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017_手の鳴る音

手の鳴る音がある。
両手を打つ音がある。


うちに泊まって欲しい。


サークル棟のベンチで友人たちと煙草を吸っていると、
何の脈絡もなくKに誘われた。

Kは実家から大学近くのアパートに最近引っ越していた。
引っ越した当初は人を呼びたくなるよね、と深く考えず
いいよ、と返した。


帰り道のスーパーで買い出しを行い、アパートに向かう。
学生が多く住むA町ではあるが、賃貸よりも一戸建てが
多い場所にKのアパートはあった。

この辺りは大学移転に伴う開発があまり入らなかった区画で
よく言えば「味」のある雰囲気を纏っている。


安酒と肴をだらだらと舐めながら
とりとめのない話をしていると
唐突に紙コップの酒を煽ってKが切り出す。



夜中に童謡みたいな歌が聞こえるんだよね。



毎日ではないが日付が変わるくらいの時間に
外から女性の歌う声が聞こえると。

なるほど、それは怖い。
部屋の中から聞こえなくて良かったな、と冗談を言うが
全くKの目は笑っていない。


時計を見ると24時をまわるころだったので
自然とお互い口数が減ってくる。


しばらく沈黙が続いた後、
ほら、とKが言う。



でてこい でてこい いけのこい
そこのまつもの しげったなかで
てのなるおとを きいたらこい
きいたらこい





ぱん、と後ろで音がした。





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