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マティス展:2 /東京都美術館

承前

 マティス展の出品作から、独断と偏見により数点をご紹介。
 リーフレットに掲載がなかったり、ホームページでの扱いが小さかったりするものから、なるべく選んだ。

①《ニースの室内、シエスタ
 1922年 ポンピドゥー・センター

 光あふれる室内、うたた寝をする女性……ゆったりとした時間が流れる。
 この手前のセクションには、第1次大戦開戦直後の作が並んでおり、《金魚鉢のある室内》(1914年)に代表される、暗い色調・太い筆線の絵がその多くを占めていた。
 ずんと重苦しい空気は、エスカレーターを昇ると一変した。ニースへの移住……南仏の温暖な空気は、マティスの色遣い、筆の運びまでも変えたのである。
 明るく、瀟酒。
 こんな部屋でシエスタできたら、午後からの仕事もさぞはかどることだろう……

②《赤の大きな室内
 1948年 ポンピドゥー・センター

 ポスターにも起用された、思いっきり主役級といえる作品だが……はずせないなと思った。
 画像で最も再現が難しい点・サイズ感を確認しておきたい。
 146×97センチ。
 作品名のとおりに、かなりの大作である。遠まきに姿を認めてまず「でかいな……」と思ったし、ずいずい近づいていくほどに、その感じは強くなっていった。
 作品の前に立てば、たちまち赤に「包まれる」というか、「取り込まれる」ような感覚をいだく。
 この赤は、本当に支配的。モチーフとしては2点の画中画にテーブル、その上の花瓶と花、椅子、毛皮のラグなどが描かれているものの、黒の輪郭線も相まって極度に平面化され、横並びとなり、赤の存在感をより引き立たせている。
 会場の壁面は白だったが、黒バックで観られたら、吸い込まれるような感覚がもっとあったろうなとも思う。

③《緑色の大理石のテーブルと静物
 1941年 ポンピドゥー・センター

 ひと目で気に入って、思わず「カワイイ!」と(心の)声が出た絵。
 テーブルの上の要素がどれも丸っこく、ラフで、とても愛らしい。街中でみかける、カラフルなグミやキャンディーのディスプレイを思い浮かべた。
 左下の丸いものは、なんだろう。黄色い皿に盛られたカレーライスだろうか? オムレツかチーズのトッピングつき……ちょっとというか、かなり自信がない。
 その他、卓上にはゴブレットやピッチャー、鉢植えなどの器物、トマトやライムとおぼしき果実などが描かれている。
 これらは、天板に直接描かれた模様にみえてくるほど平面的な描写となっているが、こういった小物類やその取り合わせにみえる趣味のよさも、マティスの室内画の醍醐味であろう。
 会場では②《赤の大きな室内》の真向かいに展示されており、この絵の前は閑散としていたけれど、じゅうぶんに惹かれるものがあった。

➃《鏡の前の青いドレス
 1937年 京都国立近代美術館

 じつは、国内の美術館からも数点、借り出されていた。本作は、京都国立近代美術館所蔵の優品。
 ドレスや背後のドア、赤いテキスタイルに走る白い線の自由さに、とくに魅せられた。かたちや線描、着彩、すべてにおおらかさが漂う。
 こちらも、サイズ感をお伝えしておきたい。
 64×49センチ。比較的、小品である。
 本展のなかで、いちばん「欲しい」作品だった。上洛の機があれば、京近美へまた会いに行こう……


 ——本展は、東京都美術館で8月20日までの開催となっているが、年明けにもう1本、マティスの大展覧会が控えている。
 来年2月から年度をまたぎ、国立新美術館で開催される「マティス 自由なフォルム」である。
 晩年の仕事、とくに切り絵にフォーカスするもので、本展の7章と8章を独立・拡大させたような内容だろう。
 ロザリオ礼拝堂を扱う展示は、本展の8章と、「芸術家たちの南仏」に続いて今年度3本め(後者は現在、宇都宮美術館に巡回中)。比較するとおもしろそうだ。
 もとは、都美館の本展とは、年度内でバッティングすることがなかった企画。例の感染拡大で延期となり、この会期に落ち着いた。かくして、マティスの稀にみる “当たり年” が生まれたのである。
 新美のマティス展も、期待大。


雨の六義園


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