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Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて

カリョ・キースク(Kaljo Kiisk)長編七作目。夏の聖ヨハネの日の昼下がり、本土と島を結ぶフェリーには帰省中の島民たち、大学生四人組、退役軍人、女性サイクリストたち、バスに乗った観光客など様々な人が乗船していた。その中には、無一文になって道に停まっていた綿花トラックに乗り込んだ結果、密航することになったDQNカップルもいた。群像劇ということで、様々な背景を持つ彼らの人生の断片を船に乗り込む直前からグランドホテル方式で語り始める。その数は上映時間に対して膨大だ。すると、DQNカップルのタバコの不始末によって、海のど真ん中でトラックが燃え出し、隣には違法に積んだ二台のガソリントラックがあり…というパニック映画に変貌する。我先にと救命ボートに乗り込むおじさん、逆に船員に援助を申し出る女性サイクリストたち、船のど真ん中にあって水すら掛からないトラックに向けてすこしずつ前進する男たち、車を捨てろという命令に一人従わない不倫女、車を動かすのに参加せずタバコを吸い始める男など、乗船以前の姿とはまるで異なる本性が露わになる。集団的ヒロイズム、パラノイア、利己主義などを綺麗に混ぜ合わせた、新たな時代を感じさせる一作。キースク、やっぱりこういう作品を卒なく撮れちゃうのが凄い。

・作品データ

原題:Keskpäevane praam
上映時間:75分
監督:Kaljo Kiisk
製作:1967年(エストニア)

・評価:70点

・エストニア映画TOP10 その他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが
ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界
ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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