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??? 第858話・5.31

「??? いったい、これは」私は今の状況が飲み込めないでいた。私は今なぜか海に流されている。それだけではいいが、なぜか横に猛獣がいた。だがこの猛獣は被り物のような気がする。中の人がいる模様。といいながら私も何かを頭に被っているようだが、自分自身なので何を被っているのか見えない。取り外したくとも波が激しく、手に持っているドクロが付いたオールでバランスをとらないとすぐに海に落ちそうな雰囲気。つまり現状何もできないのだ。

 私はこの状況になる前の記憶を思い起こそうとした。私はおそらく普通に街に生活しているはずだ。だけど記憶が思い出せない。「私は誰?いや誰かはわかっている」直前の記憶はないが、私が何者なのかは私自身の事はわかっている。いわゆる記憶喪失ではないと思う。だけど直前の記憶がない。最後にある意識はのは1週間、1ヶ月、どうだっけ?
 よくわからないが、恐らく私は誰かに拉致されて、何か拷問のようなものを受けたのかもしれない。その後、何らかの理由で海に流されたような気がした。
「おい!おまえ、人だよな」私はとりあえず被り物をしている横の人に話しかけた。まったくわからないままこの状況下において、見た目が被り物というだけであり、本当に中に人が入っているのかすらわからない。被っていたとしてもそもそも誰、年齢は。それから性別は......。

 話しかけてからちらりと猛獣の方を見たが、猛獣は黙って座っている。座っているが、微動だにしない。私はオールでバランスをとってどうにか落ちないように体制を整えているが、この横にいる猛獣は何もしない。
「ちょっと、聞いているの?この状況をどうにかしてよ!」私はなおも猛獣に話しかけたが、猛獣は黙ったまま。「人が入っていない。入っていたとしても意識がない?または眠っている??」

 私はもうこの猛獣の事を気にすることをやめた。「とにかくこの場所からどうにかしなければ」私はわからないまま近くに陸地がないか探す。だがそう簡単に陸地が見つかるわけでもない。風は強くて全身に潮気交じりの湿った圧力が肌にぶつかってきた。波も強くて前後左右によく揺れる。また波の飛沫し、直接冷たい海水が体にあたった。
 それでもバランスは奇跡的に保たれている。私は、ただ状況を流れるに任せるしかないと思い、わからないままにバランスをとった。

 どのくらいたったのだろう。私は長時間起きていたのか急に疲れてきた。突然あくびをしたかと思えば睡魔が襲う。と言っても寝たらもう絶望的になるに違いない。最初は恐怖におののいた状況だが、それも体が慣れたのか単調になってしまった。そのせいで瞼が閉じ始める。私は瞼を閉じさせないように必死に目に力を入れた。さらに全く役に立っていないオールを思いっきり動かして気を紛らわせようとしてみる。海を語句というより空中で上下左右に回すなどしたが、だんだんそれすらも無意味になってきた。

 その時、前方に黒い塊が見える。「り、陸!」と私は思ったが、すでに体力を使い切り、瞼が上から強制的に閉じて暗闇となった。動かしていたオールは何かにぶつかったようだが、それを確認するまでもなく......。

ーーーーーー

「ここは?」次に私が気付いた時には、浜辺のようなところ来ていた。「あれ、陸に流されたの」私はどうやら生還したと思い喜んだ。ふと目の前にいると先ほどの猛獣がいて、立ち上がって私を見ている。だが猛獣の首から上は人間の男性であった。「やはりあれは被り物だったのか」

「よかった。君のおかげで助かったよ」と初めて猛獣が言葉を発する。「え、ど、どういうこと?」「実は俺たちは」猛獣姿の男が語りだす。彼の説明でようやく今までの経緯がわかった。

 どうやら私は何らかの理由でターゲットになり、10日以上前に秘密の組織に拉致されたそうだ。拉致されると組織に被り物を着せられて、動物園のようなところに入れられ、動物の役をやらされた。さらに何か薬のようなものを飲まされて抵抗できなくなっている。
「奴らは新たな野望のために人体実験を繰り返しているんだ」男は力強く語った。「俺は警察内部の秘密組織にいる捜査官だ。その組織を探るために潜入捜査で組織の下にいた。わざと拉致されて動物の役をやらされながらも、動かぬ証拠をつかんだ。そこで脱出を試みたが、ちょうど君が横にいたので一緒に逃げてきた」
「それでこんな着ぐるみを」「ああ」ここで男は、私の被っている物を外してくれた。見るとワニの着ぐるみを着ていたようだ。
「無事に組織のいる島から脱出はできたが、奴らの施した薬により俺は睡魔に襲われた。君はその時は意識を失っていたが、俺は最後の力を振り絞り、思いっきり君に体当たり。それから俺の記憶が飛んだ」

「もしかして......」私はその時の衝撃で運よく目覚めた。だが組織の薬の影響が残っていたのか。前後の記憶があいまいだったのだろう。
「そうだろうな。組織の開発した薬で拉致した人間の意識をもうろうとして意のままに操る実験にしていたのだろう。だが君が目覚めてくれた。次、俺が目覚めるまで、どうにかあの小さな船を操作してくれた。ありがとう」男は礼を言う。
「でも、私......」ここで私は直前の記憶をたどる。私は最後に瞼が閉じた直前にオールに何か当たった気がした。
「そう、君からの一撃で俺は目覚める。見れば陸地が見えていたので、俺はそこからこの浜辺まで漕ぐことができたのだ。君の一撃がなければどうなっていたか」ここで男は初めて笑顔になる。

「で、でも酷い。その組織、どうにかならないのですか!」私はようやく落ち着いたのか、急激に訳も分からず拉致して動物役を強制させられた組織に憎しみが湧く。「安心してくれ。すでに、捜査当局が動いている。島も特定できているし、間もなく秘密組織は一斉に捜査し、君同様に拉致されて動物の役をやらされている人たちが保護されるだろうな」
 と男が、語った。「ほら、あれだ」男が指さした。私が見ると、数隻の船が沖合に向かっている。自衛隊の艦隊?かどうかわからないが、遠くから見ても武装していることは間違いない。

 私たちが沖合の船を見ていると「あ、いました。ようこそ御無事で」との声と同時に数人の姿が現れる。それは私たちを助けに来た人たちだ。


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