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視線の先 舟越桂 私の中にある泉 /渋谷区立松濤美術館

 松濤美術館で舟越桂の回顧展。
 地階展示室では壁つきのガラスケースを撤去し、弦状に湾曲した空間いっぱいに木彫を点々と配置。素木に淡い彩色を施した具象的な半身人物像は、成人男性の背丈・目線と同じほどの高さに設定され、作品と鑑賞者が入り混じる雑踏のような光景を形成していた。そのためか、会場全体を見わたすと、どちらが木でどちらが生身の人間か一瞬わからなくなるような妙な錯覚を覚えてしまうのであった。この空間、古美術の展示には適さなかったが、今回は奏功している。
 3階の展示室で展開されるのは異形の人物像。手の位置がおかしかったり、角が生えていたり、両性具有であったりといった像が並ぶ。比較的近年の作例だ。
 ひとつのものをじっと見つめ続けていると、見慣れたはずの形が突如、違った形として映ってくる瞬間に出くわすことがある。対象を凝視する長い長い時間の先に、とばりが風に揺られてめくられ、視界から遮られていた本質的ななにかが現出する、ゲシュタルト崩壊のような現象。異形の像はそういった末に生まれた造形ではないかと思われた。


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