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独裁者の統治する海辺の町にて(18)

(18)

いまさらだが、おれは、子供の時、親父が母親に、源治のやつが電力のお偉いさんと隠れて会っていると、喋っていたことを思い出した。あれがこれだったとはな。源治というのは、当時、保守派の県会議員で、親父の中学時代の同級生だった。こいつの名字は多良崎で、現在の町長だ。あの時からもう既に原発建設の話がひそかにもちあがっていたというわけだ。あれは、何年前だ?おれは、たしか小学4年だった。ということは、15年前だ。つまり、その時15年前は組織はこの町に潜入していたのか。原発の話を聞きつけてやってきたのか、それとも、多良崎を使って原発誘致を企てたのか、どっちが先なんだ。くそ、そんなことはどっちでもいい。いずれにしろ、あいつらがこの町を乗っ取ろうとしているのは、原発建設が目的であることにまちがいない。そして、それはこの国を支配するための一里塚だ。しかし、それにしてもあいつらはどこからやってきたのか。おれの見聞では、余所から移ってきた連中は20人ほどいるが、多くは行動部隊で、組織本体からのミッションに通じているのは、平良と九鬼、それから東京でロビー活動をやっていた安倉雅子くらいだろう。町の方では多良崎町長以外では反町長派議員の太田だったろう。太田は知っていたから、1年前に凛子に殺されたんだ、まあそんなとこだ。

じゃあ、鯨の件はどうだ。太田は時期的に知るはずはないな。安倉も鯨が打ち上げられたことは気にしてはいなかった。そうだな、原発の建設と鯨の問題がつながっているのは・・・平良と九鬼・・・そして太良崎町長ぐらいだ
ろう。鯨がこの海域の異変の予兆であるかどうかは分からないが、そのことが、そうとられれば原発の計画にとっては不都合である。それは反対運動につながるし、それは町の問題だけでは終わらない。反対運動が呼び水になってメディアが動き出せばだ、さて、どうなる。組織の存在が明るみにでる。か、もしくは、幾人かの行方不明者が出るだろう。この町へ原発誘致計画の調査にやってきた永川謙二のように。

おれは、そんなことを思いながら、はたと九鬼の出方が気になった。凛子がちょっと前に原発のことをおれに確認したのは、九鬼と電話でしゃべった後だったことに気づいたからだ。おれが知ってるとなれば、九鬼はおれと平良のつながりを勘ぐるだろう。あいつは平良の好色なことはよく知っているからな。となれば、あいつはおれになにか仕掛けてくるはずだ。そしてそれは、凛子がおれについてどう報告するかにかかっていた。

ももうひとつ気になったのは凛子が2日前に行ったばかりなのに、そして土曜でもないのに士郎のところへ行くと言ったことだ。そうだ、2日前、あいつは澤地久枝と史郎が鯨の話をしていたとおれに告げた。今思えば、それを聞いた時嫌な予感はしていたのだ。迂闊なことに、士郎のところにおれが行ったのはこの日の三日後、5月13日だった。
                              (続く)

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