見出し画像

闇の先の光は昼?  第757話・2.19

「おお、あれって昼っていうのではないでしょうか?」暗闇の水の中を漕いでいる船に乗っているひとりの男。周囲の暗闇とは明らかに色合いの違う光輝く存在を見てつぶやいた。
「ほう、昼か、そうだ長老様から聞いたことがある。昔はこの世界も昼という光の時間と闇が交互にあったそうだな」男よりも倍以上年を取った船頭が懐かしそうに答える。

 かつては昼と夜があった世界。だがある日を境に昼は無くなった。それまで当たり前のように昼がありそれが暮れて夜になったが、その後いつまでたっても暗いまま。再び昼になるための日が出てこない。世界中が大混乱に陥りながら原因を探してもわからないのだ。昼を作っていたお日様の存在を探そうと、いくらレーダーなどで確認しようとも、あるとき忽然と姿を消して何もない。
 最初は皆既日食のようなものではとみんな思ったが。日食どころか本当に何らかの存在の前に食われてしまったのだ。

「長老が子供の頃のできごとって言ったから、もう50年以上も前の話だな。俺も生まれたときは、すでに闇しか知らねえ」「でも、僕、実は見たことあるんだ!」「え?」 
 男は勢い良く語りだす。「僕の通っている研究所で、昔の記録映像として昼というものを見たんです。びっくりしました。本当に光の世界はまばゆいばかりの鮮やかな空間。だからもう忘れられないんだけど。あれ見てたら、その世界にそっくりなんです」男は光る方に腕を伸ばす。
「ほう、あんなに光るものが、噂の昼と言われるものなのか」船頭は興味本位で遠くに見える光を眺める。

「船頭さん、行ってみませんか、光の先に」「え?ち、ちょっと待てよ」男の提案に戸惑う船頭。「なんで、一生に一度見れるか見れないかの光の世界ですよ。どうして戸惑うのですか」
 男は若いのか好奇心が旺盛。だが船頭はそこまでではなくやや気持ちが保守的なのだ。「いや、わかるよ君の言い分は、だけどちょっとやばそうだ。これ多分目がいかれちまうかもよ」
「え?」船頭の言葉に少し慌てる男。「な、何で目がやられるっていうんですか?」

「ああ、それはな。これも長老からの話だけど、光というのは相当強い刺激らしい。長老が経験したときのように昼と夜がある時間で定期的に来たときは、まだ問題なかったが、昼を知らない世代が昼の明かりを知った時に、光に慣れていない目がやられるかもしれないって言ってた。本当かどうかは知らないがな」
 男は一瞬身震いした。確かに記録映像を見たときも昼の世界はまばゆく、映像と言えども長時間は見られなかったのは事実。そのあと確か目が異常に疲れた。それがリアルに昼の世界。光の世界に身を置いたとき、果たして目が持ちこたえられるか自信がない。場合によっては失明してしまい、以降は何も見えなくなるリスクすらあるのだ。

「で、でも行ってみたい」男は唸るようにつぶやく。それを聞いた船頭は小さくうなずくと。
「わかった。じゃあこれをかけな。君にくれてやるよ」そういうと船頭はポケットからサングラスを取り出した。「それは?」男はサングラスを知らない。
「どうもこれが強い光から目を守るもののようだ。俺も亡き父からもらった形見なので使ったことがないが、父も昼の世界を知っていたから死の間際にさ、確かこう言ってたんだ」ここで船頭は大きく息を吸い軽く吐く。そのあと父の臨終前の時を思い出す。
『わしは、もう駄目だ、願わくばもう一度昼の世界を見たかったが、もう昼の世界は戻ってこない。これはサングラスと言って昼の世界があった時に、強い光から目を守ってくれるもの。もし将来昼の世界が戻れば、お前、目を守るためにこれをかけるんだ』船頭は語り終えると再び息を吸いゆっくりと息を吐いた。
「そ、そんな大切なもの。船頭さんは僕と一緒に昼の世界に行ったらどうするの?」

「俺は行かないよ」船頭はつぶやく。「それひとつしかねえ。俺はこの先途中、上陸できる岩場があれば、そこで下船する」「え?」
「だからこの船を貸してやろう。だから光の先、もしそこが仮に昼の世界だとしたら、あとは君が船を漕いで見に行ってくるのが良い。それでしっかりと昼の世界を記憶にとどめるんだ」

「せ、船頭さん、ありがとう」男は何度も頭を下げる。船頭はそのまま光の方に向かった。光の先まであと100メートルくらいだろうか。「あそこに岩場があるな。よし俺はここで降りる。あとは行ってこい」
 船頭はそういうと大きな岩場に船を止めた。こうして船頭は船から岩場に移動した。

「船頭さんありがとうございます。僕必ず光のある昼の世界を見たらすぐにここに戻って船頭さんにこの船をお返しします。ではしばらくお借りしますね」
 にこやかに笑う船頭に何度も頭を下げながら男は、船を漕ぎだした。そして男はサングラスをかける。「よし準備万端だ。あの光の世界に行ってみよう。あれが噂の昼の世界。でも何ぜ急にそんな世界があるんだろう。いや、いい、まずは行ってみる。それからのことはその後に考えよう。

 男はそう言って力強く船を漕ぐ。こうして光のある方向に男は吸い込まれていったのだ。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 757/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#光の世界
#昼間
#眠れない夜に

この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?