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レイダ・ライウス 短編/中編作品の全て

1923年生まれのレイダ・ライウス(Leida Laius)は、今年が生誕100年の年ということで、長編作品と併せて短編/中編作品にもスポットが当たっている。ということで、今回はそれらの作品を全て紹介したいと思う。


『From Evening Till Morning』 1962年

1962年製作。学生時代に撮った38分の中編作品。Mart Kaldaによる同名作品の映画化。後にエストニア随一のアニメ作家となるライン・ラーマット(Rein Raamet)がプロダクションデザインとしてクレジットされている。二次大戦期ドイツ占領下のエストニアで、乳飲み子を抱えた若い母親サルメが納屋に隠れていた脱走ソ連兵を見つける。脱走兵を匿った者には極刑が待っていた時代に、サルメは葛藤する。ナチのパトロールと相見えるシーンの緊張感、遠近を利用した人の配置など次作に繋がる要素も満載の一本。そしてデビュー作から既に女性の力強さにスポットを当てていたことも分かった。子供の未来のためにも目の前の生命を助ける母親と子供のために安全を取ろうとする父親の対比は興味深いが、父親が知ったのは事後だったため、そこに諍いは起こらなかった。流石にそれやるなら長編か。

『Hills Like White Elephants』 1963年

1963年製作。学生時代に撮った15分の短編作品。ヘミングウェイの短編『白い象のような山並み』の映画化。同じ短編集にはかつてタルコフスキーが学生時代に撮った短編『殺し屋』も収録されているのを考えると、そういうトレンドでもあったのか。スペインの地方駅の酒場で列車を待つ男女、子供を産みたい女と遠回しに否定する男のすれ違いを描いている。視線を交わらせず、接写を用いて後景をボカすなどのギミックを使って二人の距離感を視覚化する。

『Childhood』 1976年

1976年製作、28分の短編ドキュメンタリー。保育園等などで母親や家庭から離れて日々、或いは数週間を過ごす幼児たちについて。ある子は泣き叫びながら、ある子は全てを受け入れたような顔をしてやって来て、非日常に馴染もうと意識的にも無意識的にも努力を重ねる。そんな彼らの小さな悲しみを描いている。先生たちは"保育園は母親の代わりにはなれないし母親は必要"と答え、子供たちは遠慮がちに"帰りたい"と答えるのが胸に刺さる。後半はアイヴァルという一人の少年に焦点が当てられる。彼の母親は彼を置いてどこかに行ってしまい、今は曾祖母と暮らしているのだ。そして、どこからから探し出してきた母親へのインタビューと共に、家族の在り方を提示していく。父親が全く言及されないのは不思議。本作品は、ソ連の体制が家族を崩壊させているとして一時は上映禁止となった。内容的に後の『Games for Teenagers』にも直接的な影響を与えているだろう。ちなみに、DoPはどちらもアルヴォ・イホ。

『A Human is Born...』 1976年

1976年製作、16分の短編ドキュメンタリー。産院で行われた妊婦や子供を産んだばかりの母親へのインタビューと産院の映像で構成されている。インタビューでは皆が"お腹を蹴ったことで子供がいることを自覚した"と言っていたのが印象深い。産院の映像は、赤ちゃんと対面する母親、ソワソワしながら廊下で待つ父親、ミルクを飲んだり眠ったりしている赤ちゃんと、幸福感と温かさで溢れている。『Childhood』と対にしているのだろう。ちなみに、DoPはどちらもアルヴォ・イホ。

『Track on Snow』 1978年

1978年製作、28分の短編ドキュメンタリー。Ants Jõgiは当時85歳、長年俳優を続けてきた。本作品は老人ホームで暮らす彼へのインタビュー、日常生活や仕事風景の映像などで構成されている。過ごしてきた時間への温かな懐古と静かな洞察。

『Kind Hometown Spirits』 1983年

1983年製作、28分の短編ドキュメンタリー。1975年10月、エストニアTVの青少年向け番組が主導した結果、"Kodulinn (故郷)"という現象が生まれたらしい。それは、何千人にも及ぶ学生たちが日曜日のタリン旧市街に集まって、環境整備や屋根の修繕?といった仕事をしたり、自分たちの新聞を編集したり、会議や遠足を企画したりするというものだった。映画では1980年代初頭、インタビューを受けたこの運動の若きリーダーであるTiina Mägiやその仲間たちが活動について語っている。

・レイダ・ライウス その他の作品

Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
★ Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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