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おいしいの素、あるいはプロテインとの和解

皮膚の再生にはタンパク質が必要らしい。
脱ステロイド参考書籍によると、どうやら皮膚の組織を修復・再生するのはタンパク質で、特にアトピー患者は落屑やかさぶたを作ったり浸出液が出たりするため普通の人よりもタンパク質が減りやすいとあった。

生まれてこの方一度もタンパク質の量なんて考えたことがなかった。せいぜい親子丼を作ったときに、意味もわからず覚えたばかりの言葉を使いたがる子どものように「これはたんぱくしつが多いです」とやや片言で脳内反芻する程度だった。

そもそも普通の食事ではタンパク質が摂り切れないようだった。
調べると、普通の皮膚の人は体重1kgあたり0.8gが摂取目安で、例えば50kgの人が1日あたりに摂るタンパク質は40g。お肉の量ではない。「タンパク質の量」なのだ。

よく高たんぱくとして挙げられるのがサラダチキンだと思う。コンビニで売られているものは容量110gでタンパク質22g。つまりタンパク質を40g摂るならサラダチキンを1日2袋ほど食わねばならない。

ところが、アトピー患者はタンパク質が減りやすい。書籍によるとアトピー患者は「一般の倍の量」、浸出液が酷いときには「約120g」が望ましいようだった。

倍の量!!

計算するとわたしに推奨されるタンパク質量は約108g。煩悩の数と同じだった。いくら煩悩にまみれているとてサラダチキン1日5袋は腹から鶏が産まれそうなほど無理がある。

そこで取り入れたのが、プロテインだ。脱ステ本の著者も勧めていた。プロテインといえばまともに運動をしているアスリートやジム通いの人が摂る謎の栄養ドリンクだと思っていた。彼らがおしゃれなシェーカーでぐいぐい摂っていたのは牛乳由来のタンパク質だったのだ。そりゃそうだ。食うより飲むほうがやすし。さっそくAmazonのサイトを開いた。

選び方がわからなかったので、甘味料の入っていないものの中で比較的安価なメーカーのナチュラルタイプのホエイ(乳清)プロテインとやらをカートに入れ、ついでにシェーカーも購入した。届いたときにはどでかいプロテインの袋に驚きとわくわくが止まらなかった。

豆乳割りがおいしいとネットで調査済みのわたしはいそいそとパッケージの裏側を見ながら規定量の豆乳をシェーカーに入れ、プロテインの袋をパカッと開け付属のスプーンでクリーム色のプロテインをすくってシェーカーに入れた。蓋を締め、二の腕に効けと念じながらシェイク!ホエーーーイ!これでわたしもアスリートもどき!と浮かれながらぐいっと飲んだ。

初めてのプロテインは意外とおいしくて安心した。
皮疹が酷く出不精になり、日ごろ家のコーヒーかマグネシウムをぶっ込んだそこらへんの水しか飲まないわたしのささやかなおしゃれドリンクにプロテインが加わった気がした。隆盛期のタピオカドリンクくらいのおしゃれ度数である。

だが、それは気のせいだった。

時間が経つにつれおなかが張ってきて、シクシクキリキリ痛くなってきた。腹痛に関する日本人のオノマトペ・バリエーションに感動を覚えたが、ものすごく痛い。便秘の何倍もキリキリ張った感じがする。なんとわたしの虚弱な胃ではプロテインを消化できなかったのだ。
2週間ほど毎日挑戦し数回飲まない日も作ったが、飲んだ日は確実に腹痛を起こした。胃薬を飲み湯たんぽとカイロをおなかにあて暫く横になって、ようやく治まるくらいの痛さだった。

困った。なんのためのプロテインか。内臓と皮膚を強くするための素材(栄養素)が摂れない。ゲームではモンスターを倒せば素材を集められるが、現実世界で何かを倒してもプロテインを消化できる胃は集められない。わたしの胃はひとつしかないレアアイテムだ。

とにかくタンパク質を摂れるようになりたい。腹痛もいやだ。
考えた末豆乳は中止して、おなかが張る要素を減らした。代わりにお湯でめちゃくちゃ薄めた1杯分のプロテインを1日かけて飲むことにした。

お湯割りで腹痛回避はできたものの、味はいまいちだった。いや、正直全然おいしくない。脱脂粉乳の味とうっすら残る粉っぽさがお湯のぬるさと相まって、最近食べてイマイチだったものランキング1位を悠々とかっさらっていった。

釈明させていただくと、決してプロテインは悪くない。わたしの胃が悪いのだ。胃薬を飲みながらも皮疹の経過は飲む前と比べ格段に良くなっていた。夜中に掻きむしってできた傷口が、以前は治らないまま掻き壊しまた傷になる悪循環だった。が、プロテインを飲むようになってからは夜中の掻き傷が夕方には塞がり血が出ないようになった。

プロテインとタンパク質の効果は十分に得たから、次は味をなんとかしたい。レシピを探すがホットケーキミックスと混ぜたお菓子やお好み焼きなど粉ものばかりで、小麦粉も止めていたわたしにとって何の参考にもならなかった。身体仕上げたいならおやつ食うなよ!!とパソコンの前で八つ当たりもした。

その時ひらめいたのが、今も続けているメニューだ。メニューと呼べるものでもない至極簡単なものだけど、おなかも張らずにプロテインが食べられるようになったし、何より美味しい。
ほかには、ホットコーヒーに混ぜて飲むと甘みのないミルクコーヒーもどきになり「まあ、悪くないよね」と感じる発見があった。

皮膚の再生にはタンパク質が必要だ。
それにはまず、おいしいと感じる心とそれなりの味が必要だと身をもって知った。美味しいは楽しくて継続の素である。

プレーンヨーグルトには佃煮のりを入れる派です


美味しいほうのやつ

参考書籍

プロテイン

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