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スポーツは身体に悪いのか?  フィットネスとスピードについて

こんにちは。
ゆるいランニングなど楽しんでいたぼくは、45歳を過ぎてロードバイクに乗りはじめました。もともと子供と一緒にサイクリングなどして楽しんでいましたが、そのうち面白半分でレースなどにエントリーするようになり、友人にそそのかされてパワーメーターを購入し、試しにパワトレなどしはじめて、、、と良くあるパターンでスピードを追求するような方向性へと変化したわけです。
若いうちはそれで悩み無用でしょう。お好きなように楽しく追い込めば良いと思います。
しかし、50歳も目前になるとふと思うのです。

「果たしてこういう身体活動は自分のフィットネスを向上させて日々の生活に豊かさをもたらしているのだろうか…?」


おそらくハードにスポーツをやっている中高年であれば皆経験があると思います。
そう、健康診断で肝機能や腎機能の数値が驚くほどの高値でドキッとした経験です。
肝機能に限らず、大量に汗をかく夏場は腎機能も低下して尿素窒素が高くなりますし、体重が軽い方が有利なヒルクライムではカロリーを制限してエネルギーが不足して総蛋白が低くなります。鉄不足やエネルギー不足はヘモグロビンの低値につながって貧血も出てきます。
健康診断でこうした数値を突きつけられるのは、あまり気分の良いものではありません。

かなり頻繁(3ヶ月毎)に血液検査で体の状況をモニタリングしていますが、はっきり断言できるのは、ハードなトレーニングを伴うシリアス・サイクリスト、シリアス・ランナーにとってのスポーツは(かなり)体に悪いです。

ただ一方で、スポーツは身体的・精神的健康を維持する上で極めて重要でもあります。Alex Hutchinson氏は以下のようにその効能を強調しています。

運動で予防できるのは身体の疾患だけではありません。脳へ送られる血液の循環がよければ認知機能の低下を防げますし、運動が細胞の老化を減速させることも報告されています。
有酸素運動が、緑内障、黄斑変性症、白内障の発症リスクを飛躍的に低下させることも、2009年にローレンスバークレー国立研究所のポール・ウィリアムズの研究によってわかっています。

アレックス・ハッチンソン『良いトレーニング、無駄なトレーニング』草思社、2014年、226-227頁。

100歳を超えてなお元気な栄養学者のDoug Batchelor氏によると、運動しない適性体重の人よりも運動する肥満者の方が、運動しない非喫煙者よりも運動する喫煙者の方が、循環器系の機能は良いという結果になる程、健康において運動が果たす役割が大きいとのことです。特に全ての世代の中で中年期の運動が極めて重要な健康的意義を持っていると強調しています。

僕はベジタリアンではありませんが基本的にプラントベースでホールフードな食事を好むので、Doug Batchelor氏の話は自分の体感とも合っています。しかし、そのBatchelor氏、別なインタビュー動画でも「運動は良いんだけど、過度な運動はやはり死亡率を高めるんだよね…」と述べており、この動画でも「あまり知られてなく言いづらいのだけど……」と言いながら運動のOverdoing(やり過ぎ)の逆効果を指摘しています。 運動の効能を世界に発信している学者ですら、過度な運動の危険性を強調しているわけです。

シリアス・ランナー&サイクリストには残念なニュースではありますが、自分の血液検査の履歴とトレーニング強度を時系列に整理してみると、認めざるを得ない気がします。

とはいえ、日々のトレーニングで自分の身体が目に見えて変化し、無駄なものが削ぎ落とされて、スピードが増していく快感も捨てがたい。何よりも、トレーニングが習慣化してしまうと、リラックスしたファンライドや軽いジョグばかりでは満足できない自分がいるのです。

そこで自分自身の心に優先順位を問いかけてみると、

1 心身の健康(簡単な基準は「日々のご飯を美味しく食べられるか」でしょうか(笑))、家族や職場も含めた日常生活の充実
2 競技上の強さ(僕の場合は自転車でのヒルクライムやマラソンを速く走れるかということになります)

うーん、結局堂々巡りになりそうですが、優先順位を考慮すると、まずは追い込みすぎず気持ち良くトレーニングを終えられる強度を基本としつつ、時折、強度の高いワークアウトを入れて身体に刺激入れをする(ことでレースに出られるレベルを維持する)。とにかく「やりすぎ」注意。
特に調子の良い時というのは、Stravaのセグメントでもどんどん自己ベストを更新したりして、そうすると張り切りすぎて追い込むこと自体が快感に感じられることもありますが、アルコールと同じでいくら気持ち良くなってもやりすぎるとその反動として大きなダメージを負う気がします。
追い込んでいる間は身体は弱っていくばかりで、実際に回復し強くなるのはレストの時間だという当然のことを念頭に、「楽しむ、ただし楽しいからといってやりすぎない。休んでいる間に身体が強くなることを忘れない」(書き出してみると普通なんですが、大抵怪我や故障する時というのは普通のことができてない時が多いです…僕の場合)ことで趣味としてのスポーツを楽しみながら競技性も追求していく必要があるようです。そういう意味でホビーレーサーは、プロのアスリート以上にトレーニングの効率性を追求する必要がありそうですね。

