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アル・ウォン『Twin Peaks』あるトラック運転手の見た宇宙

大傑作。配達ドライバーとして働いていたアル・ウォンは、サンフランシスコのツイン・ピークス周辺のループする道路が持つ瞑想的な特質に魅了された、らしい。伝説的な曹洞宗の僧侶で、アメリカに"禅"を広めた鈴木俊隆の弟子ということもあって、禅哲学の無限のサイクルを象徴する作品になっている。画面に映されるのはトラックの運転席と助手席の間に置かれたカメラからフロントガラス越しに見える景色である。左手前には運転する人物がハンドルを回す腕だけが見えているが、言葉は発さない。画面のちょうど真ん中にはフロントガラスを縦に二分するような枠が取り付けられており、さながらスプリットスクリーンのように景色も二分されている。セルゲイ・ロズニツァも『My Joy』で似たようなことしてたシーンがあったなぁと思い出すなど。トラックは様々な時間の様々な天候の山道を進んでいく。すると、二つのフロントガラスにうつされる映像が徐々に噛み合わなくなっていき、遂には全く別の景色が並ぶことになる。この手法は前の『Same Difference』(これは部屋の窓が四分割になる)や『Working Class』(冒頭に数分登場)でも使用されている手法であり、それらを混ぜ合わせたような感じか。車内に差す影の大きさや方向や移動にあまりにも違和感がないので、"画面が二分割されている"のではなく"画面が奥のニ枚と手前の一枚に分かれている"ようにも見え、それまでと同じものを見ているはずなのに突然奥行きを感じた。また、景色がどれだけ変化しても変わらず運転を続けるのが宇宙旅行のようで、マイケル・スノウ『中央地帯』に続いて地上に居ながら人間の知覚を超えた旅を体感するようでもあった。好きすぎる。

・作品データ

原題:Twin Peaks
上映時間:50分
監督:Al Wong
製作:1977年(アメリカ)

・評価:90点

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