちゃんの方を覗いていたのは、一匹の小さな白ネコだった。
「ニャア」
 ネコはおじいちゃんをジッと見つめたまま、器用に窓を押し開け、部屋の中に体を滑り込ませた。
「なんじゃお前、サンタさんの使いかの…?」
 ネコの使いがいるとは聞いたことがないがなぁ、とおじいちゃんは思った。しかしネコはおじいちゃんの前をスタスタと通り過ぎ、タカシの部屋の方に向かっていく。おじいちゃんは後を追った。ネコは薄く開いたタカシの部屋のドアからスルリと体を滑り込ませた。おじいちゃんはそっと中をのぞき込んだ。豆電球を点けたままのタカシの部屋は、中の様子がよくわかる。ネコは寝息をたてているタカシの布団の足元にピョンと飛び乗って丸くなった。まるで自分の家に帰ってきたみたいに…。
 おじいちゃんは、そのままそっとドアから離れた。

 翌朝のタカシの喜びようといったらなかった。
「サンタさん、すごいや!ぼく、ネコ飼いたかったんだよ!うれしいなぁ」
 ネコはおとなしくタカシに抱かれている。
 おかあさんはポカンとしている。実はおかあさんは寝坊してタカシの部屋にプレゼントを置きそびれて青くなっていたのだ。
「おじいちゃん…これはどういうこと?」
「勝手に入ってきたんじゃよ、窓から」

 もしかしたら近所の飼い猫ではないかと、おじいちゃんとおかあさんはこっそり聞きに行ってみたがそんな話もなく、白ネコはすんなりとタカシのネコになった。

「ねぇ、おじいちゃん。このネコの名前どうしよう?」
 クリスマスの朝、おかあさんからもお菓子がたくさん入ったサンタブーツのプレゼント(置き忘れたものである)をもらったタカシは、チョコレートをおじいちゃんと分け合いながら上機嫌で言った。
「ありがとうよ、タカシ。そうじゃなぁ…『パパさん』というのはどうかな」
 おじいちゃんの口から、考えてもみなかった言葉が飛び出した。うひゃ!わしはなにを言っておるんじゃ?タカシはチョコレートをかじりかけたまま固まっている。おじいちゃんはどきどきした。

「おじいちゃん…、どうしてわかったの?ぼくね、クリスマスの夜、パパの夢見たんだよ。顔は…わかんないけど、パパだった。白い服着て、なんだか天使か魔法使いみたいだった。そして朝になったら足元に白ネコがいたんだ…」
 二人はタカシの膝の上で丸くなって眠っている白ネコを見た。
「パパ…」
 タカシが呼びかけるとネコは薄目を開けてニャアとないた。

 仕事から帰って来たおかあさんに報告すると、おかあさんはネコの前にしゃがみ込み、ネコの目をジィッと見た。ネコも見つめ返している。
「なによぉその目つき…」
 と、おかあさんはつぶやいてからパパさんに小声で言った。
「おかえりなさい…あなた」

 その夜、半額だったからとおかあさんが買ってきた丸いクリスマスケーキで、三人と一匹はもう一度クリスマスパーティを開いた。

「わぁい、みんなでもう一回クリスマス!」
「よかったのぉ、タカシ」
「ふふ、たまには贅沢したって、ね」
 生クリームをなめていたパパさんも、うれしそうにニャアとないた。

 外では今年はじめての雪が静かに降り始めている。


おわり

(2023/12/24 作)

小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました☆

『タカシとおじいちゃん』シリーズもマガジンにまとめてみましたが…
マガジンのヘッダー画像が付けられない~~💦
ぽちって押したらCanvaが選べたはずなのに…
…ちなみに、ここに収録されている以外にタカシとおじいちゃんの話、書いてましたっけ?(書き終えるとすぐに忘れてしまうリス頭(;・∀・))

…なにはともあれ、Merry Xmas☆
みなさまも、平和な心持でクリスマスをお過ごしくださいませ☆


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