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書きもの

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創作小説(短め)を集めています。お暇なときにご覧ください。
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記事一覧

【ピリカ文庫】「ふわり夕闇」

アスファルトは火傷しそうだ。 靴を履く人間ならまだしも、素足で過ごす犬ならなおさら。 コテ…

高遠菜萌
1年前
49

【ショートショート】「変身しないで」

足元に瓦礫が落ちている。 よろめきながら僕は歩いていた。時計をしていないので今が何時なの…

高遠菜萌
1年前
39

【冬曲でショート】冬来たりなば

今月も残りわずかだ。 立春が近い。 なんとなく日差しが柔らかくなったのは気のせいだろうか。…

高遠菜萌
2年前
12

【手のひらの話】「陽炎ベンチ」

夕方とはいえど青空が覗いている。 先ほど夕焼け小焼けのメロディを聞いたはずだが。この町で…

高遠菜萌
2年前
6

【手のひらの話】「見てる人は見てる」

朝からバタバタしていた。 いろんなことが自分の思いもしない方向に転がっていく。 こんなは…

高遠菜萌
2年前
11

【企画参加作品】ゾンビ1000「2人だけ ~we're all alone~」

駆け込んだ。 奥に灯りがついている。様子をうかがいながら進む。誰もいない。 この界隈は危…

高遠菜萌
2年前
13

「ほわっとちやんと黒ガトちゃん」

「今日は誰が連れて帰ってくれると思う?」 黒ガトちゃんは唇を尖らせながら聞いてきた。 ここはお店の中。私達はひそひそとお喋りする。 「この時間だと学校帰りのあの子かな」 あの子はチョコが好き。だから黒ガトちゃんを選ぶはず。 私も香りなら自信があるんだけどな。 ふんわりバター。きっと幸せな気分になると思うんだけど。 「でも続けては来ないかも」 そっぽを向いた黒ガトちゃんは寂しそうに呟いた。 「なんかダイエットの話してたし」 私達は待つことしかできない。 精

【手のひらの話】「土曜日部長と畑にて」

早朝にアラームが鳴る。 土曜日なのにおかしいな。設定した憶えがない。 朦朧とした頭を起こ…

高遠菜萌
2年前
5

【手のひらの話】「雨はまだ」

ここを歩くのは久しぶりだ。 いつもはオレンジ色の自転車で走り抜けている。入り口には公園名…

高遠菜萌
2年前
6

「最後の言葉は『ん』」

まるで、いびきの森だ。 雑魚寝でびっしりと床が埋まっている。 サークルの打ち上げの夜、帰…

高遠菜萌
2年前
38

【手のひらの話(少し長め)】「追憶の夜に」〜前編〜

火照った頬が心地よい。 ここは程良く冷房が効いていて、静かだ。 ジャズか何かのピアノの音…

高遠菜萌
3年前
7

【手のひらの話(少し長め)】「追憶の夜に」〜後編〜

「もう一杯だけ飲んじゃおうかな」 俺を見透かしたように倉木は言った。 「結構飲める方?」…

高遠菜萌
3年前
9

【手のひらの話】「おかえりのひと 」

久々に晴れ渡った日の午後、彼は部屋を出て行った。 正確に言うと「出ていったようだ 」。 …

高遠菜萌
3年前
9

【ピリカ文庫】あじさい【ショートショート】

会いたい人がいる。 部屋の真ん中で、ポストカードの入った箱をひっくり返した。 美術館や旅先で買い集めた数々。色とりどりの世界の中から一枚。今の季節に合うもの…どれがぴったりだろうか。指先が迷う。 弱い雨が降り続いている。 会いたいけれど、きっかけがつかめなかった。ぽつぽつとメールのやりとりはしている。近況も何となくは知っている。 でも会いたいと口に出すには勇気がいる。まだお互いがもじもじしているような間柄だ。 おまけに。 昨年は一度も会えなかった。気軽に出かけ