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メーサーロシュ・マールタ『Just Like at Home』ハンガリー、擬似的な父娘関係と幼年期への憧憬

メーサーロシュ・マールタ長編八作目。スターリンの粛清によって殺された監督の父ラースローに捧げられた本作品は、キャリアで男性を主人公にした数少ない作品である。アメリカ留学から帰国したアンドラーシュは、妻も友人も仕事も失い、昔の恋人アンナからも拒絶される。周囲にはアメリカ時代の自慢話をしているが、明らかに"ほら話"だし、現状もその"ほら話"から程遠い。一方、彼が田舎で出会う少女ジュジは七人兄弟の長女として父親の暴力を最前線で受ける人物であり、沈黙を貫いて周囲を観察している。つまり、アンドラーシュは口を開くことで周囲から孤立していき、ジュジは口を閉ざすことで意識的に周囲から孤立している。ジュジの飼っていた犬を勝手に買ったアンドラーシュをジュジが追ってくるという出会い方をした二人は、やがて擬似的な親子関係を構築していく。暴力的でない親が欲しかったジュジと、自分のことを見てくれる人が欲しかったアンドラーシュの利害が一致したような形だ。そして、この関係性にアンナが割り込んでくる。アンナとジュジは様々な駆け引きをして、アンドラーシュの関心を奪い合う。ただ、無字幕で観るとアンナの思惑が不明瞭なので、全体的な印象もボンヤリしてしまうのが難点(こういう場合は他人のレビューを漁りまくるのが吉だが、今回は世界中が無字幕で見てるので要領を得ない…)。

メーサーロシュ・マールタらしからぬ、牧歌的で黄金色の田園風景が中々興味深い。幼い頃への憧憬か?ちなみに、アンナを演じるのはアンナ・カリーナ。『マリとユリ』から『A Mother, a Daughter』に至る五作はフランスの女優が代わる代わる登場する中期の連作になっているのだが、これまたどういう経路で出演に至ったのだろうか…

・作品データ

原題:Olyan mint otthon
上映時間:92分
監督:Mészáros Márta
製作:1978年(ハンガリー)

・評価:60点

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