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「3名様ですね?」 お化けカラオケにて ショート実話怪談


あらすじ

私(Kitsune-Kaidan)が、あるカラオケ店を訪れた時に体験した実話怪談です。多少フェイクを入れている場面もありますが、実際に私の身に起こった話です。今はもう存在しないそのカラオケ店は、お化けカラオケというコンセプトで営業していました。店内にはたくさんの怖いお化けの人形が飾ってあり、おどろおどろしい雰囲気を醸し出していました。

「私が見たり聞いたりした存在は幽霊なのか、もしくは人形に宿った何らかのなのか?」思い出すと、今でも不思議な感覚に襲われます。

それでは、不気味な世界へとつながる扉をお開けください。どうぞお気をつけて、行ってらっしゃいませ。


3名様

AI Collage Artwork by Kitsune-Kaidan

「いらっしゃいませ。お客様は3名様ですね?」
 
「いいえ、違います。2名です」

このやりとりを今まで何回繰り返してきただろう。私(Kitsune-Kaidan)がお店に入ると、こういった状況に陥ることが度々ある。カラオケ、レストラン、カフェ、回転寿司などなど…。普段何気なく暮らしていると、受付で人数確認をされる場面に出くわす。

最近ではデジタルでの事前予約など、店員との関わりが少なく入店できるビジネスも増えてきたのも事実だが、いまだにこうしたシンプルなやりとりを交わしてから店内へと案内されることも多い。私にとってこのような不可解な会話のやりとりは頻繁に起こることなので、特に気にしなくなっていた。

実を言うと、私はカラオケ店の雰囲気が得意ではない。カラオケの店内はたいてい薄暗く、窓のないビル内にあることが多い。室内はもちろん窓がなく、四角または長方形の閉ざされた空間にやむなく自分たちを詰め込む状況になる。花柄やストライプの柄が入った派手な色合いの壁紙が貼ってあり、目がチカチカするようなデザインが多い気がするのは私だけだろうか。最悪な場合、部屋を広く見せるためか、壁に鏡が設置されている部屋がある。こういった部屋はやたらと落ち着かない。それでも友人たちと楽しいひと時を過ごしたいと思っていた私は断ることもなく、数時間のカラオケを楽しむべく異空間へと吸い込まれていった。

その日の私も気軽に考えていた。友人とふたり、居酒屋で簡単に食事を済ませると、ストレスがかなりたまっていることに気がついた。
 
「じゃ、カラオケでも行く?」


お化けカラオケ

友人の一言で、ビルの地下にあるリーズナブルなカラオケ屋さんに久しぶりに向かった。そのカラオケはお化けカラオケというコンセプトで、至る所にドラキュラ・白いお化け・バンパイヤー・魔女などの西洋風のお化けの人形が天井からぶら下がっている。その人形たちは大型の雑貨店で販売されているようなありふれた人形で、特に珍しくない普通のお化けのキャラクターである。ところが、私はその人形たちから不思議なエネルギーを感じていた。
 
薄暗い店内の陰気なカウンター内に、眠そうな店員がひとり立っている。一応店内の雰囲気に合わせて少しだけ仮装をしている。

「いらっしゃいませ」
 
ぶっきらぼうにそう言った店員が、目で人数を数えている。
 
「お客様は3名様ですね?」
 
「…」
 
そこにいた全員、つまりカラオケの店員、私、友人の間にしばらく沈黙が流れた。
 
「いえ、違います。2名です」

私はいつものことかと半ば諦めながら返答した後、軽く後ろを振り返った。そこには誰もいなかった。少し離れたところにある入り口の横に、例の怖い魔女の人形がぶら下がっている。店員は明らかに焦った様子で、平謝りしながらこう言った。
 
「すみません。また…。あっ、いえ…、そのすみません」
 
私たちが笑いながら問題ないと伝えたにも関わらず、その店員はさっきまでの態度とは180度変わり妙に丁寧な対応をしてくれた。ドリンクのサービスチケットまで渡してくれた。私たちはフロントのすぐ側の角部屋へと案内された。
 
「私、先に歌うね!」

友人は流行っている歌をサッと入力して早速歌い出した。私は前奏の間にふたり分の飲み物を注文した。さっきの店員とは違うドリンク担当の店員が丁寧な態度で飲み物を運んできてくれた。しばらくカラオケを楽しんだ私たちは、居酒屋の会話に逆戻りし、友人の恋愛話で盛り上がっていた。歌うのをやめると、隣の部屋からずいぶんと懐かしい歌を歌う男性の声が聞こえてきた。

「トイレに行ってくるね」
 

トイレ

私は友人にそう告げると、ドアを開けフロントを背にして右側に進んだ。店内の廊下にも大きな音で音楽がかかっている。隣の部屋で懐メロを歌っている男性を確認するつもりはなかったが、なんとなく気になった私は通り過ぎる瞬間に透明なドアをチラッと見た。すると、室内が真っ暗だった。このカラオケは節電のため、空室は電気を消しておくルールになっているようだった。案内する店員がドアを開けて必ず電気をつけてから入室を促してくれる。
 
「誰もいなかったんだ」

ここで‘少し言い訳をしておくと、日頃から頻繁に幽霊を見る私にとって、この程度のことでは大袈裟に驚くことではないのだ。それゆえ、だいたい2ストライクまでは流すことにしている。3ストライクを優に超え、これはいよいよだと思ってから対応策を考えることにするのが私の習慣だった。フロントの方を振り返ると誰もいない。あまり深く考えないようにしながら、トイレまでの道のりを歩いた。矛盾しているかもしれないが、一度気がついてしまうと他の部屋も気になる。罠にハマっているような気がしながらも、左右にある他の部屋の透明なドアも覗いてしまった。
 
