広がるつながる コレクション 4つの水紋 /埼玉県立近代美術館


 「ミュシャ グラフィック・バラエティ」の鑑賞後、うらわ美術館前の旧中山道を徒歩で北上すること20分強で、埼玉県立近代美術館に着いてしまった。
 「コレクション 4つの水紋」は所蔵品展。
 企画の発端はおそらく、新収蔵のシニャック《アニエールの河岸》の大々的なお披露目。印象派とその周辺に強い埼玉近美だから、新収蔵品と関連作品だけをずらり並べる選択肢もあったと思うが、変化球を投げてきた。
 まず、《アニエールの河岸》を掲出。作品を形成し特徴づける要素を「水辺の情景」「光の点描」のふたつに解体してそのままこの章のテーマに設定し、多様な作品をゆるやかな繋がりをもたせ連鎖的に並べる……という展示構成になっていた。
 「水辺の情景」ならば、先行するブーダン、続いて同時代のモネ。ここまではよくある構成だが、その次には浦和画家・跡見泰(ゆたか)の油彩を配置。モネと跡見に直接の関係はないが、隣り合った絵の画面は、モチーフや色みなどの点でたしかに相性がよい。
 このように、国も時代も材質も問わずに作品が数珠繋ぎ、次々と連想ゲームが続いていく。ある作品をスタート地点に、そこから広がっていく共鳴ぶりはタイトルのとおり「水紋」のようだ。
 ひとつの絵を観終えて次の絵の前に立つと、隣の絵とリンクするものを自然に感じ取ることができる。御託を並べずに、「絵を観る楽しみ」を感覚的に噛みしめられたような愉しい時間であった。
 それに、隣どうしはともかくとして、3つや4つも前後すると、とたんにつながりが薄く見えてくるのもなんだか不思議で滑稽に思えた。伝言ゲームのような状況が起きている。
 展覧会名のとおり、「水紋」はあと3つも用意されていた。ここでは省くが、同様の構成でどれも楽しかった。

 地方美術館の使命であるところの地元作家の顕彰にも目くばせをし、たくみに織り込んでいた。
 斎藤豊作という埼玉出身の洋画家のことを、不勉強ながらわたしはこの会場で初めて意識した。
 あざやかな暖色系の色遣いやラフな筆致に好感をもったのだが、彼の生涯も面白い。洋行への思い立ち切りがたく、念願叶って渡仏しても帰国することなく、フランス国内の古城を購入して異国の地で一生を終えたという。こんな作家が見つけられることも、コレクション展ならではといえる。

 「古城」つながりではないが、美術館のあとは大宮駅前の名物喫茶店「伯爵邸」に寄ってみた。レトロで派手めな隠れ家純喫茶、24時間営業の異空間でナポリタンを喰らい、続いてチョコバナナパフェをつつきながら、鑑賞の余韻に浸った。




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