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駅弁を自分たちで作る

「明日から出張よね」出勤前の勝男に声をかける沙羅。
「うん、そうだが。そうそう出張先には午後入るが、あの弁当作らなくてもいいぞ。今回は泊まりだし。空の弁当容器を持って歩くのもあれだしな。だから駅弁で済ませる」

「ところがこれを見て!」沙羅が手に持ってきたものを勝男の前に見せる。「なんだそれは?」よく見ると使い捨ての弁当容器。それも箱が木でできている。

「どうしてそんなものを? どこで手に入れたんだ」
「ああ、3軒となりの弁当屋さん。3月いっぱいで閉店したでしょ。昨日買い物からの帰りに、その店ちょうど後片付けされていたの。そしたら向こうから声をかけてきて『もう使わない弁当箱だけど邪魔にならなければ』ってもらったのよ」沙羅の力説に勝男は口元が少し緩む。
「ということで、今日スーパーで良さそうなもの買って来て、明日の朝に間に合うように、手作りの駅弁用意しとくわね」

「ほう、わかった。じゃあ楽しみにしよう」
 こうして勝男は出勤する。

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 午後になり沙羅は近所のスーパーに出かけた。「さて、何にしようかな」売り場を見るとあるPOPが目に入る。「お、サバの特売かあ。うーんそうだ。これにしよう」沙羅は特売していた、ノルウェー産の塩サバ2枚を購入した。
「さてと、あの人魚好きだからちょうどいいわ。手作り駅弁は焼き鯖寿司行きましょう」エプロンをつけて気合の入った沙羅。スーパーに出かけている最中に少し固めに炊いておいた白飯が、予定通り炊きあがっていることを確認した。
 そして米酢と砂糖、塩をネットで調べた分量通りに混ぜ、寿司酢を作っていく。

「さて、サバを焼いておこう」次に買ったばかりの塩サバを取り出し、オーブンで焼き始めた。

 次に炊き立てのご飯をボウルに入れる。これに寿司酢をゆっくりと全体になじむように入れていく。
「こうやってしゃもじを通じて流し込むと、確かに酢が偏りすぎずにいいわね」こうして沙羅はスマホの動画を見ながら作っていくのだ。

「さて、混ぜるわよ」再び気合を入れなおした沙羅。数秒ほど待ってからしゃもじを動かしだす。「よっこいしょっと」
 しゃもじを力強くご飯に差し込み、そこまで入れていく。そしてそこからご飯をひっくり返すように混ぜた。これをしばらく続けると今度はまるでごはんを切っていくかのように、しゃもじを縦にして混ぜていく。

「あ!」慌ててオーブンに向かう沙羅。ちょうど良い焦げ目がついたので鯖を裏返す。そしてまた戻ると、しゃもじが生きているかのように動かしながら、満遍なくご飯に巣を浸透させた。

「ふう、もっと難しいと思ったらそれほどでもないわね」次に片手で持てるミニ扇風機を持ってくる。
「うちわなんて原始的なものは使わないもん」と沙羅はつぶやく。扇風機のスイッチを入れた。扇風機の羽根が豪快に回転速度を上げる。そして寿司飯に風を送ってで冷まし始めた。まだ白い湯気が出ていたごはんであったが、いつしか湯気が消えていく。
「さてこんなところかしら」と沙羅が温度を確認するとちょうど人肌くらいだ。

「よしこれでっと」沙羅は濡れたさらしのふきんを持ってくる。そのまますし飯の上にかぶせた。
「よし鯖はどうかしら」次に沙羅はオーブンを開ける。すると見事に良いあんばいに焼けていた。一番背のあたりが青黒く、徐々に色が緑色から最後のほうは茶色に染まっている。もちろん焦げてはいない。見るからに食欲がわく焼き加減。

 焼きあがった鯖を冷ます。ここでも片手扇風機が威力を発揮。サバにヒレがついていたのでそれを取る。いったん裏返して骨も取り除いた。ここで沙羅はラップを用意。
 ラップを張り、一番下に冷ました焼さば。その上にはスーパーで買ってきたガリを置いた。そして先ほど作ったすし飯をサバの大きさに合わせるようにその上から載せていく。あとはラップでくるむとそこから力いっぱい押し上げる。
「できた!」沙羅は完成した2本の焼き鯖寿司を自慢げに眺めた。

「あとは1本を切って弁当箱に入れるだけね。あと1本は私のもの。切るのは明日の朝で間に合うでしょ」
 そういって沙羅は完成した鯖寿司を冷蔵庫に入れる。

ーーーー

 翌日は少し早く起きた沙羅。昨日作った焼鯖の棒寿司を木の弁当箱に入れた。その後は箱と一緒に貰ってきた醤油さしに醤油を流し込む。それを入れて蓋をしたら輪ゴムで止めた。割りばしを挟む。あとは使い捨ての風呂敷で包めば、手作り駅弁が完成した。

 こうして出発する勝男の手元に手作り駅弁が渡され、一緒に出張の旅路に向かう。

 勝男は岡山から四国に向かう特急列車の中にいた。
「4月10日は駅弁の日か。そして今から渡る瀬戸大橋が開通したのも同じく4月10日」
 勝男は車窓から見える風景を眺めながら、間もなく瀬戸大橋で四国に渡るタイミングを待っていた。
「このタイミングで、沙羅の作った手作り駅弁を頂こうか。焼き鯖の棒寿司って言ってたな。これは楽しみだな」 
 ピンクの使い捨て風呂敷に包まれた長方形の木の箱。割り箸がついている。そして木のふたを開けると、細長い焼鯖の棒寿司が姿を現した。

 ちょうど列車は瀬戸大橋に突入。列車は橋を渡る際に鳴り響く、鉄橋の音を出しながら四国に向かう。
 そして車窓から見えてきた瀬戸内海。見たところ波がほとんどなく、非常に穏やかだ。ところが勝男は弁当を見るとそんな穏やかな気持ちが無くなった。「あ、この寿司切ってない。仕方がないかぶりつくか」と口から弁当に向かう。そして割り箸で固定した焼鯖寿司を丸かじりする勝男であった。


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