テロリズム=暴力に左右される日本/ロシアによるウクライナ南東部「併合」宣言/プーチンの「戦争指導能力」と「ヴィジョン」

10月1日(土)晴れ

昨日はわりあい心穏やかに過ごせたのだが、今日は朝4時ごろに頭が痛くて目が覚めた。トイレに行って色々体調を点検してみると鼻が詰まっているので、どうも副鼻腔炎的な方向からの頭痛。鼻をかんだり痰を吐き出したりしながら鼻と喉を通したら少しはマシになった。そういえば、昨日は運転していて左の手首に痛みを感じた。母の乗っていた軽なのだがハンドルが固く、よく母が手が痛いとこぼしていたことを思い出した。手首に負担がかからないように気をつけながら運転している。

鼻にそういう症状が出たのは一つには気温変化がありそう。現在までの最低気温10.5度。この時期としてはおかしくない気温ではあるのだが、ずっと気温の高い状態が続いていたから、やはり寒く感じる。少しだけストーブをつけたりしてやり過ごしている。

今日は10月1日、外もよく晴れて秋本番といった感じになってきた。彼岸花も枯れてきて、草の勢いも弱くなっている。田んぼはすでに稲刈りも済んだところはあるが、これからが本格的なシーズンだろう。実りの秋であってくれると良いのだが。


本当にいろいろあった2022年ももう4分の3が終わった。世界的に見ればもちろんロシアのウクライナ侵攻が最大の事件だったが、日本で言えば当然ながら安倍元総理銃撃暗殺事件だろう。

山上容疑者の発言で統一教会問題がクローズアップされるなど、テロリズムに左右される日本のオピニオン環境の脆弱さが露呈した感がある。これはアメリカで起こったBLM(Black lives matter)の動きと並行的に論じられるかもしれない。彼らの暴動がアメリカの世論を動かしたように、テロリストの凶行が日本の世論を動かしたのだ。暴力によって世論を動かすという動きはもう否定されたかと思っていたが、全くそんなことはなかったのだと改めて思わされる。その件についての政治学の見解はどうなっているのだろうか。


暴力と言えば当然ながら最大の事件はロシアのウクライナ侵攻だ。ウクライナはよく戦って北部ではロシア軍を押し返してはいるけれども、その分手薄になった南部や東南部ではロシアによる占領を許してしまっていて、ウクライナ側のハルキウ周辺の大攻勢によってハルキウ州はほぼ回復したものの、プーチンは核の恫喝をしつつ東部から南部にかけての4州、ヘルソン・ザポリージャ・ドネツク・ルガンスクの4州のロシアへの併合を宣言した。

これでクリミアから東部ドンバスにかけての領土が自称ロシア領になったわけで、もちろんウクライナや国連、アメリカ、NATO側は強く非難し認めないという姿勢をとっているけれども、ロシアが自領と主張するクリミアへの攻撃が控えられてきたことと同じことが4州に対して行われることとなって仕舞えば、ウクライナはこれ以上攻勢をかけられないということになるし、それを無視して強行すれば「ロシア本土を攻撃した」と「限定的な」核兵器使用の口実とされることを西側諸国は恐れているのは明らかで、この辺で足並みの乱れが出てくる可能性はある。そういう意味でのチキンレースにロシアは持ち込んだと言える。

ここにきて、プーチンの戦争指導能力の問題がかなり浮上してきているような気がする。彼は戦争指導に本当にビジョンがあるのだろうかということだ。大東亜戦争の時の日本も陸軍と海軍の反目などで統一的な戦争指導ができていなかったのではないかという疑問はあったけれども、今回はプーチンという独裁者の戦争指導能力の限界というか、つまりヒトラーが犯したような失策をプーチンもやっている、やりつつあるのではないかという感じがする。

ウクライナ戦線でのロシアの杜撰な戦い方や兵器や兵士の不足によって、プーチンはロシア国民に「部分的」動員をかけたら沈みかけの船からネズミが逃げ出すように動員対象者たちがロシアから逃げ出し、それには流石のプーチンもがっかりした表情を見せていたが、4州併合で「ロシアは領土を拡大している」というところを国民に見せることで、支持を取り付けたいと思っているのだろうと思う。ただそれは、第二次世界大戦中のドイツの膨張した巨大な「領土」の地図を見ているようなもので、またそれに比べればかなり貧弱なものだ。

しかしその悪夢は、ソ連とドイツによって分割されたポーランドやソ連に併合されたバルト3国にとっては決して許さないという思いをさらに強くするだろうし、欧米諸国もその記憶を思い起こすだろう。そしてロシア軍によってウクライナで繰り返されている蛮行・虐殺は、アウシュヴィッツの記憶を思い起こさせるわけで、世界の世論的にはさらにロシアは追い詰められていくことは確かだろうと思う。

プーチンの戦争指導能力について疑問を感じるのは、すでに現実的な「落とし所」は失われてしまっているのではないかということだ。国民の多くは戦争に動員されたくないと考えているし、一方でプーチンの政権内部の基盤である右派勢力には「生ぬるい」という批判が強まっているという。これは戦時中に東條英機が置かれた立場と重なるところを感じるが、今回の併合宣言の演説内容にはそうした右派勢力への配慮が随所に感じられるものがあったようだ。

