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Boštjan Hladnik『A Sand Castle』スロヴェニア、叶わぬ恋は砂城の如く

ボシュチャン・フラドニク(Boštjan Hladnik)長編二作目。あまりにもストレートにヌーヴェルヴァーグの影響下にあるが、それもそのはず、1957年に渡仏してクロード・シャブロルやフィリップ・ド・ブロカ、ロバート・シオドマクなどの監督の下で働いていたのだ。本作品でまず登場するのは、爆走してきて金網フェンスに激突するサングラスの女だ。彼女はミレナといい、何かから逃げているようで、金網の下をくぐり抜けて森の中をひた走る。そして、森を抜けた先で、瓦礫の山となった建物を見て驚愕の表情を浮かべる。続いて登場するアリという青年は、試験に落ちて自暴自棄となって暴れまわり、恋人から愛想を尽かされていた。そこにスモーキーという男も登場し(三人が出会ったシーンだけ素材の関係で見られなかった…出会った経緯が分からん…)、三人は緩い旅を始めることになる。ミレナさん、どっかで見たことあるなあと思ったら、Zvonimir Berković『Rondo』でも三角関係の中心にいたミレナ・ドラヴィッチじゃないか(ユーゴスラビアを代表する女優なので題材被りはありえない話じゃないけども)。アリとスモーキーは、真夏にコートを羽織っていたり、街に入るとソワソワして変装し始めたりするミレナを訝しみながら、その美貌にベタ惚れしてバチバチの状態になっていく。ミレナもミレナで"名前は言わないけど貴方たちの片方が好き"とか言い始めてそれを煽っている。と、内容自体は退屈なんだが、二人の男の間の遠方にミレナを置くというショットが多用されていて面白い。この二人が競ったところで到底届かないところにいるのが視覚化されている。結局ミレナにはかなり切実な背景があったことが明かされる(以下参照)が、そこまではずっと男たちの物語だったのに、MPDGに人格がありました!みたいなこといきなり言われても…という感じで、あまり上手く噛み合ってなかったと思う。

追記 (ネタバレあり)
彼女が狂ってしまった原因は、幼少期を収容所で過ごしたことだった。光が怖くなったのもここでの生活が原因のようだ。ここで思い出したのが、『國民の創生』(1915)の完成披露試写会に南北戦争の生き残りが呼ばれたということだ。1865年の終戦時に20歳として70歳、全然普通に生きてる人がいるというこの実時間の隔たり。そして、20年前が2003年という感覚と実時間のズレ。映画製作時は1962年なので、終戦から17年、ミレナが成長する映画外の実時間と感覚が、ラストの言葉で合致する。もう17年、まだ17年という時間感覚をここで一瞬にして共有する。これは素晴らしいと思う。とはいえ、上に書いたことも事実なので、なんともアンビバレントな感情に至り…

・作品データ

原題:Peščeni grad
上映時間:96分
監督:Boštjan Hladnik
製作:1962年(スロヴェニア)

・評価:50点

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