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Binka Zhelyazkova『Lullaby』ブルガリア、女子刑務所で産まれた子供たち

ビンカ・ジェリャズコヴァ(Binka Zhelyazkova)長編七作目。長編四作目『The Last Word』の撮影で訪れたブルガリアで唯一の女性刑務所であるスヴェリン刑務所を10年ぶりに再訪し、二本のドキュメンタリー作品を撮った。『The Bright and Dark Side of Things』、そして本作品である。共に1982年に公開されたが一瞬にして上映禁止となり、民主化以降まで再公開されることはなかった。本作品ではスヴェリン刑務所における出産と育児について中心的に扱われている。原題"Nani-na"とはブルガリアで知らない人はいない子守唄を指している。映画は様々な女囚たちにインタビューを重ねるが、理由は違えど全員が口を揃えて"刑務所内で子供を産むべきではない"と応えている。それでも後が絶えないどころか同じ人が6人産んだという話まで出てきた。それは偏に貧困のせいである。子供が増える→収入が足りずに窃盗→逮捕を繰り返す人も多く、結果として刑務所で産まれた女性が成長して刑務所に入って子供を産むという悪循環まで生まれている他、施設側の推測では"少なくとも乳児にとって清潔な環境と衣食住は保証されているから…"と思ってる人もいそう、とのことだった。1956年に刑務所で産まれ、26歳の現在は別の犯罪で収監中という女性のあまりにも壮絶な人生は聴いているだけで辛い。彼女はここから出たいと言うが、出ても行く場所はなく、戸籍もないのでパスポートも作れない。他の挿話が霞んでしまうくらい、いや他の挿話があったからこそ、彼女の言葉の重みは計り知れないものがある。彼女の話を聴いていて、実際に刑務所で産まれた子供に訊けばいいじゃないかと思ったが、後に望まぬ子供に双方愛着が湧かずに殺してしまった事例が紹介され、製作陣も他の子供を探す勇気がなくなってしまったと言っていた。刑務所内に大掛かりな照明機材を持ち込めなかったのか、室内はかなり暗く、二段ベッドやカーテンで顔を隠すように撮られている箇所もあって、これらの匿名性は『Smoke Sauna Sisterhood』でも使われていた手法だった。

・作品データ

原題:Нани - на
上映時間:59分
監督:Binka Zhelyazkova
製作:1982年(ブルガリア)

・評価:70点

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