ちなみに僕は自転車とランニングをしているのですが、基本的なサイクルとしては春夏(3ー9月)は自転車の割合が増えて、秋冬(10−2月)はランニングの割合が増加します。Stravaの総体的エフォートを集計してみると、春夏のトレーニングは自転車とランニングは10:1のエフォートで、秋冬にはそれが1:4くらいに逆転します。

それぞれの時期のヘモグロビン、ヘマトクリット、その他肝機能の数値を比較すると、明らかに自転車の比率が高い時期の数値が悪化しています。それは自転車のダメージが大きいというよりも、

  1. 自転車はヒルクライムレース、ランニングはマラソンのためにトレーニングしているので、自転車の方がどうしても高強度になる

  2. 特にマラソンは着地衝撃による故障が多いので、ワークアウトの日以外は基本的に低強度でのトレーニングが主体となる

  3. 参戦する自転車レースは富士ヒル(6月)、乗鞍(8月)と夏場であり、夏場のトレーニング(特にローラー)は大量の汗で腎機能の低下や鉄欠乏を招き身体機能を害しやすい

といった理由がありそうです。

血液検査の診断結果を季節ごとに比較してみれば、結局のところ、「暑い中で大量の発汗を伴う高強度の運動」は、身体へのダメージが本人が感じているよりも大きいという当たり前の結論になるようです。特に夏場のローラーは大量の汗をかくのでその辺りは注意が必要。
逆にうまくいっているのが秋冬です。基本的にテンポ走の強度まではランニングで行い、故障する可能性の高い高強度のインターバルや心拍数を上げる閾値でのトレーニングなどは自転車で行っているので、バランスが取れているように感じています。先に書いたように、ワークアウトとレストのバランスは、こうした気候的要素も組み込んで時期ごとに見直す必要もありそうですね。

最後にこれから50歳代に突入する自分にとって逆の想定、すなわち運動が億劫になってスポーツから離れていくことも視野に入れておく必要があると感じています。今は走る喜びがあって走らなくなる自分が想像できないですが、統計的にみれば競技者人口は年齢とともに少なくなっています。かつてはプロのサイクリストだった方がすっかり自転車から離れてしまう例も多いですし、大学の陸上部に所属していたような方が歳とともに走らなくなって、今では僕よりもマラソンが遅くなっているケースもあります。

これに関しても、Alex Hutchinson氏は面白い(かつ体感的に納得できる)研究を紹介してくれています。

加齢とともに成績が低下する原因がたんなる生理学的な理由だけではないことを裏付ける、有力なマウス実験の結果もあります。(中略)この実験からもわかるように、モチベーションは目標達成に欠かせない要素です。オタワ大学のブラッドリー・ヤングらがマスターズの一流選手を調査したところ、個人的モチベーションと社会的モチベーションがうまく連動すると、50代を過ぎても高水準のトレーニングを維持できることがわかりました。

ハッチンソン、同上書、240頁。

個人的モチベーションとは、走る喜びや気持ち良さ、健康増進などといった要素だと思います。そして社会的モチベーションにおいては走ることで繋がる仲間や家族の存在も大きい意味を持つということでしょう。

ですから、僕のような中年のサイクリスト・ランナーが、ただスピードだけを求めてスポーツするのは結果として長期的なパフォーマンス維持にとってマイナスでしかないと思います。
以前は、僕はひとりで走るのが好きでした。さらに言えば、今もそうです。自分が走れる距離を走りたい速度で走る気持ち良さ、これはスポーツをする方なら誰でも理解できると思います。
けど、今はちょっと変わりました。たまにスピードを落として、ゆっくりと家族とジョグしてみたり、それぞれ走力が異なる仲間たちと共に走りを楽しんでいます。これが自分にとって社会的モチベーションを高める貴重な機会になっています。


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目先の速さだけを追求せずに、フィットネスレベル向上と健康のバランスをはかり、個人的・社会的モチベーションを維持することが、長期的にみて今後の成績向上につながると期待しつつ、今日も楽しく走りたいと思います。最近、初めてつくばでマラソンに参加し、新しいモチベーションも生まれてきたのですが、それについてはまた今度書いてみたいと思います。


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