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ひとつでは多すぎる(One is too many)

 読んだ本の内容を、できればいつまでも覚えていたいのだけれど、どうにもこうにも忘れっぽい。弾けるようになったピアノの曲も、数ヶ月も過ぎたら楽譜がなければ弾けなくなった。周囲は自分よりも記憶力に長けている、つねづねそう感じてきた。

 本は読み捨てでかまわない。
 本を読んだら、忘れるにまかせる。
 書物は心の糧である。(P50)

 それでも、読めるだけの本は読みたい。わたしはしかも、読む速度まで遅い。あれだけの時間をかけたのに、どうして忘れてしまうのか。もったいなくて仕方がなかった。しかし、どうやらそれは杞憂だったらしい。

 記憶は原形保持を建前とするが、そこから新しいものの生まれる可能性は小さい。忘却が加わって、記憶は止揚されて変形する。ときに消滅するのかもしれないが、つよい記憶は忘却をくぐり抜けて再生される。ただもとのままがほじされるのではなく、忘却力による創造的変化を伴う。(P196)

 風のように読むのがおもしろい。
 気の向くままに読み漁ればよい。
 乱読の過程に、セレンディピティはひそんでいる。

・・・
乱読のセレンディピティ
思いがけないことを発見するための読書術

外山滋比古
★★★★★

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