私たち以外、この一角には客がいなかった。トイレの向こう側にも通路があってさらに数部屋あるため、そちらの方から聞こえてきた歌声なのだと思うことにした。トイレに入ると少し落ち着いた。ふと鏡を見ると、自分しか映っていないのに違和感を感じた。これも何でもないと思い込むことにした。
 
これは幽霊あるあるかもしれないが、一度存在に気がついてしまうと、アイツらは次々と証拠をちらつかせてくる。3ストライクを超えたあたりから、勢いが加速する。そう思った瞬間、鏡の中に映る背後のドアに黒い服を着た誰かがサッと通ったのが見えた。


3ストライク アウト

「店員さんかな」

そう自分に言い聞かせながら、手を洗ってトイレの外に出た。廊下には特に誰の姿もなかった。相変わらず天井からぶら下がっている人形たちがこちらを見つめている。その時、私の背後に人気を感じた。ゾッとした私は、体はそのまま進行方向を向き、首を曲げずに目だけを後に向けた。トイレのドアの向こう側の天井からぶら下がっていたドラキュラの人形が、自分のすぐ後ろにいるのが見えた。黒いマントを着ている。
 
3ストライク アウト
 
思わずそう呟いた私はリアクションをしないように平静を装いつつ、なるべく足早に友人の待つ突き当たりの部屋へと急いだ。ドアのノブに手をやると素早くドアを開け、後ろを一才振り返らずにドアを閉めた。気持ちよさそうに歌っている友人に軽く手を振ってから、入り口の近くのソファーにそっと腰掛けた。透明なドアの向こうに、こちらを見ている視線を感じながら…。
 
数時間が過ぎ、延長せず帰宅することにした私たちは忘れ物がないか部屋をぐるっと見回して確認した。カラオケの機材の横に黒いハンカチのようなものが落ちている気がしたが、友人には直接告げずにこう言った。
 
「忘れ物ない?」
 
友人はもう一度注意深く室内を見て、
 
「だいじょうぶ」
 
と言った。
 
フロントに向かうと、さっきの店員が会計の準備をしてくれた。計算を待つ間、私は何気なく入り口の方に目をやり、フロントに向き直ろうとして再び入り口の方を見た。驚いて思わずもう一度振り返ったのだ。入店した時にドアの横にぶら下がっていたあの魔女の人形がなかった。私はまたゾッとして素早く店内のデコレーションを確認した。

(やっぱり)

私は確信した。あのお化けの人形たちは勝手に店内を動き回っているのだ。
 私は思い切って廊下、つまりトイレの方を覗いた。すると、やはりそこにはさっきまでぶら下がっていたお化けの人形たちが消えていた。

次の瞬間、あまりにもゾッとしたので、声を出さずに心の中で悲鳴をあげた。なんとその人形たちは私のすぐ右横にぶら下がっていたのだ。私は何事もなかったかのようにゆっくりとフロントの方を向き、無言で会計を済ませた。お釣りを渡してくれた店員と目が合った。
 
すみませんでした。ありがとうございました」
 
その店員は私と同じものを見ているのだろうと察した。


あとがき

これはベーシックな怪談話であり、よくあることで片付けてしまいがちな実話です。少しだけフェイクを入れてありますが、私の記憶の中にあった実話を思い出しながら書きました。数年後、そのお化けカラオケはまるで存在しなかったかのように、明るい印象のまったく違うコンセプトのカラオケ店にリフォームされ、新規オープンしていました。新しいカラオケになってから一度訪れたことがありますが、やはりトイレと店内の雰囲気が不気味でした。当然のことながらお化けの人形たちはもういませんでしたが、トイレに行く時はあの不気味な気配を思い出してしまいました。

霊感に関して、野球のストライクの概念を導入している理由を少し述べてこの怪談を締めくくるとします。自分が不意に訪れた場所で霊の気配を感じた場合、私はあまり気にしないようにします。なぜなら、敏感に感じ取り過ぎると歯止めが効かなくなることが多いのです。1度や2度何かを感じたり、見たり、聞こえたりしたからと言って常に気にしたり驚いたりしていると、自分の身がもたないのです。ところが、3度目を超えても尚知らないふりを続けると、今度は逆に自分の身に危険が及ぶ気がするのです。それゆえに3ストライクアウトにするシステムにをとっているのです。

アウトにした場合、こちらとあちらの次元に境界線をしっかりひき自分を守ることで、今回の怪談のように向こうが少し攻撃的な態度になることもあると思います。この話に限っては、その場を離れるとこちらに被害が及ぶことはない霊のような気がします。皆さんはどのような境界線をお持ちですか?霊に対して私のようにストライクシステムを導入している方がいらっしゃるのではないでしょうか。

また、部屋を出る際にカラオケの機械の横に落ちている黒いハンカチのようなものについて触れなかった理由ですが、これは単純に私のです。初めに部屋に案内された時は特に何も落ちておらず、きちんと掃除された綺麗な部屋でした。それにも関わらず、そんなに目立つものが落ちていたのは「これ以上関わらない方がいい」というメッセージが頭の中に響いたような気がしたのです。

カラオケを訪れる際は、くれぐれもお気をつけくださいませ。

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Kitsune-Kaidan
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こちらのシリーズその1からその4(完)までございます。ぜひお読みください。


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