革命にしろ戦争にしろ、一度始まってしまったら関わっている人たちの意図を超えて動いていってしまうことが多い。それはよく「事物の勢い」と言われるが、つまり「いくところまで行ってしまわないと止まらない」ということだ。その「いくところまで」に関して今回の事態は誰もが脳裏を掠めるのは「核戦争の脅威」ということだろう。つまり、さらに戦況が悪化してプーチンの立場が危うくなってきた時に、右派に押されて限定核使用な石は全面的核戦争へ進んでしまうのではないかということだ。普通であればプーチンが辞任することで収められる可能性もなくはないが、独裁者がその権力を手放すということはかなり死を意味することに近いので、そういう決断が可能かどうかという問題にもなる。あまり追い詰められる前に辞任するのが世界にとっては良いシナリオだとは思うが、それが視野に入っているかどうかはよくわからない。

プーチンのビジョンがもしあるとしたら、世界の「キリスト教保守・右派のセンター」として力を維持することだろうと思う。今回の演説でもLGBTを否定するような内容があったようだし、そのこと自体はハンガリーなどの保守的思想の強い国や、各国の反リベラル層へのアピールにはなるだろう。プーチンは戦争継続のための大義が必要なわけで、その大義が「本来のロシアの復活」というナショナリズム的なものだけでは足りなくなってきているから、「キリスト教右派主義・保守主義」的な正義を一つの旗印にして世界的な世論の支持を集めようとしているようには感じる。

いまだにロシアを支持する人たちにはそういう人が多いと思われるし、日本のようにむしろ「左翼リベラル」層が心情的にロシアを支持している国というのはあまり多くないのではないか。いまだに反米=親露の冷戦思考に囚われ続けているということだから。彼らもロシアの現況や彼らの行為、また世界でロシアを支持する人たちがどういう人たちなのかということをきちんと見ていくことができれば、おいそれと親ロシア的な発言もできないのではないかと思うが。

ただ、アフリカをはじめ英米的な自由主義世界、特に帝国主義から宣教師的自由主義、また近年格段に強まっている新自由主義的な収奪に対して反感を持つ国々は実際に少なからずあるわけで、彼らの心情はむしろそういう国々を支持しているつもりなのかもしれないなという気もする。アフリカなども結局は欧米への反感からロシアを「支持」しているわけで、「対立軸としてのロシアへの期待」というものがまだまだ大きいというか、少なくとも失われてはいないということなんだろう。

私も基本的には「新自由主義」や左翼的に傾きすぎた「リベラリズム」や「ポリティカルコレクティズム」に対しては反対だ。

特に最近明らかになってきたLGBTをめぐる日本の主流の考え方=「「男の娘」に典型的に見られるように性自認そのものをあまり問題にせずグラデーション的に考える」と、「性自認が男であるか女であるかを全ての出発点と考えるアメリカ的な思考」の対立は、伝統的に受け入れられてきた性的少数者のあり方を変えてしまう可能性があり、返って困難をもたらす恐れも感じられる。

だから私ももちろん対立軸は必要だと思うのだが、それをロシアに求めるのはチンピラを追い払うために暴力集団に加担するようなもので、あり得ないと思う。

もう一つ、特に我が国にとって重要なのは中国の反応だ。ルガンスクやドネツクの「人民共和国」をでっち上げたことなどについては中国共産党内部でも「偽満州国ではないか」という反発はあったそうで、そういうロシアのやり方を中国がどう受け取るかということだと思う。

まあアメリカもテキサス併合やハワイ併合の際には似たようなことをしているので、このやり方を非難するとアメリカ自体が火の粉を浴びる面もある。中国もまた、台湾併合を大義としているわけで、今回のウクライナ侵攻についてはそれが可能かどうかを見るテストケースのように見ているところもあると思うのだけど、あまりにもロシアのやり方が杜撰だしめちゃくちゃで、あまり参考にならないと思っている気はするが、細部についてはしっかり研究はしているように思われる。

ロシアは少なくともソ連という形で1991年までウクライナを包摂していた歴史があるわけだが、中国が台湾を失った1895年以降、台湾が大陸政権の一部であったと言える時期は1945-49の国共内戦期のみであって、共産党政権が成立して以降の73年間は別の政権が支配しているのだから、中国が台湾を支配する正当性も本当はそんなに強くない。それを世界に認めさせるためには今のロシアのやり方が逆効果であると見てはいると思うが、もし4州占領=ロシアのいう「併合」のままで停戦になるようなことがあったら、多少の無理は可能だと中国が考える可能性もあり、台湾有事=中国vs日米の戦争が勃発する懸念も強まってしまう。日本としてもここはウクライナを強く支援することが日本周辺の安全保障にとっても重要なことは間違い無いだろう。


とりあえず世界情勢についての自分なりの現状認識をまとめてみたが、実際のところかなりさまざまな複雑な情勢があることは確かだ。しかし一番はっきりさせておくべきはやはりロシアのウクライナ侵攻は認められないということだろう。

ただ、「暴力による現状変更」が日本国内でも起こってしまったように、現実として「暴力」というカードが復活しつつあるように思われる。

もし「戦後」民主主義というものが「戦前の暴力的な体質」から脱却し、議論と交渉によって政治を進めていく決意の現れだとするなら、むしろ強く暴力を否定する姿勢を守っていくことこそが「戦前と違う日本」を現前させるための条件になるわけで、むしろ左翼リベラル側がそのように主張すべきなのだが、保守の側がそのようなことを言う状況になっているのは戯画的な感じがする。

恐らくは、「暴力に否定的な世論」と言うのは現状日本にとっての大きな達成だったと思うし、逆に「暴力に否定的な社会を守るための「実力」」と言うところまでしっかり考えられるようになっていけばさらに良いとは思う。

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