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宮崎大祐『TOURISM』失われた本来の"観光"とは

スマホの登場によって、世界は更に縮小の一途を辿り、海外に行くハードルはお金くらいになってしまった情報氾濫社会において、観光名所だけ回って中心地のモールの中を見てイオンモールと同じだねとなるような、知りたいことは全部ググって会話もほとんど内輪で済ませるような、そんな旅行が本当の"TOURISM=観光"なのか。現に序盤はそんな感じだった。取り敢えずインスタ映えしときゃええみたいな映像美、そして勿論映える二人。マーライオン見て"しょぼいね"と言い、飯を食うときには誰に向けてんのかよく分からん配信をして、モールをイオンモールに例える。そんなイエメンもホンジュラスも知らない二人が、偶然にも選んだシンガポールという国は、"本当の"観光をするにはピッタリな国と言えるだろう。スマホと仲間を失くし、知らない場所で降ろされた新菜が歩き回るのは、観光客なんかだれも来ないだろう田舎の寺院や地元の市場、バス乗り場など。そして、シンガポールは小さな都市国家なので、明白な"田舎"が存在しない。それこそ"国全体がディズニーランド"だから、どこまで行っても都市ではあるというこのチョイス、やっぱ凄いわ。歩いてればいつかはスーさんに会えそうな感じがするのが、どこまでも都市っていうシンガポールの特権。これで田舎に行っちゃうと安心感が損なわれてしまう。

そして、疲れ果てた新菜に手を差し伸べるのは地元の青年。彼は家に入れてくれて、ご飯を奢ってくれた後、地元の人しか入らないようなライブスペースに連れていってくれる。そこから観た夜景は地球の歩き方にもGoogleにも載ってない、外国人は新菜しか経験したことないかもしれない景色なのだ。これだよ!失われた本当の"観光"、それは人と人との交流と予測不可能性なのよ。言葉なんて伝わらなくてもいい、心と心の交流なの!予定調和じゃ何も起こり得ないの!正直初海外旅行でここまでグレイトな体験を出来るなんて羨ましい限り。

斯く言う私も、昔訪れたウィーンでこんな交流をした。私と友人がプラーター公園にある『第三の男』に登場した観覧車に乗ったときのこと。二人でジョセフ・コットンとオーソン・ウェルズのマネをして写真を撮っていたら、同じカーゴ(20人くらいは入るので基本それくらい乗せる)に乗っていたドイツ人のシネフィルお姉さんに声を掛けられた。彼女も一緒になって参加してくれて、仲良くなったのだ。問題は彼女がドイツ語しか出来なかったことなんだが、固有名詞と僅かなドイツ語(一応ドイツ語選択なんで)を駆使してコミュニケーションを図ったのは今でもいい思い出だ。現地の人であれ別の観光客であれ、こういう経験ができるからこそ旅行ってやめられないし奥深いよなと勝手に思った次第である。まぁ、この話はごりごりの観光地なんだけどね。

いや、というか新菜!あんたリスニング抜群に出来るだろ!ちゃんと返せてるよ!って感じではあったが、日本でもコミュ障な私が海外でバキバキのコミュ強になれるはずもなくあんな感じなんでなんとも言えません。ごめん、新菜。でも、スーさんには会った瞬間にスライディング土下座で謝ろうな。多分マジで同じとこぐるぐる回ってたと思うから。

あと、これはどうでもいいことだけど、マーライオンって上に登れるデカイやつもあるからね。マーライオンタワーってやつ。そんなに蔑まないであげて。

終わりに
上映終了後、通りかかったという監督さんが突然登場してロビーにもいたのでテンション上がって"ちょう楽しかったっす、次はやっぱりニューヨークですか?"といらんこと訊いてしまったところ、"ニューヨークをラストにして、間に何本か挟んでいきたい"とおっしゃっていました。最高ですね。応援してます。

・作品データ

原題:TOURISM
上映時間:77分
監督:宮崎大祐
公開:2019年7月13日(日本)

・評価:100点

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