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ゴラン・ストレフスキ『You Won't Be Alone』マケドニア版"異端の鳥"

嫌いじゃないんだが…19世紀のマケドニア。生まれたばかりの赤ん坊が魔女に見つかってしまい、母親はとっさに16歳になったら引き取っていいと言ってしまう。母親は子供を神聖な洞窟に隠すが、魔女は娘ネヴェナが16歳になると現れ、母親を食べて娘も回収する。ネヴェナは魔女のスパルタ教育によって変化の技を覚え、偶然近くの村で子供を生んだばかりの母親ボシルカに対して実践することになる。ネヴェナは夫からの暴力に耐えるボシルカ、女好きなマッチョ男ボリス、魔女の人形で遊んでいた少女ビリアナなどの姿を乗っ取って、周りの人間から人間生活を-10から+10まで教わり、学び取ることとなる。まるで『異端の鳥』のようだ。行く先々で女性たちは抑圧されていて、そこに今から数百年前から語られてきた魔女の物語も加わって、女性たちの失ったものが計り知れない大きさで目の前に立ち塞がる。そんな寓話的な物語は、テレンス・マリックのようにスピ系映像を細切れに繋いでナレーションで塗りたくるという感じで紡がれるので、物語と語り口のミスマッチが気になってしまった。加えて、ネヴェナ=ビリアナの最大の敵が、過去同じ境遇にあった魔女=女中マリアとなってしまうのも微妙。魔女マリアの存在は個人というよりも歴史そのものであり、彼女との対峙は全ての女性が経験してきた負の歴史との対峙となるのは理解できるんだが、もう少し上手い手もあったんじゃないか。

プロデューサーも兼任するノオミ・ラパスの他、『ロルナの祈り』のアルタ・ドブロシ、『4ヶ月、3週と2日』のアナマリア・マリンカ、『ジンジャーの朝』のアリス・イングラートなど国際色豊かすぎる無国籍映画になってるのも不思議。主要キャラだとネヴェナ役のサラ・クリモスカしかマケドニア人はいない。それも『異端の鳥』と同じく一般化のためなんだろうけど、俳優陣全員がインタースラーヴィクを話していた同作とは異なり、全編マケドニア語のナレーションでネヴェナ=ボシルカ=ボリス=ビリアナが一切喋らないのが引っかかってしまった。全世界への一般化もいいけど、東欧映画好きとしてはマケドニアを疎かにしちゃ駄目だろと思うなど。欲張りすぎはいかんよ。

・作品データ

原題:You Won't Be Alone
上映時間:109分
監督:Goran Stolevski
製作:2022年(オーストリア, セルビア, アメリカ)

・評価:80点

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