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ファーブリ・ゾルタン『The Boys of Paul Street』ハンガリー、遊び場を巡る少年たちの大戦争

大傑作。東欧の子供映画を観よう!企画。モルナール・フェレンツによる児童小説『パール街の少年たち』の映画化作品。この小説はハンガリー国内で非常に人気があり、いわゆる古典作品として海外でも多数翻訳されてきた(日本でも何度も翻訳されている)。また、何度も映画化されており、フランク・ボーゼージ『ますらを』もその一つらしい。本作品はハンガリーとアメリカの合作であり、なんと『早春』以前のジョン・モルダー=ブラウンも登場する。さて、本作品は1880年代後半のブダペストを舞台に、活動拠点である広場を巡る少年たちの戦いを描いている。主人公はパール街少年団(仮称)のカリスマ的リーダーであるボカと、仲間の中で一番小柄で臆病なネメチェクであるが、赤シャツ団リーダーのアーチ=フェリ、カリスマ指導者であるボカに反旗を翻すゲレーブ(これがジョン・モルダー=ブラウン)など個性的なキャラを掘り下げていくことで、領土争いに深みを与えている。興味深いのは子供たちが広場を巡る模擬戦争が、小競り合い、選挙、偵察、裏切り、下部組織解体と戦闘への一本化、使節団による交渉と戦闘日の決定など、実際の衝突に至るまでの過程を緻密に描いていることだろう。人物描写の深さと相まって、少年たちの争いであることを忘れてしまう。また、戦闘描写も広場に塹壕を掘ったり、薪と土嚢で迷路を作ったり、リーダーの指示をラッパで届けたりと小さなぶつかり合いまで詳細に描いている。

ファーブリお得意のあっさりエンディングは今回も『The Toth Family』と同じく無情さを伴っていて、非常に上手く機能している(毎回同じフォームに題材を当て込んでいくって…ヤンチョー・ミクローシュじゃないか…)。全くの無駄に終わった戦いとネメチェクの死という辛すぎる事実によって、戦争の無意味さと人間の愚かさ(広場なんて一緒に使えばいいのだ)というファーブリの一貫したテーマとも交わる。このラストでは、"強い仲間意識"という繋がりの脆さも指摘しており、その繋がりが簡単に裏切り、敵対へと連続していることを示しているのだ。あと、余談だが、ネメチェクの母親役でテレーチク・マリ様が登場する。

・作品データ

原題:A Pál utcai fiúk
上映時間:110分
監督:Fábri Zoltán
製作:1969年(ハンガリー,アメリカ)

・評価:90点

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